先週の振り返り=「米国売り」再燃の懸念も浮上、米ドル142円台へ下落

金利差とは無関係で「弱さ」が目立ち始めた米ドル

先週(5月19日週)の米ドル/円は145円前後で取引が始まりましたが、週末には142円台まで下落しました(図表1参照)。米20年債入札の不調をきっかけに、米国株・米国債・米ドルの「トリプル安」が起こるなど、「米国売り」再燃の懸念が浮上した影響が大きかったのではないでしょうか。

【図表1】米ドル/円の日足チャート(2025年2月~)
出所:マネックストレーダーFX

米ドル/円と日米金利差(米ドル優位・円劣位)との関係を見ると、先週にかけて142円台まで米ドル/円が下落した動きは、米中の大幅な関税率引き下げ発表といった「サプライズ」をきっかけに一時148円まで上昇したものの、結局金利差で説明できる範囲に戻ってきたとも考えられます(図表2参照)。そうであればこの先の行方は金利差次第になるわけですが、それには少し違和感もあります。

【図表2】米ドル/円と日米10年債利回り差(2025年4月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

上記よりもう少し長い時間軸での米ドル/円と金利差の関係を見ると、むしろ2025年4月以降は両者の関係性低下の印象もあります。4月に「米国売り」の懸念から139円まで急落した米ドル/円は、その修正を試みたものの、再び「米国売り」相場の安値近くまで戻ってきただけであり、金利差の影響とは別のところで米ドルの弱さが印象的に感じられるのではないでしょうか(図表3参照)。仮にそうだとしたら、米ドルの弱さの背景は何なのでしょうか。

【図表3】米ドル/円と日米10年債利回り差(2025年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

巨額の第一次所得黒字の為替ヘッジ等=新たな米ドル売りの拡大

2025年5月に入ってから、台湾ドルなど一部のアジア通貨の急騰(米ドル急落)が注目される場面がありました。それについて一部の報道は「中国や台湾、マレーシアなどは米国に対して経常黒字を積み上げ、稼いだ米ドルを預金や米国証券に変えてきた」として、それらの為替ヘッジ(損失回避)や台湾ドルへの交換を急いだ影響が大きかったのではないかと解説していました。

この「稼いだ米ドルを預金や米国証券に変えてきた」とされるのが、日本の場合それに該当するのは経常収支の中の第一次所得黒字ではないでしょうか。2024年度の経常黒字は30兆円と過去最高を記録しましたが、それを尻目に一時は161円まで米ドル高・円安となりました。それは経常黒字の主役である第一次所得黒字の大半が「米ドル預金や米国の株、債券などでの運用益」であり、その円買いへの貢献が限られたことが一因と見られました(図表4参照)。

【図表4】日本の経常収支と米ドル/円(2000年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

上述の台湾のケースのように、日本の場合なら2024年度に過去最高の41兆円を記録した第一次所得収支の「巨額黒字」、その目減りを回避するための為替ヘッジなどが広がり、米ドルの上値を抑え出したことで、米ドルは金利差で説明できる以上に弱さが目立つようになってきた可能性もあるのではないでしょうか。

米国からの円高圧力なしでも円安が一時的かつ限定的となった理由とは?

先週(5月19日週)は、日米財務相会談も行われ、注目された米国からの円高圧力は今回も特になかったと見られます。それを受けて米ドル高・円安に振れる場面もありましたが、一時的かつ限定的な状態にとどまりました。

米国からの円高圧力は、当初はあったものの4月以降消えた可能性もあるのではないでしょうか。これまで見てきたように、4月以降「米国売り」リスクが浮上し、米ドル資産の為替ヘッジなど新たな米ドル売りが発生したことで、圧力をかけなくても米ドル安・円高に向かいやすくなった可能性があります。むしろ無理な圧力は、米ドル安・円高をコントロール不能にしかねない懸念さえ出てきたのではないでしょうか。

以上のように考えると、日米財務相会談後の円安が限られ、すぐに円高が再開したのも理解できます。目先の焦点は、トランプ政権からの円高圧力ではなく、放っておいても弱さが目立ち始めた米ドルが、いつ下落ペースを加速させるかということではないでしょうか。

今週の注目点=減税の米議会審議続く中、米財政リスクへの懸念も拡大

今週の米ドル/円予想レンジは140~144.5円

今週(5月26日週)は、雇用統計や小売売上高ほど注目度の高いものではありませんが、2025年第1四半期の米GDP改定値など米経済指標の発表を見ながら、関税などトランプ政権の経済政策の影響が米国の景気や物価にどのような影響をもたらしているかを見極めていくことになります。

また、トランプ大統領の経済政策の中で、関税とともに二本柱の位置づけである減税についての議会審議が続く中で、米国の財政リスクへの懸念も浮上してきました。こうした中で、米トリプル安、「米国売り」の再燃も引き続き要注意と言えそうです。

これまで見てきたように、米ドルの弱さが目立つ中で、米ドル/円は反発力が限られ、きっかけ次第で下落が広がるリスクが高くなっているのではないでしょうか。そうしたことを踏まえた上で、今週の米ドル/円の予想レンジは140~144.5円で想定したいと思います。