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第6回目は、AI時代の覇者は誰か?キャシー・ウッド氏が語るアマゾン・ドットコム[AMZN]と破壊的イノベーションの行方をお届けします。
ARK社が予想するアマゾン・ドットコム[AMZN]の未来:マグニフィセント・シックスが支えた市場構造とその限界
岡元:アーク・インベストメント・マネジメント(ARK社)は、いくつかの運用戦略の中でアマゾン・ドットコム[AMZN]を保有されていますね。破壊的イノベーションという観点から見た場合、アマゾンへの投資の基本的な理由はどのようなものなのでしょうか?
ウッド氏:アマゾンは私たちのポートフォリオの中では、基本的にトップ10には入っていませんが、保有はしています。私たちは、マグニフィセント・シックスと呼ばれる銘柄群(アップル[AAPL]、アマゾン・ドットコム[AMZN]、マイクロソフト[MSFT]、エヌビディア[NVDA]、メタ・プラットフォームズ[META]、アルファベット[GOOGL])を見るとき、「彼らはここまで市場を牽引してくれた」と考えています。
「マグニフィセント・シックス」――これら6銘柄は、私たちが今生きている世界そのものをつくり上げてきた存在です。これまで圧倒的な成功を収め、市場全体がこれらの銘柄に集中する傾向がありました。しかし今、私たちが注目している破壊的イノベーションの多くは、彼らが築き上げた旧来の世界秩序を打ち壊すものでもあります。
エージェンティックAI時代にアマゾンは生き残れるか?
ウッド氏:アマゾンについて、私たちは特に小売事業の将来性について考えています。今後、エージェンティックAI(個人用AIエージェント)が普及していく中で、私たち自身が買い物をする代わりに、AIが最適な商品を自動で選び、注文を代行する時代がやって来るでしょう。そのとき、これまで私たちが“反射的に”選んでいたアマゾンが、果たしてそのAIにも選ばれる存在であり続けるのか――これは非常に重要な問いです。AIエージェントたちは、人間のように「とりあえずアマゾンで検索」ではなく、世界中から“最も価格が安く、品ぞろえが豊富で、配送が早い”選択肢を自動で探し出すようになります。そのとき、アマゾンが選ばれるとは限らないという可能性があります。
ただ、直近の決算でアマゾンが示した内容には安心感もありました。初めて明確に「アマゾンの価格水準は業界平均より14%低い」と発表したのです。これにより、AIショッピングエージェントにとっても“最適解”としてアマゾンが選ばれる可能性は十分にあると判断しています。とはいえ、TemuやSHEINといった新興勢力の台頭も見過ごせません。アマゾンの小売事業が将来的に安泰かどうかは、依然として重要な観察ポイントです。
一方で、アマゾンには極めて強力なAmazon Web Services(AWS)という武器があります。現在、アマゾン全体のキャッシュフローの60%以上をAWSが生み出しており、企業価値に占める比率もそれ以上に達していると見られています。私たちの「Big Ideas」レポートに掲載している別のチャートでは、今後のテックスタックにおける価値の移動が「アプリケーション層からインフラ層(クラウド)へシフトしていく」と予想しています。テックスタックの構造において、インフラとはつまりエヌビディア[NVDA]のGPUなどを使うクラウドサービスの提供者たちのことです。その意味で、AWSはまさにこの構造変化の中心に位置しており、アマゾンにとっての長期的な成長ドライバーになる可能性が高いと考えています。
SaaSからPaaSへ:企業の開発力が変える業界地図
ウッド氏:例えば、パランティア・テクノロジーズ[PLTR]やギットラブ・インク[GTLB]などの「プラットフォーム・アズ・ア・サービス(PaaS)」の提供企業が、今後極めて重要な役割を果たすと私たちは考えています。特にパランティアは、その中でも最も重要な存在だと位置づけています。一方で、従来の「ソフトウェア・アズ・ア・サービス(SaaS)」モデル――これは“画一的なサービス”であるという性質上、近年ではIaaS(インフラ層)やPaaS(プラットフォーム層)にシェアを奪われつつあるのが実情です。この流れは今後も続くと見ています。
具体的には、インフラ層(IaaS)はシェアを大きく変えることはなく、プラットフォーム層(PaaS)は大きくシェアを拡大し、SaaS層はシェアを失っていくと考えています。
とはいえ、セールスフォース[CRM]やサービスナウ[NOW]といった代表的なSaaS企業が「駄目になる」という意味ではありません。むしろ、こうした混乱や構造変化の中では業界再編が進み、彼らが生き残っていく可能性も高いと考えています。ただし、シェアの重心は確実に変わっていくでしょう。背景には、企業内のソフトウェア開発力の変化があります。
エンジニアの生産性は、ここ数年で既に2倍以上に向上しており、これは生成AI(Generative AI)による変革が加速しているからです。これがさらに進めば、企業はSaaSを外部から買うのではなく、自社でカスタマイズしたソリューションを構築する方向へとシフトしていくと見られます。したがって、勝者はPaaS層であり、その中でもパランティア・テクノロジーズが最も有力かつ戦略的に重要なプレイヤーだと私たちは見ています。
プラットフォーム層(PaaS)が拡大するとはいえ、それを支えるインフラ層(IaaS)の存在は不可欠です。そしてその代表的存在が、言うまでもなくAmazon Web Services(AWS)です。現在、アマゾンは自社開発のチップ「Graviton(グラビトン)」や「Inferentia(インフェレンシア)」を通じて、エヌビディアとの競争にも挑んでいます。これらのチップは、現在統合が進められているようで、今後はインフラスタック全体でより強いポジションを狙っていることがうかがえます。
AWSは、最初に登場した大規模Webサービスの提供者であり、今でも依然として最大規模を維持しています。ただし、マイクロソフトのAzureやGoogle Cloudも競争を激化させており、シェア争いは熾烈になってきています。とはいえ、生成AI(Generative AI)によって、システム全体のパフォーマンスや生産性がさらに向上し続ける限り、膨大なデータセンターやWebサービスの需要は拡大し続けると見ています。少々回り道になりましたが、これがアマゾンに対する私たちの見方の一端です。
AIはまだ序章――本番はこれから:AGI(汎用人工知能)の予測とパランティアの鍵となる役割
岡元:AIの台頭、特に2022年末のChatGPTの一般公開以降の動きは、1994年末のNetscapeブラウザ登場後にインターネットが本格普及していった流れとよく比較されるようになってきました。インターネットの場合、バブルのピークとなった2000年までに約5年かかりました。
これに対し、現在のAIサイクルはスタートからまだ2年あまりです。まず、最初に伺いたいのは、このAI主導のテーマが、株式市場で支配的な存在として機能し続けるのは、あとどのくらいの期間になるとお考えですか?
ウッド氏:私たちは、AIの進化にはまだまだ大きな余地があると考えています。本当に「これからが本番」と言っても過言ではありません。多くの人は、大規模言語モデル(LLM)がやがて性能の伸びに限界を迎え、データ不足などで成長が鈍化すると予想していました。しかし、現時点でそのような兆候は全く見られません。
実際、インターネット上のデータは、世界に存在する膨大なデータのほんの表層にすぎません。真に価値あるデータは、世界中の企業や政府機関の中にロックされたまま存在しているのです。だからこそ、パランティア・テクノロジーズのような企業が極めて重要な存在になるのです。
企業や官公庁の中には、何世紀も前の記録を保持しているところもあります。たとえば、オックスフォード大学には1600年代まで遡る文書が残されています。AIはまだまだ学ぶべきことが山ほどあります。そして私たちが思っていた以上に、AIの学習素材となるデータの量は膨大なのです。ChatGPTが登場した当初、誰もが「インターネット上の情報」が最初のターゲットだと考えました。そして確かに、それは「取りやすいデータ」でした。しかし実際には、日々生まれ続けているリアルタイムデータ(たとえば自動運転など)もあり、学習対象の広がりは止まりません。つまり、我々はまだ始まりにすぎないのです。そして、技術の進化スピードもかつてないほど速くなっています。
現在、AGI(汎用人工知能)の登場は2026~2027年ごろになると多くの専門家が見ています。イーロン・マスク氏は「我々は実質的にそこに到達している」とさえ述べています。私たちの理解では、これはつまり「人間がテクノロジーを正しく活用すれば、人間を超える知性(スーパーヒューマン・インテリジェンス)に進化し、創造性をさらに高めることができる」ということだと受け取っています。
米中AI競争とオープンソース文化が加速させるグローバルイノベーション
ウッド氏:また、米中間のAI競争も加速しています。最近では、中国のDeepSeekが発表した「R1」というLLMが話題となり、米国側も改めて中国技術への敬意を持ち始めたように感じます。
DeepSeek R1の最終フェーズが高性能ワークステーションで約600万ドル規模でトレーニングされたと報じられましたが、実際のプレトレーニングには親会社が保有する5万GPUクラスターが使われた可能性が高いと見ています。
それでも注目すべきなのは、彼らがこのモデルをオープンソース化したことです。私自身驚いたのですが、中国におけるオープンソース文化はすでに10年以上の歴史があります。きっかけは、米国のソフトウェア企業が知的財産の盗用を懸念して中国での販売を控えたことにあります。その結果、中国では独自にオープンソースの開発文化が発展しました。
そのため、オープンソースは、中国にとってゲームチェンジャーです。なぜなら、「ディスティレーション」という技術(他の大規模モデルからコア構造を抽出し、自分たちのモデルのベースとする)を通じて、中国は高度なアルゴリズム構築を加速させているのです。そしてこの手法は今や世界中のAI開発者が取り入れつつあります。私はこの米中の競争状態を歓迎しています。互いに切磋琢磨することで、イノベーションの進化スピードは格段に加速するからです。
岡元:キャシーさん、いつもながら貴重なご見識をありがとうございます。とても勉強になりました。ぜひまたお越しください。次回お会いできるのを楽しみにしています。