ビザ[V]は、世界最大の決済処理企業です。世界200以上の国と地域で決済ネットワーク「VisaNet」を運営し、消費者、加盟店、金融機関、政府機関を結ぶ安全で効率的な資金移動を実現しています。2026年度第2四半期末時点での総発行カード枚数は51億枚に達しました。取引規模も巨大で、直近の3ヶ月間(2025年12月末まで)の決済ボリュームは3兆8680億ドルに上り、その市場シェアは61%に及びます(参考:マスターカード[MA]34億枚、アメリカン・エキスプレス[AXP]1.5億枚)。

注目したいのは、AI決済やブロックチェーンなどの新領域にも注力し、「決済のハイパースケーラー」へと進化を遂げている点です。足元では「Visa as a Service」という概念を掲げ、エージェンティック・コマースやステーブルコインへの対応、さらにAIを活用した不正検知など、決済のハイパースケーラーになろうとしています。

2026年度第2四半期業績:2022年以来の最高成長

2026年度第2四半期(2026年1月~3月期)の決算は、市場の期待を大きく上回る強力な内容となりました。純売上高は112億3000万ドルと前年同期比17%増加し、2022年以来で最高の伸びを記録しました。

この成長を支えたのは、世界全体での決済額が一定通貨ベースで前年同期比9%増加し3.7兆ドルとなり、さらにビザのネットワークで処理された取引件数も9%増の661億件に達したことです。消費活動の根強い回復と、Eコマースをはじめとするデジタル決済へのシフトが、業績の底上げに大きく貢献しています。

収益構造:「その他の収益」の爆発的な伸び

ビザの収益構造は、主に「サービス収益」「データ処理収益」「国際取引収益」「その他の収益」の4つから成り、そこから金融機関などの顧客に支払う報奨金である「インセンティブ」を差し引いて純収益が計算されます。

1.サービス収益:決済「金額」に連動

まず、決済「金額」に連動する「サービス収益」ですが、前四半期の決済額をベースに計算されます。今回は前年同期比13%増の50億ドルとなりました。特に米国では、クレジットカードの決済額が10%増、デビットカードが7%増と、ともに前四半期から成長率が加速しており、旅行支出やEコマースの好調がこの収益を牽引しました。

2.データ処理収益:決済「件数」に連動

次に、決済「件数」に連動する「データ処理収益」は18%増の55億ドルに達しました。これは処理件数の伸び(9%)を大きく上回る成長ですが、その背景には価格設定の最適化や、収益性の高いクロスボーダー(国境間)取引の比率が高まったことがあります。

3.国際取引収益:国際部門は20%増

その「国際取引収益」は10%増の36億ドルとなりました。クロスボーダー取引(欧州域内を除く)の決済額自体は11%増加しており、特に米国からの旅行関連支出やEコマースの流入が好調でした。地域別に見ても、米国内の売上高が13%増であったのに対し、国際部門は20%増と高い伸びを見せており、グローバル展開の恩恵を最大限に受けている状況が伺えます。為替などの影響を受けたものの、重要な収益源として機能しています。

4.その他の収益:セキュリティサービス、コンサルティング、マーケティング支援等

そして、今回最も市場を驚かせたのが、「その他の収益」の爆発的な伸びです。収益は「付加価値サービス(VAS)」と呼ばれる領域の成長により、前年同期比41%増の13億ドルに達しました。VASには、不正検知などのセキュリティサービスに加え、クライアント金融機関に対するコンサルティングや、オリンピックなどのブランド資産を活用したマーケティング支援が含まれます。

利益面でも顕著な伸びを示しており、純利益は前年同期比32%増の60億ドル、1株当たり利益(EPS)は36%増の3.14ドルとなりました。なお、買収関連費用や訴訟関連費用等を除外した非GAAPベースでは、純利益は17%増の63億ドル、1株当たり利益(EPS)は20%増の3.31ドルとなっており、事業の基盤が極めて健全に拡大していることが示されました。

決済ボリュームに左右されにくい安定した高収益源が成長

ビザは現在、「消費者向け決済」「法人向けおよび資金移動ソリューション」「付加価値サービス(VAS)」の3つを成長エンジンと位置づけています。これらは従来の決済手数料以外の収益です。

中でもコンサルティングなど「付加価値サービス」は実質ベースで27%増の33億ドルに達しました。総売上高の約3割に相当し、決済ボリュームに左右されにくい安定した高収益源としての成長が評価されています。経営陣は、この付加価値サービスはかつてないほど大きなビジネスチャンスで、現在の高成長も「まだ始まりに過ぎない」と強調しています。

不正検知、コンサルティング、マーケティング支援などを含むVASはビザの世界規模のネットワーク事業と密接に結びついており、膨大なトランザクションデータの処理をAIで強化することで生み出されています。収益の大部分が実際の取引やカード、口座に直接関連しているため、消費者向けや法人向けの決済が拡大すればするほど、VASの成長も自動的に促進される構造になっているのです。

例えば、決済の中で最も急速に成長しているEコマース分野では、承認率の向上や不正利用の削減を目的としてビザの付加価値サービスが多く導入されています。また、同じく高成長を遂げている富裕層向けカードにおいても、より充実した特典やロイヤルティサービスへの需要が高まっており、これがVASの収益を押し上げています。これらに加え、クライアント金融機関に対するコンサルティングや、オリンピックなどのブランド資産を活用したマーケティング支援も絶好調です。

もうひとつの成長エンジンである法人向けの「資金移動ソリューション」も実質ベースで24%増と急成長しており、個人間送金や給与支払いなどに使われる次世代インフラ「Visa Direct」の取引数も23%増加しました。

このように、ビザは単に決済回数が増えたことによる恩恵を受けているだけでなく、送金インフラの多様化やコンサルティングといった新しい収益源(ニューフロー)を確立することで、マクロ経済の不透明感がある中でも、力強い成長を実現しています。

成長投資:AI、暗号資産、そして買収

また、今回浮き彫りになったのは、ビザが既存のカード決済ビジネスを超えて、次世代の決済インフラとしての地位を固めつつあるという点です。CEOのライアン・マキナニーは、同社を決済界の「グローバル・ハイパースケーラー」と定義し、新たな技術領域への投資を加速させています。その戦略において注目されるのが、AI、暗号資産、買収です。

AI:AIエージェントによる決済の試験運用を開始

まず、市場の大きな注目を集めているのが「エージェンティック・コマース(AIが自律的に決済を行う新しい経済圏)」の取り組みです。ビザは「Visa as a Service」という決済機能のスタックを強化し、人間を介さずにAIエージェントが支払いを完結させる未来を見据えた基盤を構築し始めています。

具体的な動きとして、2026年4月に「Visa Agentic Ready プログラム」が開始されました。これはシンガポールを皮切りに、DBSやHSBCなど主要銀行13行と提携して行う、AIエージェントによる決済の試験運用です。この仕組みでは、ユーザーが事前に設定した予算やルールの範囲内で、AIが自律的に旅行の予約、消耗品の補充、サブスクリプションの管理などを代行し、決済までを完了させます。

AI決済で重要となるセキュリティ面に対しては、同月に「Intelligent Commerce Platform」も発表しています。決済を行おうとしているAIが「ユーザーから許可された正当なエージェントか」を瞬時に判別する信頼のレイヤー(Trusted Agent Protocol)を構築しました。ここではビザが得意とするカード情報の暗号化(トークン化)技術が応用されており、AIに対して「一度きりの決済権限」を付与することで、不正利用を防ぐ高度なセキュリティを提供します。

暗号資産:9つのブロックチェーンネットワークに対応

さらに、新たな価値移動のインフラとして暗号資産の領域でも重要な進展がありました。ビザはステーブルコインによる決済パイロットプログラムに、新たに5つのブロックチェーンネットワークを追加し、対応チェーンを合計9つに拡大したと発表しました。これにより、ステーブルコインによる決済実行額は年間換算で70億ドル(前期比50%増)に達しています。

ビザは既存の法定通貨とステーブルコインなどのデジタル資産をシームレスに繋ぐ「相互運用インフラ」としての地位を確立しつつあり、この発表によって株価は一時10%高を記録しました(2026年4月29日)。

決済事業によるキャッシュを成長と還元に振り分けられる好循環企業として高評価

純利益の8割がフリーキャッシュフローに

業績は好調です。将来の見通しについては、2026年度通期で純売上高、非GAAPベースの営業費用、および1株当たり利益(EPS)のすべてにおいて「10%台前半(low-teens)」の成長を見込んでいます。第3四半期単体でも、売上高は10%台前半、非GAAPベースのEPSは1桁台半ばから後半の成長を予測しており、不透明なマクロ経済環境下でも安定した成長が見込まれています。

決済取引から安定的にキャッシュを創出できるビジネスモデルは非常に強固です。2026年度上半期の営業キャッシュフローは98億ドルに達し、設備投資を差し引いたフリーキャッシュフローは上半期累計では90億ドルを創出しています。なんと純利益の8割がフリーキャッシュフローに変わっているということになります。

この潤沢な資金は、戦略的な投資と株主還元にバランスよく配分されています。例えば、2026年2月には、アルゼンチンの主要な決済処理会社PrismaおよびNewpayを15億ドルで買収しました。中南米市場におけるトークン化技術や生体認証、AIを活用したリスク管理ツールの展開を加速させる狙いです。

株主還元:18年連続増配の実績

株主への還元も積極的で、当四半期だけで79億ドルの自社株買い(前年同期比76%増)と13億ドルの配当を実施しました。配当は、18年連続増配の実績を持ち、年間平均約15%のペースで増額されています。配当性向は20%程度に抑えられており、残りは成長投資に応じて自社株買いを柔軟に行うスタイルです。同社の発行済み株式数は2010年以降毎四半期に2%~4%ずつ減ってきました。そして、複数年にわたる200億ドルの自社株買い枠が新たに承認されたことが今回の決算で発表されました。これにより1株当たり利益(EPS)の押し上げ効果が長期的に見込まれ、株価を支えることになります。

結論として、ビザは既存の決済ネットワーク事業によるキャッシュ創出力を最大限活用することができています。エージェンティック・コマースやブロックチェーンといった次世代の価値移動インフラへ大胆に投資し、一方では巨額の自社株買いで株主に報いることができています。マクロ経済の動向に左右されにくい「付加価値サービス」という新たな太い柱も育っており、決済の未来をインフラ側から支配する同社の株式は、中長期的な資産形成を目指す場合、魅力的なコア資産の候補になると思います。

【図表1】ビザ[V]年間配当推移
出所:Bloombergより筆者作成
※2018年~2026年、2026年は予想値(直近四半期実績を通期換算)
【図表2】ビザ[V]とS&P500の株価推移比
出所:Bloombergより筆者作成
※S&P500およびビザ[V]株価は2008年3月31日を1とした数値