アーク・インベストメント・マネジメント(以下、ARK社)の創業者キャシー・ウッド氏へのインタビューを2025年4月1日に行いました。ウッド氏は、「女性版ウォーレン・バフェット」とも称され、投資戦略についても投資家から注目されています。第1弾ではトランプ関税、AIの今後、テスラの展望、米国経済のうち、特にトランプ関税が米国経済に与える影響について詳細をお届けします。

トランプ関税政策の影響とは?「相互性」がカギとなる貿易政策の見通し

岡元:キャシーさん、お帰りなさい。

キャシー・ウッド氏(以下、ウッド氏):ハッチさん、またお招きいただき光栄です。

岡元:世界中の投資家や、日本のような貿易相手国は、トランプ米大統領の関税の発表について大きな関心を寄せています。この発表が最終的にアメリカ経済や世界経済にどのような影響を及ぼすとお考えですか?

ウッド氏:公表時期が近づくにつれて、トランプ米大統領は「報復」よりも「相互性」、つまり、お互いに同じように扱うべきだという話をするようになってきました。これは良い傾向だと思います。ただ、アメリカ国内でも混乱が見られましたし、世界各国でも不確実性が高まっています。

相互性を最終的な落とし所とするなら、それは非常に興味深い展開になります。というのも、アメリカに対して最も高い関税を課している国は、アメリカが彼らに課している関税と比較すると、ブラジルとインドなのです。仮に「関税」だけでなく「付加価値税(VAT)」も含めて比較するなら、多くのヨーロッパ諸国もその中に入ってきます。

私自身は個人的には関税も、税金全般も賛成しません。しかし、もし相互性の追求という名目で関税が上がる一方で、経済成長やイノベーションを促進するような減税が行われるなら、私はそれを受け入れられると思います。

そして、もう一つ理解しておくべきことは、トランプ米大統領という人物についてです。トランプ米大統領は、2025年1月20日の2回目の大統領就任以降、私たちの予想以上に不確実性を生み出してきました。まさに今は「嵐の目」の中にいるような状況です。市場はこのような不透明さを好みませんが、この嵐を抜けたときに、私たちは株式市場が予想以上に力強い状況にあることに驚かされるかもしれません。

嵐が去ったあとの市場は、「レーガン時代」あるいはそれを超えた「ステロイド版レーガン時代」のようになるかもしれません。それはとても好ましいことです。なぜなら、トランプ米大統領が自らの成功を判断する際に重視する2つの指標は、「経済成長」と「株式市場」だからです。今は確かに嵐の最中にいますが、最終的な目標を見失わないようにすることが大切です。

ローリング・リセッションの終盤戦:経済の主役が「政府」から「民間」へと交代

岡元:関税の詳細が明らかになった後、まだ悪くなる可能性はありますか?それとも、もう最悪な状況は終えたのでしょうか? 

ウッド氏:私たちは、これまでの不確実性や混乱が、アメリカ国内の消費者や企業の行動を慎重にさせていると考えています。経済を支えてきた「高所得層の消費者」までもが、今では中間層・低所得層と同じように消極的なスタンスに転じているのです。中間・低所得層は、インフレの余波の中でずっと消費を控えてきましたが、いよいよ高所得層までが「この大統領は次に何をするのか分からない」と不安を感じ、支出を控えるようになっています。

ですから、私たちは今、「ローリング・リセッション(部門別の景気後退)」の終盤に差し掛かっていると見ています。これまで米経済を支えてきたのは、住宅、自動車、中小企業、そして低・中所得層の労働者たちでした。AIデータセンターのブームがあったにも関わらず、資本支出も減少し始めています。そして、ここまで米経済を支えてきた「高所得層の消費者」と「政府支出」さえも鈍化しつつあります。

大切なこととしては、私たちは今、私たちは今、政府自体が約30年ぶりの「リセッション」に入っていると考えています。前回、政府が財政の大掃除をしたのは、クリントン氏とニュート・ギングリッチ氏が政権運営をしていた時代で、その結果として米国では財政黒字が実現しました。

当時、政府支出が経済のブレーキとなった一方で、民間セクターの拡大に余地を与えることになりました。今回も同様に、政府支出が減速することによって、過去4年間続いてきた「クラウディングアウト」(政府が経済のリソースを過度に吸収すること)が終わり、より生産性の高い「民間セクター」に経済の比重が移ることになります。これは非常に良いニュースです。

多くの人々がGDPのマイナス成長を見て、「今まさにリセッションが始まった」「それはトランプ米大統領の政策のせいで、長引くだろう」と考えているかもしれません。しかし、私たちはまったく逆の見方をしています。これは「ローリング・リセッション」の終盤であり、トランプ政権が打ち出している政策(減税、そして非常に重要な規制緩和)が、生産性主導の景気回復を引き起こすと予想しています。それは1980年代や1990年代のような「生産性が上昇し、インフレが低下する中での成長」に似た感覚になるでしょう。つまり、「ウィン・ウィン(双方にとって良い結果)」なのです。

「短期の痛み、長期の利益」説:トランプ政権の戦略とFRBの利下げと経済刺激のタイミング

岡元:つまり、今は短期的な痛みがあるけれども、長期的には利益があるということですね?

ウッド氏:はい、その通りです。そしてこれは、トランプ米大統領の側近である多くの政策顧問たちが言っていることでもあります。「今こそ苦い薬を飲もう。そして2026年中間選挙のキャンペーンシーズン(晩夏から初秋)になる頃には、経済が上向いている状態に持っていこう」というわけです。これは共和党にとって中間選挙を有利に進める上で好材料となります。

通常、中間選挙では政権与党が議会の議席を減らす傾向があります。特に現在の下院では共和党の多数派はわずかな議席差しかないため、1つでも議席を失えば政権運営に支障をきたしかねない状況です。したがって、「できる限り議席を減らさない」ことが共和党にとって死活的に重要なのです。

そのため、選挙シーズンが始まる2026年の夏の終わりから秋、冬にかけては、景気刺激的な政策が打ち出されると予想されます。そして、まだ触れていませんが、FRB(連邦準備制度)も重要な役割を果たすでしょう。もしFRBがGDPの落ち込みを確認すれば、2025年の第1四半期、そして、もしかすると第2四半期もマイナスになる可能性があります。これがローリング・リセッションの始まりです。

2022年の最初の2四半期もマイナス成長でした。したがって、FRBが「現在は景気後退局面にある」と認識すれば、利下げに踏み切る余地はさらに広がるでしょう。現在の市場では、すでに2回の利下げが織り込まれています。加えて、GDP成長率がマイナスに転じている状況に加えて、仮に関税によるインフレ圧力があったとしても、それは一時的なものにとどまると考えられます。そしてFRBがインフレの鈍化を確認すれば、年内に2回以上の利下げが行われる可能性もあると私は考えています。

次回は、【2】テスラが変える未来:キャシー・ウッド氏が語るEV革命とロボタクシーの行方をお届けします。

※本記事は2025年4月1日に実施したインタビューを後日、翻訳編集・記事化したものです。