>>>>独占インタビュー第1回目:ステロイド版レーガン時代へ?キャシー・ウッド氏が読み解くトランプ関税と米経済の未来
>>>>第2回目:テスラのEV革命とロボタクシーの行方
>>>>第3回目:テスラ VS Waymo、自動運転競争はどちらに軍配があがるか?
>>>>第4回目:イーロン・マスク氏のビジョンとテスラの未来:キャシー・ウッド氏が語る「融合するテクノロジー」の衝撃
第5回目は、ロボット産業の進化で製造業・家庭はどう変革するかをお届けします。
マスク氏が手掛ける事業はそれぞれがシナジーを生み出す
岡元:マスク氏は、非常に多くのことを同時に考えているように見えます。しかし最終的には、彼が手がけるさまざまな事業体が互いにシナジーを生み出し、その恩恵がテスラにももたらされることになるという訳ですね。
ウッド氏:そのとおりです。そして、彼の経営陣がいかに優秀かは、スペースXを見るとよく分かります。実際、マスク氏自身はスペースXに多くの時間を割いているわけではありません。もちろん「楽しい部分」には関わっていますし、目標の達成に支障をきたすような障害が経営陣から報告された場合には、すぐに乗り出すでしょう。
しかし、例えばファルコン9の着陸成功や再利用ロケットの確立といった技術が確立された今、そのフェーズにはもう関わっていないのです。彼の関心はすでに次のステージ―スターシップと火星到達に移っています。もちろん、これはより長期的なタイムラインの話になります。
岡元:つまり、彼が直接手をかけなくても、彼の事業は順調に進んでいるということですね?
ウッド氏:ええ、順調でないときに、彼が現場に入ります。たとえ彼がトランプ米大統領のそばで8時間働かなければならず、さらに別の仕事で4時間、あるいは10時間働くことになったとしても、彼はやるのです。そういう人なのです。彼自身、「自分は常に働いている」と語っています。本当は他のことをしたいわけではなく、仕事こそが彼のすべてなのです。
なぜなら、彼は自分の人生が“使命”だと感じているからです。これはお金のためではありません。本当に世界を変え、より良くするための挑戦であり、最終的には人類を宇宙の次のステージへと導くための取り組みなのです。
次なる成長領域:ロボット産業がもたらす超巨大市場、製造業向け・家庭向けそれぞれ13兆ドル規模
岡元:オプティマスについて、少し言及されていましたが、今後どう展開していくとお考えですか?そして私たちは、このテーマでどんなサプライズを体験することになるのでしょうか?
ウッド氏:イーロン・マスク氏がテスラの社員に向けて行ったスピーチで、私たちは驚かされました。世間で“犯罪的な動き”と表現されるような批判や混乱の中で、「大丈夫、私たちは乗り越えられる」と社員を鼓舞し、テスラの未来がいかに明るいかを語りました。
その中で彼は、「オプティマス(人型ロボット)」の量産規模についても言及しました。最初は「1万台」と語り、その後「いや、まずは5,000台かもしれない」と訂正しましたが、いずれにしてもこのプロジェクトが想定よりもはるかに早く進展しているという印象を受けました。
自動運転タクシー(ロボタクシー)は、当初の見込みよりも進展が遅れましたが、FSD(完全自動運転)という“橋渡し技術”があったことで理解できるプロセスでした。しかし、「オプティマス」のような人型ロボットに関しては、ロボタクシー開発で得られた知見が生かされているため、むしろ想定以上のスピードで進化しているのです。
現在、私たちが確認している限り、市場には他にも2社のヒューマノイドロボット企業が存在しています。私たちのベンチャーファンドでは、その両方に投資しています。1社はFigure AI、もう1社はAptronic(アプトロニック)です。ただ、イーロン・マスク氏と彼のチームは、ロボティクス・電動化・AIという3つの技術の融合について非常に多くのことを学んでおり、それがあるからこそ、他社よりもはるかに速いペースで開発が進んでいるのだと思います。
では、最終的にそれは何を意味するのでしょうか?マスク氏自身は、ヒューマノイドロボット市場の方が、ロボタクシー市場よりも大きなチャンスになると考えています。私たちは、ロボタクシー市場について、テスラだけでなくエコシステム全体を含めて、8兆~10兆ドル規模の市場と見積もっています。
このうちの半分は、プラットフォーム(=テスラなど)が担うと想定しており、米国がその大きな部分を獲得する可能性が高いと考えています。つまり、それだけでもテスラにとっては極めて大きな機会ですが、マスク氏はヒューマノイドロボットの方がそれよりもさらに巨大だと見ています。そして、私たちもそれに同意しています。
実際、私たちの「Big Ideas」レポートでは、ヒューマノイドロボット市場を製造業向けと家庭向けに分けて試算しています。その結果、どちらも単独で13兆ドル規模の市場になると見積もられています。このモデルは、製造業ロボット市場を担当したARKインベストメントのサム・コースと、ロボタクシーを担当したターシャ・キーニーの両名によって構築され、現在では互いのモデルにデータを提供し合うかたちで連携が進んでいるのです。これは、私たちのアナリスト同士がいかに緊密に協働し、統合的に未来を予測しているかの好例だと思います。
人型ロボットオプティマス、未来の“食洗機”がやってくる。家事を奪うのではなく「解放する」存在へ
岡元:仮に今が2030年だとして、ロボタクシーの事業価値がすでにテスラの株価に完全に織り込まれているとしたら、テスラの次の成長ドライバは何になるのでしょうか?
ウッド氏:私は、ヒューマノイドロボットについて、多くの人がまだ本気で受け止めていないように感じています。それはこの分野がまだ非常に初期段階にあるからでしょう。現時点ではロボットの動きがぎこちなく見えるのも事実です。
しかし、私たちはすでに技術の洗練が進んでいるのを目の当たりにしています。実際、マスク氏が社員向けのスピーチで語ったところによると、「オプティマス」の指はこれまでの11自由度から22自由度にまで進化しているとのことです。最終的には、手が360度、あるいはそれ以上の自由な動きで作業をこなせるようになる可能性もあります。何ができるようになるのか、私たちにはまだ想像もつかない未来が待っていると思います。
家庭内での活用という点で、よくある懸念の声として「ロボタクシーが多くの仕事を奪うのでは?」というものがあります。しかし、ロボタクシーは、かつて農業においてトラクターが果たした役割と同じようなものです。トラクターは、以前は報酬もなく食事と寝床だけで働いていた家族の労働を“解放”しました。つまり、報酬のない仕事からの自立を助けたのです。誰かの有給の職を奪ったのではありません。
これは家庭内でも同じことが起こり得ます。たとえば、私たちが最初に家庭用ロボットとして取り入れたのは「食洗機」でした。これはまさにロボットです。かつては何時間も費やしていた家事を、今では食器を入れてボタンを押すだけで済むようになりました。
一方で、料理の準備に関してはどうでしょう?多くの人が毎日、買い物から調理、配膳、片付けまでに追われています。ここにはロボットが活躍できる大きな余地があります。この分野に関してはサム・コースが担当しており、「Big Ideas」の中でも取り上げています。
我々の試算では、家庭内でのヒューマノイドロボット活用は約2,500億ドルの市場機会になると見ています。参考までに、アメリカ国内での食洗機の年間売上は約80億ドルとされています。それと比較しても、ヒューマノイドロボットの可能性は桁違いです。そしてこれは家庭向けの話にすぎません。製造業における市場規模は13兆ドルに達すると予測しています。
米国製造業の復活:中国型の“飛び級”をアメリカが再現?
ウッド氏:また、タイミング的に非常に興味深いのは、トランプ米大統領が米国の製造業復活を掲げていることとの一致です。2001年以降、アメリカは製造業の半分以上を国外、特に中国へと失ってきました。トランプ米大統領はそれをアメリカに取り戻したいと考えています。米中間の人件費の差を考えると、今後は完全自動化によって、米国内での製造業の回帰が可能になるかもしれません。まさに、かつて中国が通信や金融の分野で“飛び級”したように。中国は固定電話を飛ばして携帯へ、銀行店舗を飛ばしてモバイルウォレットへと一気に進化しました。
アメリカは今、製造業においてそれと同じ「技術的跳躍」を実現できるチャンスを迎えています。ロボティクス全般、特にヒューマノイドロボット、そして製造現場におけるAIの活用によって、アメリカは世界で最もコスト競争力があり、生産性の高い製造国となる可能性があります。もちろん、実際にそうなるかどうかはまだ分かりません。しかし、確かにそこに巨大なチャンスが存在しているのでしょう。
第6回は、【6】AI時代の覇者は誰か?キャシー・ウッド氏が語るアマゾンと破壊的イノベーションの行方をお届けします。
※本記事は2025年4月1日に実施したインタビューを後日、翻訳編集・記事化したものです。