>>>>独占インタビュー第1回目:ステロイド版レーガン時代へ?キャシー・ウッド氏が読み解くトランプ関税と米経済の未来
第2回目は、テスラのEV革命とロボタクシーの行方をお届けします。
テスラ[TSLA]の現在地と3つの懸念
岡元:では、テスラ[TSLA]についてお伺いします。テスラには、現状3つの懸念点があると思います。1つ目は販売の鈍化、2つ目はイーロン・マスク氏による政治的な混乱、そして3つ目が関税リスクです。これら3つの懸念について、それぞれどのようにお考えか、そしてテスラの長期的な成長見通しの中で、それらをどの程度重要視しているかについて教えてください。
ウッド氏:はい、まず第1弾でお話ししたマクロ経済環境を踏まえると、富裕層の消費が減速しています。このような状況では、自動車メーカー全体が厳しい時期を迎えており、テスラも例外ではありません。ですから、それは確かに短期的な懸念材料です。ただし、私たちは5年単位の投資時間軸を前提にしています。
現在テスラ株はピークから約半分にまで下がっていますが、私たちはそこに投資機会を見出しており、実際に最近も買い増しをしています。短期的には、第二四半期から第三四半期にかけて、ローリング・リセッションを脱し、経済は市場の予想以上に回復に向かうと考えています。これが第一のポイントです。
次に政治的要素についてですが、確かにニュースでも多く取り上げられており、懸念点にはなっています。ただし、アメリカには共和党支持者と民主党支持者がほぼ同数存在していることを忘れてはなりません。政治的な論争がテスラの販売に悪影響を与えると考える方もいますが、逆に、イーロン・マスク氏を支持するがゆえにテスラを購入している人々も存在します。
とはいえ、マクロ経済的な観点から見ると、今は非常に厳しい局面です。関税に関して言えば、テスラの米国製の車は、他の多くの自動車に比べて北米産の部品比率が高いと思います。必ずしも「純粋なアメリカ製」というわけではないかもしれませんが、それでも北米由来の部品が多いのは確かです。ですから、この点がどのように扱われるか、今後の政策判断を見守る必要があるでしょう。
そしてもちろん、もし輸入車に関税がかけられるのであれば、アメリカ国内のテスラにとっては、フリーモント工場やテキサス工場が今より忙しくなるかもしれないということを意味します。なぜなら、輸入車と比べてテスラ車の価格が相対的に安く見えるようになるからです。また、これら3つの短期的な懸念材料がある一方で、同時に3つのポジティブな材料も進行中です。
テスラ、3つの明るい材料
ポジティブな材料として、まず1つ目は、「Model Yの刷新(リフレッシュモデル)」です。私自身もその新型Model Yを待ち望んでいるのですが、納車にはかなり時間がかかりそうです。なぜなら、すでに非常に長い予約待ちの列ができているからです。おそらく、テスラ側では旧型の在庫を調整している最中であり、新型の生産立ち上げ(ランプアップ)はまだ加速していないのだと思います。
しかし実際には、もっと早く生産ペースを上げる必要があるというのが現実です。それでもなお、新型Model Yに対する需要は非常に強いという点は明らかです。
そして2つ目は、テスラが第2四半期に「低価格EVモデル」を投入すると明言していることです。これは現行のModel Yのほぼ半額程度の価格帯になると予想されており、約3万ドル(約430万円)、あるいはそれ以下になる可能性もあります。
イーロン・マスク氏は、「テスラは需要の問題ではなく、“価格の手頃さ”の問題を抱えている」と述べており、価格を大幅に引き下げることで新たな需要層を開拓する狙いがあります。ですから、販売価格を現在のモデルYのほぼ半額、あるいはそれ以上に引き下げることで、これまでとは異なる新たな層からの需要を掘り起こせるというのが狙いです。
そして3つ目の点は、6月には、テキサス州オースティンでテスラがロボタクシー・サービスを開始する予定となっていることです。これは商業展開としては初の試みとなります。私たちはこの展開に非常に期待しており、さらに重要なのは、テスラがどれだけのスピードでロボタクシーを全米、さらには世界の他の地域に普及させていけるのかという点を見極めることです。つまり、目の前には3つの明るいニュースが待ち構えているのです。
テスラの収益モデルが激変する?単発売り切り型から「高粗利SaaS」への移行
ウッド氏:このロボタクシー・サービスが開始されれば、より多くのアナリストたちがその意味を真剣に分析することになるでしょう。彼らは、テスラのビジネスモデルが現在の「低粗利・単発売り切り型」から、「高粗利・継続収益型のSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)モデル」に移行していることに気付くでしょう。
現在、テスラのEVは粗利益率15~16%程度で、販売後に収益は発生しません(一度きり)。しかし、ロボタクシーによって、テスラは、自律走行タクシー・ネットワークというプラットフォームを通じ、粗利益率80%以上の継続収益を獲得できるようになります。この2つのモデルが融合すれば、テスラ全体の粗利益率は50%を大きく超える水準になると私たちはみています。
ほとんどのアナリストは、まだこの変化をファイナンシャルモデルに織り込んでいませんが、ロボタクシーのビジネスモデルが従来のEVメーカーとは本質的に異なると理解すれば、テスラの目標株価予想を引き上げざるを得なくなるでしょう。
ロボタクシーの未来予想図:年内にも「人間を超える」FSD(完全自動運転ソフトウェア)が実現?
岡元:2025年6月に予定されているオースティンでのロボタクシーの商業化についてですが、今後5年間でどのような展開になるとお考えですか?例えば、2030年までに何都市で、何台くらいまで広がる見通しでしょうか?
キャシー:初期段階では「走る前にまず歩く(=慎重に段階的に進める)」という考えのもと、遠隔監視オペレーターをつけると思います。つまり車内には誰も乗っていない状態で、念のために、オペレーターがスクリーン越しに車両を監視し、障害物などの異常があれば介入できる体制です。
これは「安全性を確保するための措置」として最初の段階では必要だと考えています。もし私たちの予測が正しければ、2025年末までにテスラのFSD(完全自動運転ソフトウェア)は人間の運転能力を上回る水準に達すると見ています。10月にはその境目に到達する可能性があります。
岡元:今はまだですが、将来的にそうなる可能性があるのですね。
ウッド氏:そうです。例えば、現状Waymoでは「50万マイルごとに一度」人間の介入が必要とされています。テスラの場合、平均的な人間ドライバーの場合「70万マイルに一度」介入が必要になります。つまり、今の段階ではテスラとWaymoは拮抗している状態かもしれません。
しかし、次世代のFSDがリリースされれば、テスラは一気にリードすると私たちは考えています。なぜなら、テスラが持つ走行データ量は桁違いであり、Waymoはもちろん他の自動運転開発企業すべてを凌駕しているからです。この膨大なデータにより、テスラは「コーナーケース(極めて稀な状況)」への対応力を高めており、非常に特殊な状況でも何が起こるかを把握しています。それがテスラを人間ドライバー以上の性能に押し上げる理由です。
規制とインフラ、今後の展開:州レベルから連邦レベルへ:規制統一の可能性
岡元:では、今後5年間でどのように展開していくのでしょうか?
ウッド氏:我々が期待している規制緩和のひとつの形として、現在は50の州ごとに異なっている規制が、今後は連邦レベルに統一されていく可能性があるという点が挙げられます。自動車が州をまたぐという性質を考えれば、連邦政府が主導権を握ることは理にかなっています。
岡元:それはトランプ米大統領が話していたことですよね?
ウッド氏:実際、トランプ米大統領もその方向性を支持していましたし、現在のダフィー運輸長官のもとでも、それが目標の一つとなっています。アメリカが世界で最も早く自動運転を実用化したいという思いがあり、できるだけ多くの地域で早期に導入する方針です。
現在のところ、インフラはテスラ車の普及が進んでいるアメリカ東西海岸地域の方が中西部など国内内部の地域よりも遥かに整っています。後者のインフラの整備にはまだ時間がかかると見られています。
しかし、逆に言えば、ロボタクシーの運行を見越して戦略的に充電ステーションを配置できるというチャンスが、これから中部地域にはあります。これまでのように“どんなドライバーにも対応するためにただ設置する”のではなく、ロボタクシー専用に“緻密に設計されたネットワーク”として整備できるのです。それが、海岸部での自然発生的な展開と異なる点であり、大きな利点になるでしょう。
ですので、インフラ整備は今後確実に進むと私たちは考えています。また、自動運転(Autonomous)は初期段階では、東海岸や西海岸などの沿岸部でより人気を集めるとみています。というのも、フルセルフドライビング(FSD)の利用がすでに沿岸部で広く普及しているため、ドライバーたちは「これは実際に使える」という感覚を持っており、さらに「高速道路では本当に便利だ」と実感しているからです。
そしてこれからは、「都市部でもすごく便利だ」という評価が広がっていくでしょう。そうなると、ドライバーたちはテスラの自動運転技術を信頼するようになり、自分の車を“テスラのロボタクシー・ネットワーク”に登録して、走らせて収入を得る―そんな選択をする人も出てくるはずです。
岡元:では、ロボタクシーは都市ごとに1つずつ展開されていくのですか?
ウッド氏:まずは沿岸部から始まるというのが、私たちの見立てです。
岡元:なるほど。「沿岸部」というのは、東海岸や西海岸のことですね?例えば、ボストン、ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコのような大都市ですね。
ウッド氏:そうです。東海岸ではワシントンD.C.からフロリダまでの地域が含まれますし、もちろん西側ではテキサスも該当します。テスラはフリーモント工場(カリフォルニア)を拠点に商用化をスタートさせています。そしてフロリダも重要な州です。
今後は、すでに自動運転に関する法規制が整っている、あるいは実現可能性の高い州から順に展開していくでしょう。一方で、慎重な姿勢を見せている州や、民主党寄りで政治的な事情が規制の障壁となっているような地域については、最終的には連邦政府が介入することで解決される可能性が高いと思います。
政治がイノベーションや進歩の妨げになることを政府は望んでいないはずです。 ですので、規制を州レベルから連邦レベルに引き上げることで全国的な推進が可能になると考えています。
次回は、【3】テスラ VS Waymo、自動運転競争はどちらに軍配があがるか?をお届けします。
※本記事は2025年4月1日に実施したインタビューを後日、翻訳編集・記事化したものです。