>>>>独占インタビュー第1回目:ステロイド版レーガン時代へ?キャシー・ウッド氏が読み解くトランプ関税と米経済の未来

>>>>第2回目:テスラのEV革命とロボタクシーの行方

インタビュー3回目は、激化する自動運転競争についてお届けします。

テスラ[TSLA] VS Waymo、自動運転競争の行方

岡元:今のところ、Waymoの方がテスラよりずっと進んでいるように見えます。ロボタクシーの領域で、Waymoが優位に立っているという点について、不安はありませんか?

ウッド氏:いいえ、私たちはその点については特に懸念していません。実は、私たちの「Big Ideas(ビッグ・アイデア)」レポートの中には1枚のチャートがありまして、2014年時点で“自律走行プラットフォームの構築”を目指すと宣言した全企業をリストアップしています。それを見ると、当時はテスラが最も楽観的な予測をしていたことが分かります。しかし、実際に最初に商用化を成功させたのはアルファベット[GOOGL]傘下のWaymoで、2018年に商用サービスを開始しました。リストにあった他の企業(10社ほど)は、すでにその取り組みを放棄しています。

テスラは当時、完全自動運転をすぐに実現するつもりだったようですが、最終的に「完全自動運転モードへ一気に飛躍する」のではなく、FSDソフトウェアを活用して“実際の道路データ”を大量に収集するという戦略を選んだのだと思います。その結果、テスラが集めた走行データ量は、Waymoを遥かに上回っています。当社の推計では、米国内で稼働しているWaymoの車両1,000は1,000~2,000台程度にとどまっており、テスラの実世界データ収集体制と比較すると規模は限定的です。

アメリカ国内だけでも、テスラは約400万台の“走るロボット”を保有していると見られます。私はそれらを「データ収集ロボット」と呼んでいます。私自身もModel YとModel 3の2台を持っており、常に走行データを収集してテスラに送信しています。つまり、テスラは実世界の走行データを膨大に保有しているのです。これに対してWaymoは、シミュレーションによる仮想データでも同じことができると考えているようですが、私たちはそうは思っていません。

現実の道路から収集されるリアルなデータこそが優位性をもたらすと考えています。この点については、今後の展開を見守る必要があるでしょう。とはいえ、私たちはWaymoの取り組みにも非常に感銘を受けています。彼らは多くの障壁を打ち破り、自動運転の実用化に向けて道を切り開いた存在です。テスラはその成果の上に立っており、Waymoが突破した規制や制度の壁を再び破る必要がなかったという意味では大きな恩恵を受けています。最初に商用化を果たしたのもWaymoです。しかし、彼らはその後の展開が非常に遅いです。

ロボタクシーの価格戦略と国際展開:価格はUberより安く、利益率は圧倒的

Waymoのコストが高い理由

岡元:なぜ、Waymoはコストが高いのでしょうか?

ウッド氏:それは、WaymoはLiDAR(ライダー)やその他の高価なセンサー技術に依存し続けているからです。テスラはそれらを必要ないと考えています。イーロン・マスクがよく言うように、私たち人間は目(カメラ)というセンサーを2つしか使っていませんよね?それに対して、テスラの車は8つのカメラを搭載しており、理論上は人間より優れたドライバーになるべきです。

WaymoがなぜLiDARにこだわり続けているのかは不明ですが、LiDARはノイズが非常に多く、信号(意味のある情報)とノイズの区別が難しいのです。イーロン・マスクはこれを「松葉杖(crutch)」と表現し、規制当局に対して“ほら、こんなに詳細な道路データをリアルタイムで持ってます”と証明するためだけのものだと批判しています。こうした技術的なアプローチの違いは、自動運転レースにおける明確な分岐点だと私たちは考えています。

さらに、Waymoは垂直統合されておらず(=自社で車両やシステムを一貫して設計・製造していない)ため、コスト構造がテスラに比べて30~40%も高いのです。そしてこの差は今後も縮まらないでしょう。というのも、Waymoは現在ヒュンダイと提携していますが、ヒュンダイ自身もサプライチェーン上に複数の中間業者を抱えており、その都度手数料や利益マージンが発生します。一方テスラは、垂直統合型モデルを採用しており、これらの中間コストを完全に排除し、さらにサプライチェーン内の連携トラブルにも強い構造を持っています。

鍵は、スケーラビリティとコスト構造の圧倒的優位性

ウッド氏:仮にテスラとWaymoの両社に、それぞれ50億ドルの設備投資(CapEx)予算が与えられたとします。そのうえで、両社がスケール(量産)段階に進んだときに、Waymoが製造できる車両台数は10万台未満にとどまると私たちは見ています。一方で、テスラは35万台以上を生産できるポテンシャルを持っていると予想しています。この分野はまさに「スケールの勝負」です。つまり、コスト構造をいかに低く抑えられるか、そして乗客をA地点からB地点へ、誰よりも早く、安全に、安く運べる企業が、この勝負の勝者となるのです。

これはまさに、ウーバー・テクノロジーズ[UBER]とリフト[LYFT]の競争に似ています。片方のサービスがより多くの車を走らせ、より多くの人々が「このサービスなら信頼できる」と感じ始めると、その成功はさらに成功を呼び込み、利用者数・信頼・利便性が相乗効果的に拡大していく。テスラがこの「自動運転タクシー」という勝負で主導権を握るための鍵は、スケーラビリティとコスト構造の圧倒的優位性にあるのです。

最も収益性の高い地域からリソースを配分

岡元:ARK社のファイナンシャルモデルにおける価格設定の前提はどうなっていますか?例えば私が、6月にオースティンでテスラのロボタクシーを使いたいとしたら、通常のタクシーやUberと比べて、いくらぐらいの料金になるのでしょうか?

ウッド氏:新しいイノベーションが登場するとき、最初の価格設定は、置き換えようとしている既存サービスより“やや安い”というのが一般的です。コスト構造が将来的にもっと下がるとしても、最初のうちは、従来の価格体系の「価格の傘」の下で、企業は非常に高い利益を確保することができます。

アメリカでは、タクシーやUberの料金はマイルあたり約2~4ドルなので、それより少し安い、例えば2ドル未満で価格設定をすれば、非常に高い利益を上げることができるでしょう。というのも、少なくともテスラのやり方では、自動運転による移動コストはマイルあたり0.25ドルまで下がると考えているからです。利益率には大きな余地があるわけです。

一方、他の地域、例えば中国では状況が異なります。バイドゥ[BIDU]のApolloは武漢でロボタクシーを運用していますが、武漢では人が運転するライドシェアの料金がすでに1マイルあたり0.35ドルと非常に安いのです。北京や上海であればもう少し収益性は高いのかもしれませんが、武漢のような地域では、利益率はかなり限定的です。したがって、どの企業であっても、まずは最も収益性の高い地域からリソースを配分し、そこから得られる利益でネットワークの他地域への展開を進めていくことになるでしょう。

テスラ、米国以外への展開見込みは?

岡元:アメリカ以外での国際展開としては、どの地域が有力ですか?

ウッド氏:テスラは、中国で撮影された走行動画をもとに、道路環境を理解しようとしているということです。これは非常に難しいプロセスになると思います。ですから、中国国内では現地のプレイヤーの方が成功する可能性は高いかもしれません。ただ、それでも最終的にどうなるかはわかりません。

私たちは、彼ら(テスラ)がどれだけ創造的なアプローチを取るのか、そして生成AIがどこまで空白を埋めてくれるのか、非常に注目しています。また、アメリカ国内の道路に関する一般的な知識をどう活かすかという点も鍵になります。テスラは基本的にマップ(地図)を使わずにコンピュータビジョンだけで対応しています。この手法は、どこでも応用が可能なのです。

つまり、生成AIで動くクルマやロボットであれば、時間をかければどんな道路でも理解できるようになるなので、これからどうなるか注視しています。ただ正直なところ、他の地域では、まだ規制上フルセルフドライビング(完全自動運転)が許可されていない国も多いというのが現状です。

そして、そうした国々の規制は安全性に非常に重きを置いています。ですから、自動運転車が人間よりも10倍安全になるくらいにならないと、(政府が)それを許可するとは思えません。実際、どの程度の安全性が必要なのかという「数値」は分かりません。でも、おそらくまだ許可される段階には至っていないでしょう。つまりこれは、「規制」という不確実性の話なのです。

岡元: テスラがアメリカで成功すれば、おそらく他の国々もロボットタクシーを自国に導入することを認めるかもしれませんね。

ウッド氏:そうですね、各国は自国の企業にもテスラやWaymoに追いつく機会を与えようとしているのだと思います。電気自動車の分野ではすでにシェアを失いつつある現状があり、自国企業に自動運転時代へ飛び込むチャンスを与えたいと考えているのでしょう。そのことが、規制の停滞の一因にもなっていると私は思います。

次回は、【4】イーロン・マスク氏のビジョンとテスラの未来:キャシー・ウッド氏が語る「融合するテクノロジー」の衝撃をお届けします。

※本記事は2025年4月1日に実施したインタビューを後日、翻訳編集・記事化したものです。