【1】 結果:総合指数は2023年1月以来の大幅な伸び
小売売上高(前月比)
結果:+1.4% 予想:+1.4%
前回:+0.2%(速報値から修正なし)
自動車・同部品除く小売売上高(前月比)
結果:+0.5% 予想:+0.4%
前回:+0.7%(速報値+0.3%から上方修正)
コントロール・グループ(自動車、ガソリン、外食、建設資材除く小売売上高・前月比)
結果:+0.4% 予想:+0.6%
前回+1.3%(速報値+1.0%から上方修正)

米国では、個人消費がGDPの約7割を占めることから、その動向を確認できる小売売上高に注目が集まります。
そして、今回3月の小売売上高は前月比+1.4%となり、前回の+0.2%を大きく上回って、2023年1月以来の大幅な伸びとなりました。
また、自動車の販売はセールなどの影響で月ごとの変動が大きいため、自動車を除いた小売売上高にも注目が集まります。この結果は前月比+0.5%と市場予想を上回り、米消費の底堅さを示しました。
一方、GDPの算出に間接的に用いられるコントロール・グループ(季節変動の大きい自動車、ガソリン、外食、建設資材を除いたコア小売売上高)は、前月比+0.4%と市場予想(+0.6%)を下回りましたが、前月分については速報値の+1.0%から+1.3%へと上方修正されています。
なお、今回の結果を受け、アトランタ連銀のGDPNow(短期予測モデル)では、2025年第1四半期の実質GDP成長率(季節調整済み年率)の推定値が-2.4%から-2.2%へと上方修正されています。
【2】内容・注目点:関税前の駆け込み需要もあり自動車・同部品は前月比5.3%増
図表2に示されているように、3月の小売売上高は13項目中11項目で増加し、2月の7項目を上回りました。

今回、特に売上の増加が目立ったのは自動車・同部品で、前月比+5.3%の大幅な伸びとなりました。4月2日の相互関税導入前に、影響が大きい自動車において駆け込み需要が大きく寄与したと見られます。
そのほか、建設資材(+3.3%)やスポーツ用品等趣味(+2.4%)といった比較的裁量的支出に分類される項目も好調だったほか、小売売上高統計における唯一のサービス項目である外食も+1.8%と大きく増加しました。
また、図表3の青色バーが示す通り、自動車、ガソリン、外食、建設資材を除いた小売売上高(コントロール・グループ)の推移を見ても、米消費は基調として底堅く推移していることが確認できます。

一方、内訳に着目すると、これまでコントロール・グループはアマゾン・ドットコム[AMZN]などのオンラインショップに代表される無店舗小売がけん引してきた側面がありますが、今回は無店舗小売が+0.1%にとどまりました。他の項目と比べてやや弱く、図表3の黄色バーが占める割合は縮小しつつあることが分かります。無店舗小売はしばしば先行指標となることもあり、今後の動向にはやや注意が必要でしょう。
そのほか、今回特に売上の減少が目立ったのはガソリンスタンドで、前月比-2.5%となりました。これは、WTI原油先物価格の下落を反映したものと考えられ、各種物価指標でもガソリン価格の低下が確認されています。原油先物価格は4月に入ってからも一段と下落しており、5月以降もガソリンスタンドの売上に下押し圧力がかかるとみられます。
【3】所感:足元の消費は堅調だが、関税導入前の駆け込み需要で持続性に不透明感
今回の小売売上高は、総合で前月比1.4%増と大幅に伸び、2023年1月以来の高い伸び率を記録しました。内訳を見てもおおむね堅調であり、米国の消費動向が依然として底堅いことを示す内容となりました。
先日発表された3月の米CPI(消費者物価指数)と米PPI(生産者物価指数)がいずれも市場予想を大きく下回り、需要の減速懸念も一部で高まっていた中、今回の結果は足元の消費の強さを裏付けるものとして、ひとまず安心感を与える内容と言えます。
もっとも、今回の統計は4月に公表された相互関税の影響を受ける前のデータであり、関税導入を見越した駆け込み需要によって数値が一時的に押し上げられている面も否めません。加えて、消費者信頼感指数などのソフトデータでは、消費者マインドの悪化が示されており、今後も同様の消費の勢いが持続するかについては不透明感が残ります。
実際、今回の小売売上高の発表を受けた市場の反応は限定的で、むしろ同日に行われたパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の講演で早期利下げに慎重な姿勢が示されたことを受けて、株式市場は下落となりました。
パウエル議長が「当面、政策スタンスの調整について検討する前に、情勢が一段と明確になるのを待つ」と述べている通り、関税の影響が具体的にデータに表れてくる5月以降に発表される経済指標に注目です。
フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐