2025年4月10日(木)21:30発表(日本時間)
米国 消費者物価指数(CPI)

【1】結果:総合、コア指数いずれも市場予想を下回り前月から伸びが鈍化

【図表1】CPI結果まとめ
出所: 米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成

3月の総合CPIは前年同月比+2.4%と市場予想を下回って前月の+2.8%から大きく伸びが鈍化しました。前月比でも-0.1%と市場予想を下回り、およそ5年ぶりに前月比マイナスとなりました。

また、食品とエネルギーを除いたコアCPIは前年同月比+2.8%となり、こちらも市場予想を下回って前月の+3.1%から大きく伸びが鈍化しました。前月比でも+0.1%と前月から伸びが減速しています。

【2】内容・注目点:航空運賃の下落は景気減速の兆候か

【図表2】CPI前月比の内訳
出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成

図表2に示されている通り、前月比ベースで内訳を見ると、食品は前月比+0.4%と、前月から伸びが加速しました。前年同月比でも+3.0%とやや高めで、生活必需品である食品価格の高騰により、米国消費者の購買力低下が懸念されます。

一方、エネルギー価格は2月に前月比-2.4%となり、前月の+0.2%から大きく低下しました。主因はガソリン価格の下落(-6.3%)であり、この動きは3月初旬のWTI原油先物価格の下落と整合的です(図表3参照)。

そして、原油先物価格は4月に入ってから急速に下落しているため、次回のCPIでもエネルギー価格が総合の値を押し下げる要因となりそうです。

【図表3】WTI原油先物価格の推移
出所:Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

また、食品とエネルギーを除いたコアCPIは前月比+0.1%となり、前月の+0.2%から伸びが鈍化しました。

コアCPIの内訳をみると、コア財は前月比-0.1%とマイナスに転じました。主な要因は、直近6ヶ月間にわたり前月比で上昇が続いていた中古車が今回-0.7%と下落したほか、医療関連が-1.1%と大きく低下したことです。

財価格(需要)はこれまで回復基調にありましたが、足元ではやや伸び悩む傾向が見られます。こうした動きは、先日発表されたISM製造業景況指数の低下にも表れています。

もっとも、財価格は関税の影響を受けやすいため、今後は需要動向とは別に、価格上昇がみられる可能性もあります。

【図表4】コア財価格(前年同月比)の推移
出所:Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

コアCPIの中でも大きな割合を占め、粘着性の強いインフレ要因として注目されてきた住居費は、前月比+0.2%と、前月の+0.3%から伸びが鈍化しました。前年同月比でも、3月は+4.0%となり、前月の+4.2%からやや低下しています。

家賃は契約期間があるため価格の上昇が持続しやすい傾向がありますが、図表4に示された前年比の推移を見ると、緩やかではあるものの、着実に低下傾向が進んでいることが確認できます。

また、CPIの住居費におおよそ1年先行するとされるジロー価格指数やS&Pケース・シラー住宅価格指数の動向を踏まえると、今後も住居費は緩やかに低下するか、横ばいで推移する可能性が高いと考えられます。

【図表5】CPI住宅価格(前年比)とジロー価格指数(12ヶ月先行)
出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成

住居費は遅行性が強く、FRB(米連邦準備制度理事会)が金融政策を考えるうえでも取り扱いがやや難しい品目のため、FRBのパウエル議長はコアサービスから家賃を除いた「スーパーコア」に注目しています。

そして、3月のスーパーコアは前月比-0.24%とマイナス圏に落ち込み、前年同月比でみても+2.9%と前月の+3.8%から大きく低下しました。こうした動きは、先日の米雇用統計で平均時給(前年比)が+3.8%と市場予想を下回った動きと整合的です。

【図表6】スーパーコア指数の前月比・前年比の推移
出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成

スーパーコアの低下は、インフレ退治の観点からはポジティブな材料となります。ただし今回の落ち込みが、これまで米国経済を支えてきたサービス需要の減速を示すものであるとすれば、同時に景気の先行きに対する懸念も生じます。

そこで、スーパーコアをさらに分解してみると、今回の鈍化の主因は、航空運賃が前月比-5.3%と、前月に続いて大幅に下落した影響が大きいことがわかりました(図表7)。

航空運賃の下落は、各航空会社の経営陣が需要減退への懸念を表明していることと整合的と言えます。そして、航空需要の減少は、人流の減少を意味し、様々なサービス需要の減少にもつながり得るため、景気の重要な先行指標と言えます。

実際、これまでは航空運賃を除いたスーパーコア(図表7の青色バー)は堅調さを維持していましたが、足もとでは減少に転じており、他のサービス分野にも減速の兆しが見え始めています。

【図表7】スーパーコア(除く航空運賃)前月比の推移
出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成

【3】所感:相互関税前のデータで市場は反応薄も、物価急減速は需要の冷え込みを示唆か

3月のCPIは市場予想を下回り、前月から大きく低下しました。インフレ鈍化を示す内容でしたが、統計の対象期間が4月の相互関税導入以前であることから、市場の反応は限定的で、むしろ足元の関税動向への警戒感から4月10日の米国株式市場は下落しました。

ただし、関税導入前のデータとはいえ、今回の統計の内容は、現在の米国経済の動向を示す重要な示唆がある結果となりました。関税によるインフレ再燃は確かに懸念材料ですが、それ以前の足元の物価動向を見ると、むしろ減速しすぎとの印象が強く、景気(需要)の弱さも懸念されます。

仮に関税が一時的な措置である場合、その影響も一時的にとどまり、価格転嫁が一巡した後には、購買力の低下によって需要が減退し、物価全体が急速に下落するというシナリオも考えられます。

もっとも今回の物価の急減速が一過性か、それとも新たなトレンドの始まりかを見極めるうえでは、来月以降の動向を注視する必要があります。というのも、原油価格が急低下していることから、ドライブなどの人流の増加に伴う各種サービス需要の回復と価格の反動増が見られる可能性があるためです。

そして物価動向と併せて、個人消費の動向にも要注目です。まずは4月16日(水)に発表される小売売上高が焦点となります。

フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐