2025年4月11日(金)21:30発表(日本時間)
米国 生産者物価指数(PPI)

【1】結果:総合、コアいずれも市場予想を下回りインフレ圧力の低下を示唆

【図表1】米生産者物価指数PPI(最終需要)結果まとめ
※市場予想はBloombergがまとめたエコノミスト予想の中央値
出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成

3月の米国生産者物価指数(PPI)は前年同月比2.7%上昇し、市場予想の3.3%を下回って前月の3.2%から伸びが鈍化しました。また、前月比ベースでは0.4%低下となり、市場予想の0.2%上昇と前月の0.1%上昇(速報値は0.0%上昇)を下回りました。

変動の大きい食品とエネルギーを除いたコアPPIは、前年同月比3.3%上昇し、こちらも市場予想の3.6%上昇を下回って前月の3.5%上昇から鈍化しました。前月比ベースでは0.1%低下し、市場予想の0.3%上昇に反してマイナスとなりました。

【2】内容・注目点:エネルギーと流通マージンが指数を下押し PCE構成項目は総じて抑制的

そもそもPPIとは

PPIとは、米国の生産者物価指数のことを指し、原材料や製品を対象として生産段階での財・サービスの価格変動を測定しています。

例えば、机などの家具で考えると、企業が机という商品を生産するために仕入れる木材や金属といった原材料の価格変動を測定するのがPPIであるのに対し、CPIは最終的に消費者が購入する際の机の価格変動を測定します。

必ずしもそうとは限らないものの、一般的に、企業が仕入れる原材料の価格変動は、最終的に消費者が支払う価格に反映されることが多いため、PPIはCPIの先行指標として注目されています。

【図表2】CPIとPPIの推移
出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成

また、PPIの項目のうち、ポートフォリオ管理費や航空運賃、外来医療費などは、FRB(米連邦準備制度理事会)がインフレ指標として採用している個人消費支出(PCE)価格指数の算出に用いられるとされています。このため、PPIは月末に発表されるPCE価格指数や、今後の金融政策の動向を予測するうえでも注目が集まります。

3月結果の内訳・詳細

今回3月のPPIの結果は、総合指数とコア指数いずれも市場予想を下回って前月から鈍化し、ヘッドラインの数値からは今後のインフレ圧力の低下が示唆される結果となりました(図表1参照)。

図表3の通り、前月比の内訳を見ると、財価格は3月に-0.9%となり、前月比マイナスとなりました。これは、エネルギー価格の低下が加速したこと(-1.3%→-4.0%)と、食品価格が低下した(1.8%→-2.1%)ことが主な要因です。

【図表3】米国生産者物価指数(前月比)の内訳
出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成

エネルギー価格の下落については、3月初旬のWTI原油先物価格の下落と整合的です(図表4参照)。そして、原油先物価格は4月に入ってから急速に下落しているため、次回のCPIでもエネルギー価格が総合の値を押し下げる要因となりそうです。

【図表4】WTI原油先物価格の推移
出所:Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

一方、食品価格の下落については、鳥インフルエンザの影響で価格高騰が続いていた卵が前月比-21.3%と大幅に下落するなど、全体的に反動減となりました。直近では食品価格が高めに推移していたため警戒されていましたが、ひとまず価格に落ち着きが見られたことは安心材料と言えます。

また、前日に公表されたCPI(消費者物価指数)では食品価格に上昇が見られましたが、生産者段階での価格の落ち着きが今後、消費者物価にも反映されていくことが期待されます。

そして、食品とエネルギーを除いたコア財価格は前月比+0.3%と、前月と同水準の伸びとなりました。財価格は関税政策の影響を受けやすいため、今後の注目項目となるでしょう。

一方、サービス価格は前月比-0.2%と、3月にマイナスに転じました。主因は、流通業(小売・卸売業)のマージン手数料が前月比で引き続き大幅に下落したことです。この項目の低下は、インフレの観点からは物価上昇をけん引してきたサービスインフレの抑制要因となるほか、関税強化によって財の輸入価格が上昇した際の消費者負担を和らげる側面もあります。ただし、下落が続く場合には流通業の利益率の低下や需要全体の減速、雇用悪化が懸念されるため、今後は適度な水準の維持が求められます。

そして、FRBが金融政策の判断材料とする個人消費支出(PCE)価格指数に関連する項目は、総じて抑制的な結果となりました。

航空運賃は前月から大きく下落(0.0%→-4.0%)したほか、ポートフォリオ管理費も大幅に鈍化(8.1%→0.2%)しています。その他のヘルスケア関連項目も、全体的に抑制的な結果となりました。

【3】所感:物価は大幅減速も関税によるインフレ期待の高まりがFedの政策運営を困難に

3月の米生産者物価指数(PPI)は市場予想を下回り、前月から大きく低下しました。前日に発表された消費者物価指数(CPI)と併せて、インフレ鈍化を示す内容となりましたが、いずれも統計の対象期間が4月の相互関税導入以前であったため、市場の反応は限定的にとどまりました。

もし相互関税の影響がなければ、CPI・PPIの急低下はインフレ鈍化が着実に進んでいることを示す材料として受け止められ、FRB(米連邦準備制度理事会)はインフレ目標の達成に対する自信を深め、利下げに向けて前向きな姿勢を強めていたものと思われます。

しかし現実には、相互関税の導入とその先行き不透明感が、物価や景気の見通しを不安定にしています。同日に公表されたミシガン大学の調査では、消費者の1年先のインフレ期待が2022年以来の高水準に上昇しており、FRBの政策判断を難しくする要因となっています。それに対して、消費者信頼感指数は57.9と約2年ぶりの低水準に落ち込み、消費マインドの悪化が鮮明となっています。

足元の物価指標の動向をみると、むしろインフレ減速が急すぎるとの印象もあり、景気(とりわけ需要)の弱さへの懸念もされます。今後の景気動向を見極めるうえでは個人消費の動きが重要といえ、まずは4月16日(水)に発表される小売売上高が焦点となります。

フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐