2025年3月7日(金)22:30発表(日本時間)
米国 雇用統計
【1】結果: NFPは市場予想をやや下振れし失業率は4.1%に上昇 平均時給は予想を下回る
2025年2月の米国非農業部門雇用者数(NFP)は前月比で15.1万人増となり、市場予想の16万人増をやや下回りました。なお、2024年12月分のNFPは30万7000人増から32万3000人増へ上方修正された一方、2025年1月分は14万3000人増から12万5000人増へ下方修正されています。
失業率は4.1%となり、前月から横ばいの4.0%を見込んだ市場予想を上回って0.1ポイント悪化しました。平均時給は前年同月比4.0%上昇となり、市場予想を下回りました。

【2】 内容・注目点:DOGEによる連邦政府職員のレイオフは来月以降に影響か
非農業部門雇用者数(事業所調査)の詳細
2月のNFP(非農業部門雇用者数変化)は前月比15.1万人増となりました。関税政策などによる不確実性が高まるなか米労働市場に対しても悲観的な見方が広がっていたなか、結果は市場予想こそ下振れしたものの「10万人台半ば」とまずまずの水準だといえます。
また、NFPがやや下振れした要因の一つには、前月に続き天候要因が挙げられます。1月中旬にはロサンゼルスで大規模火災の被害が発生し、北東部では大雪に見舞われました。天候を理由に休業した就業者は例年よりやや多く(図表2-1、2-2参照)、事業所調査では給与が支払われていない休業者は「雇用者」としてカウントされないため、この点がNFPの下振れに一定の影響を及ぼしたと考えられます。


一方、今回の調査ではイーロン・マスク氏率いる「政府効率化省(DOGE)」による連邦政府職員削減の影響も注目されましたが、2月の連邦政府職員数は前月比で1万人減にとどまりました。もっとも、今回の調査期間(2月9日~15日)はDOGEによるレイオフが本格化する前であり、実質的な影響は来月以降に現れる見通しです。2月実施の早期退職プログラムには7万人超が応募したとされ、これらが来月以降のNFPを押し下げ要因となることが警戒されます。

家計調査の詳細
事業所調査を基にしたNFPがまずまず良好な数値となった一方、家計調査に基づく失業率は前月の4.0%から0.1ポイント上昇して4.1%となりました。
なかでも「経済的な理由でパートタイム勤務を選択している労働者」が2月に急増した点は気になります。歴史的には依然として低水準ではあるものの、数ヶ月続いた低下傾向が反転した点は警戒すべきポイントであり、今後の動向次第では労働市場への懸念材料となり得ます。

一方で、失業率の内訳をみると、景気後退と最も関連付けられる「恒久的失業」(図表5の赤線)の割合は前月から横ばいとなり、やや安心材料となりました。ただし、DOGEによるレイオフで職を失った連邦職員がすぐに再就職できない場合、今後数ヶ月で恒久的失業率も上昇する可能性があり、注意が必要です。

その他の特徴として、図表6の就業者の出生データを見ると、2024年末以降、米国生まれの労働者が増加傾向にあります。トランプ政権による不法移民排除の影響は、今のところデータには現れていません。

【3】所感: 情報としてはやや古く、内容はリスク中立的―金融政策判断は引き続き物価指標次第
今回の雇用統計では、NFPが市場予想を下回ったものの、数値としてはまずまず良好な水準となりました。失業率も上昇したものの想定の範囲内であり、総じて米国の労働市場は底堅さを維持していると評価できます。強すぎず弱すぎず、リスク中立的な内容だったと言えるでしょう。
ただし、今回の統計はDOGEによる人員削減が本格化する前のデータであり、また、直近の追加関税などの影響も反映されていないため、やや古い情報といえます。来月以降の結果が注目されるところですが、市場の反応はこうした背景もあって目立った動きは見られませんでした。
一方、今後の金融政策を占ううえで、同日に行われたパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の講演が、注目を集めました。議長は「労働市場は堅調でバランスが取れている」と評価し、現時点では政策変更を急ぐ必要はないとの見解を示しています。
実際、失業率は1月時点のFRBの見通しをやや下回る水準にあり(図表7)、4.3%未満で推移しているうちは、一定の猶予があると言えそうです。

一方で、物価指標はFRBが最終目標とする2%を依然として上回って推移していることから(図表8)、「インフレが落ち着けば緩やかな利下げ、それまでは慎重姿勢を続ける」というFRBのスタンスに変化はないとみられます。

物価指標として注目の2月のCPI(消費者物価指数)は3月12日(水)、PPI(生産者物価指数)は3月13日(木)に発表予定です。
フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐