2025年2月12日(水)22:30発表(日本時間)
米国 消費者物価指数(CPI)

【1】結果:総合、コア指数いずれも市場予想を上回って前月から伸びが加速

【図表1】CPI結果まとめ
出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成

1月の総合CPIは前年同月比+3.0%と市場予想を上回って前月の+2.9%から伸びが加速しました。前月比でも+0.5%と0.3%に鈍化を見込んだ市場予想に反して、前月から伸びが加速しています。

また、食品とエネルギーを除いたコアCPIは前年同月比+3.3%となり、こちらも市場予想を上回って前月から伸びが加速しました。前月比でも+0.4%と前月から伸びが加速しています。

【2】内容・注目点:家賃の伸びが加速したほかスーパーコアも前月比で加速

【図表2】CPI前月比の内訳
出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成

図表2に示されている通り、前月比ベースで内訳を見ると、食品は前月比+0.4%と前月から0.1%上昇しました。今回の食品の価格上昇は、卵の価格が前月比+15.2%と急騰したことなど家庭食品価格の上昇が主な要因ですが、外食比は前月から伸びが鈍化しており、食品価格全体でみると、2024年以降+0.5%以内での比較的落ち着いた推移が続いています。

エネルギー価格は1月に+1.1%となり、前月の+2.4%からは伸びが鈍化したものの、1%以上での上昇が続きました。主因はガソリン価格の上昇(+1.8%)で、この動きは、1月にWTI原油先物価格が一時80ドル近くまで上昇した動きと一致しています(図表3参照)。原油先物価格は2月に入ってからは比較的落ち着いた動きを見せているため、次回のCPIでは、エネルギー価格が落ち着きを示すことが期待されます。

【図表3】WTI原油先物価格の推移
出所:Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

一方、食品とエネルギーを除いたコアCPIは前月比+0.4%となり、前月の+0.2%から伸びが加速しました。

コアCPIの各項目に着目していくと、コア財が前月比+0.3%となり、前月の+0.0%から加速しました。主な要因は中古車の伸びが加速した(+0.8%→+2.2%)ことです。その他の財項目も、衣服・アパレル以外は全体として前月から伸びが加速しており、財全体の需要が復調しつつあることがうかがえます。この辺りは、1月のISM製造業景気指数で示された製造業の景況感の回復と整合的な動きで、今後も財需要(価格)が回復していくか注目したいところです。

次にコアCPIの大きな割合を占め、粘着性が強いインフレ要因として注目されてきた住居費は、1月は+0.4%で前月の+0.3%から伸びがやや加速しました。住居費はCPIに占める割合が大きく、今回の総合CPIの上昇の約3割が住居費の小幅な加速によってもたらされています。

一方、前年同月比でみると1月は+4.4%と、前月の+4.6%から低下しています。家賃は契約期間があるため価格上昇が継続しやすい特性がありますが、図表4に示される前年比の推移を見ると、緩やかな価格低下の傾向が確認できます。また、CPIの住居費に1年程度先行するとされるジロー価格指数やS&Pケース・シラー住宅価格指数の動向を踏まえると、今後の住居費は緩やかな低下、もしくは横ばいで推移することが想定されます。

【図表4】CPI住宅価格(前年比)とジロー価格指数(12ヶ月先行)
出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成

一方、住居費は遅行性が強く、FRB(米連邦準備制度理事会)が金融政策を考える上でも取り扱いがやや難しい品目のため、FRBのパウエル議長はコアサービスから家賃を除いた「スーパーコア」に注目しています。そして、1月のスーパーコアは前月比+0.76%と前月の+0.21%から伸びが大きく加速しました。コロナ前の平均値(+0.19%)も大きく上回っています。こうした動きは、2月7日発表の米雇用統計で平均時給(前年比)が市場予想以上に上昇した動きを反映しているものと考えられます。

【図表5】スーパーコア指数の前月比・前年比の推移
出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成

スーパーコア指数を構成する個別項目のうち、注目されるのは医療サービスと輸送サービスです。今回、医療ケアサービスは鈍化(+0.2%→+0.0%)した一方、輸送サービスは+0.5%から+1.8%へと大幅に加速しました。

輸送サービスの上昇は主に自動車保険の値上がりによるものです。自動車保険の高騰の背景には、賃金や中古車価格の上昇に加え、近年の自動車には電子部品が多く搭載されているため修理費用と時間がかかること、さらに医療費や法的費用の上昇による損害賠償費用の増加などが挙げられます。

ただし、自動車保険は一時的な変動も大きく、インフレ動向としては、賃金と関連性が高く粘着性の強い自動車整備・修理の価格がより重要と言えますが、今回は+0.5%と前月の+0.2%からやや加速しており、この動きがトレンドとなるか警戒したいところです。

その他、1月は年初の価格改定時期であることから、全般的にサービス価格の上昇がみられています。

【3】所感:「利下げを急ぐ必要はない」論拠を強める結果だが季節性の可能性もあり

1月のCPIは、総合・コアいずれも市場予想を上回り、インフレ再燃懸念を高める結果となりました。これを受けて金利先物市場は、次の利下げ予想を7月から9月に後退させており(執筆時点)、足元では長期金利が上昇しました。

内容を見ても、パウエル議長が重視するスーパーコア指数は加速しており、米国の強い労働市場を背景としたサービス価格の高止まりが警戒されます。総じて今回の結果は、パウエル議長の「利下げを急ぐ必要はない」との発言に、より説得力を持たせる内容だったと言えるでしょう。

ただし、1月はもともと企業の価格改定の時期で季節性として上振れがしやすく、その季節性を調整する係数に関しても年次の調整が入っていることから、過去のデータとの連続性の解釈には注意が必要です。インフレの再加速が始まったと判断するのは、現時点では時期尚早に思えます。

また、CPIでは住居費の比重が大きく、今回は住居費の上昇が総合指数の上昇の約3割を占めました。一方、FRBがインフレ指標として重視するPCE価格指数では、住居費の比率がCPIほど大きくなく、代わりにヘルスケアの比重が高くなっています。今回はヘルスケアの伸びは比較的落ち着いていたため、今後の金融政策の判断においては、いつも以上に月末発表のPCE価格指数に注目する必要がありそうです。

【図表6】CPIとPCE価格指数の構成要素の割合の比較
出所:BEA、Bloombergのデータ(※2024年12月時点)を基にマネックス証券作成

フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐