2025年2月4日(火)0:00発表(日本時間)
米国 ISM製造業景気指数

【1】結果:市場予想を上回って前月から改善し、2022年10月ぶりの景気拡大圏へと回復

1月の米ISM製造業景気指数は50.9と市場予想の50.0を上回り、前月の49.2から改善を示しました。景気の分岐点となる50を2022年10月以降で初めて上回り、米国の製造業は景気拡大を示しました。経済全体では、一般的に42.5以上を記録すると景気拡大とみなされますが、今回で57ヶ月連続の景気拡大を示しました。

※製造業の拡大・縮小を判断する基準値は50ですが、製造業が経済全体に占める割合は1割程度であることから、指数が50を下回ったとしても、経済全体としては必ずしも縮小を意味するわけではありません。米供給管理協会の回帰分析に基づく調査によると、過去のISM製造業景気指数と米国GDP成長率の関係から、指数が42.5を上回れば、一般的に経済全体(GDP)は成長していると解釈されます。

【図表1】ISM製造業景気指数の推移
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成
※市場予想はBloombergがまとめた市場予想の中央値

【2】内容・注目点:需要は好調で生産と雇用も拡大圏へと回復

そもそもISM製造業景気指数とは

ISM製造業景気指数は、全米供給管理協会が製造業300社以上の仕入れ担当者に生産状況や受注状況、雇用状況等の各項目についてアンケート調査を実施し、その調査を基に製造業全体のセンチメントを指数化したものです。企業のセンチメントを反映しており景気転換の先行指標とされること、また主要指数のなかでは最も早く発表されることから注目が集まります。

1月結果の詳細・内訳

【図表2】ISM製造業景気指数、各項目まとめ
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成
※太字は総合指数の構成要素。

景気の先行指標の新規受注は3ヶ月連続で拡大

図表2の通り各項目を見ると、景気の先行指標とされ最も注目の集まる新規受注は、前月比3.0ポイント増の55.1となり、3ヶ月連続で拡大を示しました。大統領選が終了して以降、受注再開の動きが活性化しています。

生産は9ヶ月ぶりに拡大し、受注-在庫バランスも今後の安定的な生産を示唆

受注の増加に応じて、生産指数も前月から2.6ポイント上昇して52.5となり、2024年4月以来9ヶ月ぶりに拡大圏へと回復しました。図表3の通り受注-在庫バランスを見ても、新規受注が在庫を上回っていることから適正な水準にあるといえ、今後も安定的な生産の増加が見込まれます。

在庫指数については、総合指数を構成する項目として唯一50を下回り、総合指数を押し下げる要因となりましたが、こちらについては企業が生産を増やしたことにより、企業が望むほどの材料を調達できなかったことによるものと考えられ、さほど懸念する問題ではないでしょう。

【図表3】受注-在庫バランスと生産指数の推移
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

雇用指数も大幅上昇となり拡大圏へと回復

生産指数の増加とともに雇用指数も、前回から4.9ポイント上昇して50.3となりました。2024年5月以来8ヶ月ぶりに拡大圏へと回復です。また、1月の採用と人員削減の比率は約1対1で、前月の1対2の比率と比較して改善を示していることが報告されています。

今回の報告からは、企業は大統領選挙の終了後、受注(需要)の回復に伴い、生産量(生産指数と雇用指数で測られる)を増やしつつあることがうかがえます。

【図表4】ISM製造業雇用指数の推移
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

なお、ISMによると、雇用指数が50.3を超える場合、一般的にBLS雇用統計の製造業雇用者数の増加を示唆するとされており、雇用統計で軟調な推移が続く製造業の雇用者数にも増加が見られるか注目です。

支払価格指数は再び上昇

総合指数の構成要素以外では、支払価格指数が前回の52.5から54.9に上昇しました。インフレ再加速が直ちに懸念されるほどの水準ではないものの、需要の増加に応じて再び支払価格指数は上昇基調にあります。

また、トランプ政権では関税強化や移民制限(供給制約)などによるインフレ再燃のリスクも指摘されており、2025年は需要回復とともに価格指数が落ち着きを見せられるかどうかが市場の注目ポイントとなりそうです。

【図表5】ISM製造業支払価格指数の推移
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

業界別動向でも良好さがうかがえる

また、業界別にみると、6大製造業のうち4つの業界(石油・石炭製品、化学製品、機械、輸送機器)が拡大を示しました。前月は6大製造業で拡大を示した業界はなかったため、全体的に改善していることがうかがえます。また、総合指数で45以下を記録した企業の割合(GDP比)は、1月は8%となり、12月の49%から大きく改善を示しました。

【3】所感:総じて良好な結果も気になる企業担当者のコメント

米製造業は26ヶ月ぶりに縮小圏を脱し、2022年10月以来初めて拡大圏へ回復しました。内容を見ても総じて良好で、大統領選挙後に活況を取り戻しつつあることがうかがえます。

一方、市場の反応は限定的でした。本調査は1月時点のもので、2月に入ってからのトランプ大統領の関税政策の動向を反映していないため、速報性に欠けると受け止められた可能性があります。

来月以降の調査が重要ですが、今回の企業担当者のコメントで指摘された「重要鉱物のサプライチェーンが中国の規制により大幅にひっ迫している」点が注目されます。今後、対中関税が強化され、中国が報復措置に出た場合、サプライチェーンの混乱を通じて支払価格指数や入荷遅延、在庫、生産にネガティブな影響を及ぼす恐れがあります。今後も、政治要因には目が離せない状況が続くでしょう。

フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐