2025年2月7日(金)22:30発表(日本時間)
米国 雇用統計
【1】結果: NFP、1月は下振れも過去2ヶ月分は上方修正 失業率は4.0%に低下
2025年1月の米国非農業部門雇用者数(NFP)は、前月比で14.3万人増と市場予想の17.5万人増を下回りました。一方で、11月の雇用者数は21万2000人増から26万1000人増に、12月は25万6000人増から30万7000人時増にそれぞれ上方修正されています。
また、失業率は4.0%と、市場予想を下回って前月から0.1ポイント低下し改善を示しました。平均時給は前月比0.5%増、前年比4.1%増となり、いずれも市場予想を上回りました。

【2】内容・注目点:1月NFPは 悪天候の影響あり?家計調査の「比率」に注目
非農業部門雇用者数(事業所調査)の詳細
1月のNFPは前月比14.3万人増にとどまり、市場予想の17.5万人増を下回りました。下振れの要因としては、年次改訂の影響に加え、天候要因が挙げられます。1月中旬にはロサンゼルスで火災による壊滅的な被害が発生し、北東部では大雪に見舞われました。米労働省は天候が雇用に与えた影響は目立たないとしていますが、天候要因で休業した就業者は例年より多く(図表2参照)、事業所調査では給与が支払われていない休業者は雇用者としてカウントされないため、天候がNFPの下振れに一定の影響を与えたと考えられます。


こうした一時的な要因により1月は下押し圧力がかかり下振れした一方、過去2ヶ月分は計10万人分の上方修正が行われました。
1月こそ雇用者数の増加ペースは鈍化しましたが、3ヶ月移動平均など平準化した指標で見ると、NFPの雇用は引き続き上向き傾向にあり、米労働市場の堅調さが確認できます(図表3)。

家計調査の詳細
上述の通り、事業所調査に基づく雇用データは年次改訂の影響や悪天候による休業者の影響により解釈が難しいため、今回はそれらの影響度合いが低い家計調査に注目が集まりました。
ただし、家計調査の雇用者数も、最新の人口推計が組み込まれた影響で前月との比較ができません。図表4の通り、1月の家計調査に基づく雇用者数は前月から200万人以上と異常な水準で増加していますが、この数値の水準そのものに大きな意味はないでしょう。そのため、数値の絶対値ではなく比率に注目することが重要となります。

そして、1月の失業率は4.0%と、前月の4.1%から低下しており、やはり米労働市場は改善を示していることが分かりました。また、図表5の通り、失業理由別に見ると、景気後退と最も関連が深い恒久的解雇(赤線)はやや低下しており、内訳を見ても労働市場の改善がうかがえます。

さらに、生産年齢人口の就業率をみても、1月は80.7%に上昇し、高水準を維持しており、総じて米国の労働市場は堅調さを示しています。

その他、家計調査に基づくデータでは、リセッションの兆候を示すとして注目されるフルタイム労働者とパートタイム労働者の前年同月比伸び率を見ると、前月にプラス圏に浮上したフルタイム労働者が今月も上昇し、一方でパートタイム労働者の伸び率は引き続き鈍化を示しました。

平均時給は市場予想を上振れも一時的な要因か
雇用者数の堅調な伸びを受け、平均時給は前月比0.5%増、前年比4.1%増となり、市場予想を上回りました。
平均時給の上昇はサービスインフレの再燃懸念につながりますが、現時点で平均時給が再加速し始めたと判断するのは時期尚早かもしれません。今回は恐らく悪天候の影響で週平均労働時間が減少していますが(図表8参照)、仮に一部の労働者が労働時間を短縮されても同じ収入を得ていた場合、全体の平均賃金は押し上げられることになります。
また、悪天候の影響を受けやすいのは主にパートタイムなど時給制の職種と考えられ、これら労働者の欠勤により、相対的に高賃金のフルタイム労働者の比率が一時的に上昇した可能性もあります。来月以降、悪天候の影響が落ち着いた場合、平均時給は再び落ち着きを示すかもしれません。

現状のマクロの状態をみても、JOLTSで公表された賃金の先行指標となる自発的離職率が低下基調にあることから(図表9参照)、今後の平均時給の急反発は現時点では考えにくいでしょう。

【3】所感:堅調な米労働市場 今後の金融政策判断は物価指標次第
今回の雇用統計は、NFPのヘッドラインの数値こそ市場予想を下振れしたものの、過去2ヶ月分は上方修正されたほか、失業率は低下し、総じて米国の労働市場が堅調であることが示されました。
こうした中、平均時給の上振れなどによるインフレ懸念から、米FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げペースが鈍化するとの見方が強まり、米金利は上昇、株式市場は下落となりました。
ただし、上述の通り今回の平均時給の上昇は一時的要因の可能性もあるほか、今後の金融政策を判断する上で、重要なのは平均時給の上昇が実際にサービスインフレに繋がるかどうかです。物価指標が想定通り鈍化し、インフレ目標の達成に確信を深められるのであれば、FRBは最大雇用を更に追求するためにこれまでの想定通り緩やかな利下げを実施出来る余地が残ります。まずは、12日に発表予定の米CPI(消費者物価指数)に注目です。
フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐