モトリーフール米国本社– 2024年12月15日 投稿記事より
イーライリリー・アンド・カンパニー[LLY](以下、イーライリリー)は、大手製薬会社として常に革新を追求し、新しい治療法の開発に取り組んでいます。
以下では、イーライリリーの2つの新たな好材料と2つの懸念材料について説明します。
新たなデータと新たな設備投資が大きな成果を生み出す見通し
イーライリリーをめぐるストーリーは、少なくとも最近は成功ストーリーが続いています。2型糖尿病治療薬のMounjaro(マンジャロ)と、同じ成分を使った肥満治療薬のZepbound(ゼップバウンド)が好調なため、過去12ヶ月間の営業利益は3年前と比べて90.7%増加して151億ドルとなりました。どちらもチルゼパチドを有効成分として使用した両製品の需要は非常に高く、10月以前は米国内で品薄状態となっていました。
イーライリリーが一心不乱に製造面への設備投資を行っているのはそのためです。同社は12月5日、2024年に入って買収したウィスコンシン州の製造拠点を30億ドルかけて拡張すると発表しました。これにより、同拠点への投資総額は40億ドルに達します。すでに10億ドルを投じている製造設備に追加で数十億ドルを投資するということは、それだけ大規模な生産能力が必要になることが予想されているということです。
投資以上のリターンが見込まれるのでない限り、経営陣が工場の拡張に踏み切るはずはありません。これこそが、イーライリリーに対する新たな好材料の1つです。新しい設備に追加投資するたびに、同社がより大きな市場に参入する可能性があることを示しています。
ZepboundとMounjaro製造の為に供給能力を拡大する主な背景として、イーライリリーはこれらの薬が効く可能性のある別の適応症を特定するために、臨床試験を含むさらなる研究開発(R&D)を進めているということにあります。
同社はまた、自社の製品と、心代謝系疾患の医薬品市場における主要な競合相手であるノボ・ノルディスク[NVO]の製品との比較についても、テストしています。ノボ・ノルディスクはセマグルチドを有効成分とした医薬品がブロックバスター(超大型新薬)となり、2型糖尿病治療薬のOzempic(オゼンピック)と減量薬のWegovy(ウゴービ)として販売されています。
この点に関して、イーライリリーは12月4日、ZepboundがWegovyと比較して減量効果が高いことを示すフェーズ3b臨床試験の暫定データを公表しました。試験によると、週1回の投薬を72週間継続した結果、Zepboundを服用した患者はWegovyを服用した患者と比べて47%多く体重が減少しました。試験結果が完全に有効であるとみなされるには、すべての結果が査読(ピアレビュー)のある科学雑誌で検討され、公表が承認される必要がありますが、Zepboundの有効性が認められれば、市場シェアの獲得と維持に有利に働くはずです。これが、イーライリリーにとってもう1つの好材料です。
最近の成長ストーリーは、ピークを過ぎた可能性がある
一方で、イーライリリーへの投資に慎重になる理由も2つあります。
最も重要なのは、イーライリリーの急成長は永遠には続かないということです。実際、成長ペースが鈍化しつつあることを示すいくつかの証拠があります。第3四半期決算によると、医薬品卸売業者によるMounjaroとZepboundの購入量は過去数四半期と比べて減少しました。この決算が発表された当日に、株価は下落しました。
経営陣は、卸売業者がこれまでにチルゼパチドなどのGLP-1受容体作動薬を大量に仕入れたために、(一時的に)在庫過剰になったと指摘しています。それも事実かもしれません。しかし、このように説明しても、GLP-1受容体作動薬の生産能力がいよいよ拡張され、現状水準のマーケティング費用で米国における既存の需要水準を満たせるようになったという事実は変わりません。
MounjaroとZepboundの売上がさらに伸びるには、競合他社、特にノボ・ノルディスクから市場シェアを奪うことがすぐにも必要になるでしょう。そのためには、イーライリリーは販売管理費を引き上げる必要がありますが、競争環境は今後ますます激化していく一方であるとみられるため、そうしたコストがその後に減少することは期待できません。
バリュエーションは高過ぎる可能性がある
イーライリリー株に慎重になるべき2つ目の理由は、1つ目ほど重要ではありませんが、少し前からバリュエーションが高めであるということです。イーライリリーの実績株価収益率(PER)は86倍であり、これは利益が平均を大幅に上回るペースで増加し続けるとの予想に基づいて、投資家が利益に対して高い株価を容認していることを意味します。そうなる可能性も否定できません。
しかし、投資家の過大な期待を下回る決算が数四半期続き、多くの投資家がより良い企業を求めてイーライリリー株を手放す可能性もあります。精彩を欠く四半期が続いた場合に、株価下落が起こることは想像に難くありません。
全体として、足元ではリスクとリターンのバランスはイーライリリーに有利であり、この状況はしばらく続くとみられます。しかし、バリュエーションが手頃で、短期的に急成長が期待できる銘柄を探しているのであれば、イーライリリーはもはやその条件には当てはまらないかもしれません。
免責事項と開示事項 記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。元記事の筆者Alex Carchidiは記載されているどの企業の株式も保有していません。モトリーフール米国本社はノボ・ノルディスクの株式を推奨しています。モトリーフールは情報開示方針を定めています。