大統領選挙後のテスラ[TSLA]株の高騰は「史上最高のカムバック相場」
米経済誌「フォーブス」のリアルタイム・ビリオネアリストによると、米実業家イーロン・マスク氏の資産が4000億ドルを突破したことが明らかになった。マスク氏が率いる米電気自動車(EV)大手テスラ[TSLA]の株価上昇がその要因のひとつだ。
テスラ株は先週436ドルまで上昇し、約3年ぶりに史上最高値を更新した。マスク氏がトランプ次期政権入りすることで、テスラにとって有利な規制緩和が進むとの期待から値上がりが続いている。テスラ株が過去最高値を更新するのは2021年11月4日(409.97ドル)以来となる。
2024年に入ってからのテスラの上昇率は約76%であるが、大統領選後の約1ヶ月半で4割ほど上昇しており、その大半は大統領選後の株価高騰によるものだ。史上最高のカムバック相場と呼ばれている。
日本経済新聞の12月12日付けの記事「テスラ株価、3年ぶり最高値 トランプ政権で規制緩和期待」は、米大統領選においてマスク氏がトランプを支持するキャンペーン活動に2億7700万ドルをつぎ込んだと報じている。これは連邦選挙委員会(FEC)への提出書類から明らかになっている。日本円にして400億円ほどと莫大な金額だ。
マスク氏はトランプ次期政権において歳出削減を目指す「政府効率化省(通称DOGE)」のトップに指名されている。政権入りによって、政策への発言力を強めていくとみられると同時に、規制緩和に意欲を示している。とりわけ自動運転の規制緩和など、テスラにとって有利な政策が進むとの期待が株価押し上げにつながった。企業としてのテスラの収益変動以上に、マスク氏の政権入りに対する期待が先行しており、まさにイーロン・トレードの様相を呈している。
アイザックマン氏のNASA長官就任で「スペースX」にも追い風
マスク氏の資産が膨らんでいる要因はもうひとつある。マスク氏が手がける未上場の宇宙企業「スペースX」の評価額が上昇していることだ。ブルームバーグの12月10日の記事「SpaceX Valuation Jumps to About $350 Billion in Insider Sale (スペースXの企業価値、インサイダーセールで約3500億ドルに急騰)」によると、スペースXと投資家が同社の企業価値を3500億ドルと評価していることを報じた。1株当たりの価格は185ドルで、約3ヶ月前の前回評価額112ドルから大きく上昇した。
一方、トランプ次期米大統領は12月4日、決済会社などを経営する富豪のジャレッド・アイザックマン氏を、NASA(米航空宇宙局)長官に起用すると発表した。アイザックマン氏はマスク氏との関係が深いこともあり、NASAからスペースXへの発注が今後増えるとの見方も浮上している。
マスク氏が20年以上前に創業したスペースXは、今や米国有数のロケット打ち上げ企業に成長し、衛星インターネット事業の「スターリンク」を展開している。一部報道によると、2024年の売上高は約150億ドルになるとみられている。アイザックマン氏のNASA長官就任は、スペースXには大いなる追い風となるだろう。
テスラは3四半期ぶりに最終増益、営業利益率は2桁台を回復
テスラが10月23日に発表した2024年7-9月期決算を振り返っておこう。売上高は前年同期比7.8%増の252億ドル、当期純利益は16.2%増の22億ドルだった。3四半期ぶりの最終増益となった。米国や欧州において販売が減少したものの、政府が補助金による販売促進策をとる中国で販売が回復した。収益力などを示す営業利益率は10.8%と前年同期比3.2ポイント上昇した。
テスラが目指すのは自動運転ソフトウエアのプラットフォーマーか?
マスク氏は以前、2024年の事業展開について、投資家との決算説明会において次のように語っていた。
2024年には楽しみなことがたくさんあります。テスラは現在、大きな成長の波の間にあります。私たちは、次世代自動車、エネルギー貯蔵、完全自動運転、その他のプロジェクトによる次の成長の波を可能な限りうまく実行することに集中しています。
テスラはAI推論においておそらく世界で最も効率的な企業だと思います。AI推論の効率という点では、私たちは世界のどの企業よりもはるかに進んでいると思います。また、テスラを自動車会社だと考えている人たちが、テスラをAIロボット会社だと考えるようにテスラに対する認識を変えることも重要です。
テスラは2023年、3億ドルにも及ぶAIコンピューティングのクラスターを立ち上げた。エヌビディアのH100GPUを1万個採用した世界でも有数の高性能なスーパーコンピューターである。この新しいスパコンのクラスターを導入することで、自動運転技術をこれまで以上に早くトレーニングするための計算能力を大幅に強化することになる。このことは、テスラが他の自動車メーカーよりも競争力を高めるだけでなく、世界最速のスーパーコンピューターの1つを所有することを意味している。
2023年に世界で同時発売された伝記『イーロン・マスク』の著者であるウォールター・アイザックソン氏は、米Time誌に寄稿した記事「Inside Elon Musk's Struggle for the Future of AI(AIの未来をめぐるイーロン・マスクの闘いの内幕)」の中で、マスク氏によるさまざまな新興企業への投資や事業は一見バラバラに見えるが、「人工知能(artificial general intelligence)」、つまりAGIに向けた新時代を切り開こうとするマスクの広範な計画の一部であると述べている。
直近では設備投資を再び加速させる一方、営業キャッシュフロー、フリーキャッシュフローともに改善を示している。また日本円にして5兆円を超える手元現金を備えている。
過去10年にわたり、マスク氏は、テスラ、スペースX、ニューラリンク、X社(旧ツイッター)そしてxAIなど、技術革新の最前線にあるさまざまな企業の経営に携わってきた。X社には長年にわたって投稿された1兆以上のツイートがあり、毎日5億件が追加されている。それはいわゆる人類の集合知であり、現実の人間の会話、ニュース、興味、トレンド、議論、専門用語の世界で最もタイムリーなデータセットである。
また、テスラ車の走行を通じて受信した1日あたり1600億フレームのビデオを持っている。それは、現実世界の状況でナビゲートする人間の映像データである。これらは物理的なロボットのためのAIを作成するのに役立つ情報の宝となる。
今後、自動運転ソフトウエアの性能がデータ量とそれを処理するスパコンの性能に依存することになれば、この分野の投資で先行しているテスラの競争優位が確立することになる。テスラは高性能な自動運転ソフトウエアを提供するプラットフォーマーとなりうる可能性を秘めているのだ。