先週(12月9日週)の動き:前半の上げ幅を維持できなかったNY金、円安の押し上げ効果が大きかった国内価格

先週(12月9日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は上下に大きく値が振れる価格展開となった。まず週初から週央にかけては、水準を大きく切り上げた。

中東でシリアのアサド政権が崩壊し地政学リスクが上昇。一方、金市場内部では中国人民銀行が11月に7ヶ月ぶりに金準備を増やしたことが判明した。いずれのニュースも12月7日に伝わった。週明け12月9日からNY金は買い優勢の流れとなり、早々に2週間ぶりの2,700ドル台に達する堅調地合いとなった。

翌12月10日以降も、前々週まで先物市場で大きく売り越しに転じていたファンドとみられる積極買いに水準を切り上げ、11日の終値は2,756.70ドルと、過去最高値を記録した10月30日以来1ヶ月半ぶりの高値となった。米国の政治分断が想定され、安全資産として買い進まれていた米選挙前の高水準まで戻ることになった。

シリア情勢を手掛かりとした買い

この段階での金市場の買い手掛かりは、アサド政権の崩壊に乗じる形で、イスラエルがシリアとの停戦協定に基づき設けていた緩衝地帯を超え進撃、空軍を含め320以上の「戦略的目標」を攻撃したと伝わったことである。さらに先行して、米軍がシリア中部で過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」の10ヶ所の標的を空爆したことも明らかになった。ただし、これらは中東情勢の新たな動きであることは確かだが、国際情勢に大きな影響を与えるものかという点では疑問だった。

無視できなかった米インフレ指標

12月11日には米金融政策の今後を読む上で注目されていた11月の米消費者物価指数(CPI)が発表された。内容は前年比2.7%の上昇で、伸びは前月の2.6%から加速した。これで2ヶ月連続の加速となった。前月比は0.3%上昇し、7ヶ月ぶりの大幅な伸びとなった。

しかし雇用情勢が堅調に推移していること、家賃の鈍化が見られることからFRB(米連邦準備制度理事会)による来週の利下げの妨げにはならないと判断され、NY金の売りにはつながらなかった。前年比、前月比とも市場予想と一致したこともある。

パウエルFRB議長はインフレ鎮静化に自信を示してはいるが、この4~5ヶ月、インフレ鈍化は足踏み状態にあり、市場には再燃を懸念する見方も増えている。

11月米PPIも加速しNY金は逆モメンタムで下げ拡大

翌12月12日の米11月生産者物価指数(PPI)の結果を受け、市場にはその懸念が反映された。前年同月比3.0%上昇と前月の2.6%から加速し市場予想(2.6%)も上回った。上昇率は2023年2月以来最大となった。

市場では12月の利下げは既定路線ではあるものの、2025年以降の利下げは一時休止を含め緩やかなものになるとの見方が広がった。つまり、金市場にて当初買い手掛かりとなっていたFRBによる継続的な利下げ実施シナリオは変更を余儀なくされる可能性が高まった。

金利見通しの変化は、その他要因と合わさりNY金の売り手掛かりとされた。こうなると週前半の上昇がファンドのモメンタムトレード(流れに付く売買手法)で拡大していただけに、反転し下げ始めると同様に下げは拡大した。

乱高下のNY金行って来い状態

こうして先週(12月9日週)のNY金は前半3営業日で97.10ドル高、後半2営業日で80.90ドル安。いわゆる行って来い状態で週末13日は2,675.80ドルで終了した。それでも週足は前週末比16.20ドル、0.6%の反発となった。レンジは2,649.70~2,761.30ドルに拡大。想定レンジとした2,630~2,690ドルは週末の終値はその範囲内だったが、上振れが大きかった。

先週(12月9日週)の金市場はリースレート(金の貸借レート)が異例の急騰をするなど、イレギュラーな動きをしたことも上振れにつながった。

日銀利上げ見送り報道で円安加速、JPX金を押し上げる

一方、国内金価格は米ドル/円相場の値動きが大きくなり、NY金の値動きよりも為替相場の影響を受け週足は大きく上昇した。大阪取引所の金先物価格(JPX金)は、NY金の通常取引の値動きが反映されるのが時差の関係で1日ほどずれる。週初からのNY金の上昇はJPX金には主に12月10日の取引から反映されることになった。週前半を通したNY金の上昇に加え、週後半にかけた米ドル高(円安)の加速はJPX金の上昇を加速させた。具体的には一時153.80円と11月下旬以来の円安が押し上げた。

週末12月13日の終値は1万3271円で週足は前週末比495円、3.91%高の反発となった。寄与分を示すなら418円程度は円安プレミアムと言える。

12月12日にはブルームバーグが、関係者の話として、日銀が追加利上げを急ぐ状況にはないと認識していると報じた。また、消費者物価の上昇に加速感が見られず、米国のトランプ次期政権誕生など不確実性が強まっている中で、1月以降に利上げを先送りした場合も大きなコストは伴わないとみているとした。これにより12月の日銀による利上げ観測は後退し、円が売られた。12月13日には日本経済新聞も電子版にて同様に報じた。

今週(12月16日週)の見通し:FOMCと日銀金融政策決定会合に注目、想定したレンジはNY金2,630~2,680ドル、JPX金は1万2,800~1万3,300円

今週(12月16日週)は内外で金融政策決定会合が多く予定されている。金価格の見通しという点では、言うまでもなく12月17、18日のFOMC(米連邦公開市場委員会)および18、19日の日本銀行の金融政策決定会合となる。

FOMCは0.25%の利下げを決めることがほぼ織り込まれている。今回の会合ではメンバーによる経済・政策金利見通しが公表されるが、FRBがどの程度次期トランプ政権の政策を織り込むのかが注目される。2025年は追加緩和ペースが鈍るとの見方が増えていることから、金利見通しと同時に、パウエルFRB議長の記者会見に注目が集まる。

日銀金融政策発表については、先週の複数の報道から据え置きの予想が多い。しかし、ブルームバーグが5~10日に実施したエコノミスト52人を対象にした調査では、政策金利引き上げのタイミングについて、2025年1月が52%と過半数を占めるものの、2024年12月という回答も44%と、ほぼ2分する形となっている。仮に見送りとなった場合でも、植田日銀総裁の記者会見は要注目といえる。

経済指標では12月20日発表の米11月個人消費支出(PCE)価格指数も注目となる。コア価格指数が前月比0.2%上昇と、3ヶ月で最も小幅な上昇になると予想されている。

こうした中で今週(12月16日週)のNY金は前週の想定レンジに近い2,630~2,680ドルを想定している。一方、JPX金は米ドル/円相場の影響を受け、再び値動き拡大の可能性がありそうだ。1万2800~1万3300円と想定する。