「STAY INVESTED」が正しかった2024年の株式市場
2024年も残すところあと3週間となりました。ちょうど1年前に、このコラムで書いた投資についての一言があります。2023年に続き、教訓「STAY INVESTED(投資を継続すること)」が有効な1年となりました。
2023年12月時点では、2024年のアメリカ経済が景気後退に陥るという見方が主流で、ウォール街の株式ストラテジストも米国株に悲観的でした。彼らのS&P500平均目標は4,777ポイントで、2023年末の引け値4,769ポイントとほぼ同水準でした。
一方、私は2024年末のS&P500目標を5,200ポイントと予想し、株価上昇率9%、配当込みでトータルリターン10%を見込んでいました。ただ、S&P500はいち早く2024年3月に5,200ポイントに到達してしまい、その後も上昇を続けました。その後、私は目標を5,500ポイント、さらに5,700ポイントへ上方修正しましたが、市場はこれを次々と超えたのです。9月には目標を6,000ポイントに引き上げたのですが、11月11日にS&P500がついに6,000ポイントを突破、6,001で引けました。その後も上昇を続け、12月6日には6,090.27ポイントで史上最高値を更新しました。
S&P500のドル建ての年初から12月6日までの上昇率は27.68%です。円建てでは35.95%の上昇率です。一方、日経平均は同期間16.81%の上げとなっています。米ドル/円の為替のリスクをとって投資をする私たち日本人にとって、1年前にS&P500指数に連動する投資信託やETFに投資をしていたら35.95%、また、配当金の再投資をするトータルリターンでは37.71%のリターンを享受できた年となりました。
つまり、下落を恐れて一度売却し、下がったら再度投資しようといった余計なことはせず、投資をしたら何もせず、ただ「STAY INVESTED」をすれば、37.71%のリターンを得ることができたのです。米国株投資家にとっては素晴らしい年と言えるでしょう。
2025年のS&P500は7,000ポイントを予想
高いリターンが得られた2024年の翌年、2025年の見通しはどうなるのでしょうか。私は、2025年もS&P500は上昇を継続し、年末には7,000ポイントに達成、上昇率15%、配当金を加えると16%程度のリターンが得られると考えています。もちろん、この考えにはファンダメンタルズに基づいた理由があります。さらなる上昇のドライバーとなるのは堅固な企業業績です。
S&P500の2024年の企業業績は2023年比で9.7%の増益となる見込みです。2025年は12.9%、2026年は13.1%の増益が予想されています。
昨今、AI投資の恩恵を受ける企業が散見されます。この流れは今始まったものでなく、今後もAIの恩恵を受ける企業の数は増えてくると考えており、それは企業業績にもプラスに貢献するでしょう。加えて2025年からのトランプ次期政権の政策では、企業業績をより強固なものにし、そして最終的に株価を押し上げる政策を取ることが期待されています。
トランプ氏の政策の目玉は減税です。トランプ氏は、2017年の税制改革で法人税率を35%から21%に引き下げましたが、新政権ではさらに15%への引き下げを目指しています。これは企業業績に上方修正をもたらします。また、トランプ氏は2017年の税制改革で個人所得税の減税措置を導入していますが、2025年に期限切れになる予定です。トランプ氏は、この減税措置の延長や拡大を検討しています。加えて、チップ収入や残業代、社会保障給付への課税免除の提案をすると言われています。
次にくる政策のキーワードは規制緩和でしょう。トランプ氏は徹底的な規制緩和を行うとされています。ビジネスに対する規制が緩和されると、経済には大きな変化が起こると考えています。アメリカのビジネス業界は、規制でがんじがらめになっていると言われていますが、それが劇的に変わることになるでしょう。
また、トランプ氏の当選に際して最大の功績者であるイーロン・マスク氏が率いることになったDOGE(政府効率化省)は、5000億ドル相当の連邦政府の無駄な予算の削減を狙っています。正式な政府部門ではなく、どこまで連邦支出の削減を行う権限があるかなど未知数な面はあるものの、これまでになかった新たな試みです。政府支出の無駄が見えてくることは大事なことであり、大切な最初のステップとなるでしょう。このような試みは、ぜひ日本でもやってもらいたいものです。
2025年の投資戦略は引き続き「STAY INVEST」
以上を踏まえ、2025年はどのような投資のスタンスが必要か考えてみたいと思います。市場全体は上昇すると考えているので、「投資を継続すること」が大事だと考えます。コア資産としてS&P500、ナスダック100に連動するETFや投資信託への投資は続けることです。これで市場並みのリターンを得ることができます。
中小型株指数に連動するETFや投資信託に投資妙味
減税の恩恵を受けやすいのは中小企業です。というのも、巨大な企業は海外の売り上げ比率も高く、すでに米国より低い税率の恩恵を受けています。そうした意味で、中小型株指数に連動するETFや投資信託には投資妙味があると思われます。S&P500やナスダックをコアとするポートフォリオに追加して小型株のポジションをとることを意識するとよいのではないでしょうか。
小型株指数のラッセル2000に連動するiシェアーズ ラッセル 2000 ETF[IWM](ベンチマーク:Russell 2000インデックス)や、S&P500の中でも時価総額の小さな銘柄の恩恵を受けやすいイコール・ウェイト指数に連動するインベスコS&P500イコール・ウェイトETF[RSP]などが選択肢となるでしょう。
規制緩和の恩恵を大きく受ける銀行セクター
また、銀行セクターは規制緩和の恩恵を大きく受けると考えられます。米国の銀行業界に詳しい識者によると、リーマンショック後、銀行セクターへの規制は強化し続けられ、今が最も規制でがんじがらめになっており、株主還元を含む資本政策も立てにくくなっていると言われています。トランプ政権では、その巻き戻しが起きると見られており、ここからの銀行株のアウトパフォームは続くと考えられます。ジェイピー・モルガン・チェース[JPM]、バンク・オブ・アメリカ[BAC]、ゴールドマン・サックス[GS]、モルガン・スタンレー[MS]、シティグループ[C]、ウェルズ・ファーゴ[WFC]のような企業が恩恵を受けると思います。
2025年のマグニフィセント7はどうか?
読者の皆さんにとって、最も関心が高いのはマグニフィセント7(※)(以下MAG7)ではないでしょうか。アメリカを代表するグローバルメガ企業の7社は2024年平均で67.61%上昇、S&P500の27.68%の上げを大幅に上回りました。MAG7を構成する企業のビジネスはそれぞれ違うものの、彼らの魅力は変わりません。2025年のMAG7は2024年ほどの株価の上昇は難しいとしても、引き続きS&P500の業績の伸びを超えて成長するため、株価の方もS&P500のリターンを超えて上昇すると考えています。
バイデン政権下では、消費者保護の観点で大企業に対する規制の強化を行いました。バイデン大統領はFTC(米連邦取引委員会)のトップにリナ・カーン氏を任命、MAG7のような巨大企業に対し、反トラスト(独占禁止法)政策を展開させました。そのカーン氏は、トランプ政権では退任させられ、共和党寄りの委員長を任命すると言われています。これによって、大企業に対する政府からの圧力は減っていくものと考えられます。米国は規制でがんじがらめになっていると言われていますが、トランプ2.0ではそれが劇的に変わると予想されており、MAG7のような巨大企業の銘柄も規制緩和の恩恵を受けることになるでしょう。
そういった流れがあるなか、巨大企業のCEOのトランプ氏に対する対応も、前回の政権時と比べ大きく変わったのが印象的です。前回トランプ氏が大統領の時は、メタ・プラットフォームズ[META]のザッカーバーグCEOは、トランプ氏のFacebookやInstagramのアカウントを停止しました。アマゾン・ドットコム[AMZN]のジェフ・ベゾス会長は民主党寄りの立場を支持する傾向があり、トランプ氏の政策やリーダーシップに批判的でした。このようなこともあり、トランプ氏はベゾスを個人攻撃することが多く、SNSでも頻繁に名前を挙げて批判していました。ただ前回の経験から、米国の巨大企業もトランプ氏を敵に回すのは得策ではないとの判断を下したようです。
ワシントンポスト紙の論説委員会は、民主党の大統領候補だったハリス氏を支持する社説を掲載する予定でした。しかし、ワシントンポストのオーナー、ジェフ・ベゾスの判断により、ハリス氏支持の社説の掲載は中止となりました。また、トランプ氏当選に向けて全面的に協力したテスラ[TSLA]のイーロン・マスクCEOは、当選後、その貢献者としてトランプ氏から家族のように扱われています。
トランプ氏の当選が確認されるや否や、巨大企業のCEO達はトランプ氏に対して祝いの言葉を送り、ザッカーバーグCEOは早くもフロリダのトランプ氏の邸宅に招かれ、夕食をともにしています。全ては、自分たちの企業の成長をトランプ氏に邪魔されないためのことではないかと思います。このような流れはMAG7企業にとって追い風となるでしょう。
2024年年末に向けては上昇を継続、2025年の年明けは調整の可能性か
S&P500は、これまで大きな調整なく上昇を続けてきました。今後2024年12月末までは、これまでの上昇のモメンタムは継続され、年末ラリーで上昇を継続すると考えていますが、その後、2025年明けには5−10%程度のマーケットの調整が起きるのではないかと考えています。
米国では1928年からの歴史上1年間に5%以上の調整は3回、10%を超える調整は1回あるのが一般的です。今回もしそのような調整あったとすれば一時的なものであり、その調整は買いの機会と考えています。いずれにしても、2025年も「STAY INVESTED」が正しい年になるのではないでしょうか。
また、マーケットのリスクとしては、トランプ政権が検討している関税の引き上げからくる米国内のインフレ、世界経済への悪影響、国際関係の悪化などが考えられます。移民政策の強化は、ポジティブな面がある一方、不法移民に依存している産業で労働力不足が発生し、賃金上昇でインフレをもたらす可能性があります。一方、想定外の展開としては、現時点ではまだ考えにくいものの、トランプ氏がウクライナ戦争を終結させることです。そのようなことが起きれば、リスク資産である株式はより好感される展開となるはずです。
(※)アップル[AAPL]、マイクロソフト[MSFT]、アルファベット[GOOGL]、アマゾン・ドットコム[AMZN]、メタ・プラットフォームズ[META]、エヌビディア[NVDA]、テスラ[TSLA]