米国10年金利が上昇している理由

図表1の通り、9月以降、米国10年金利が上昇しています。

【図表1】米国10年金利の推移
出所:Bloomberg

金利は投資家が予想する将来の期待短期金利と、期間に伴う上乗せ部分であるタームプレミアムとに分けられますが、現在の金利上昇はタームプレミアムによるものです。また、その動きは大統領選挙を控える中で、トランプ氏勝利予想に連動しています。タームプレミアムは政策の不確実性や国債への需給が影響するため、トランプ氏の政策について、その不透明感を織り込む形で金利が上昇しているとみられます(図表2)。

【図表2】10年タームプレミアム(青、左軸)とトランプ氏勝利確率(橙、右軸)
出所:Bloomberg

改めて、タームプレミアムの長期推移を見ると、1990年代以降広いレンジ内で上下に推移してきましたが、金融危機以降0近辺に向けて低下し、直近までは以前より低い水準で新たなレンジを形成しています。金融危機以降は非伝統的な施策を含め、金融政策がこれまでと大きく変わっており、政策金利の不確実性が低下したことがタームプレミアムの押し下げに寄与しているでしょう。

【図表3】10年タームプレミアムの長期推移
出所:Bloomberg

2016年以降で3度タームプレミアムが上昇しています。1つ目はトランプ政権誕生時、2つ目はコロナ禍の財政支援を受けた動き、3つ目は2023年に政党間で政府予算協議をめぐる衝突によって政府機関閉鎖の懸念が高まったときです。今回ももみ合いの上限に近づいており、タームプレミアムに構造的な変化がない前提であれば、タームプレミアム主導の金利上昇は相応の水準に達しているとみています。

債券市場は金利妙味とクレジットリスクが並存する状況

そのような状況下での債券市場は、債券版恐怖指数とも言われ変動性を示すMOVE指数を見ると、足元は変動性が高まっていることがわかります。

【図表4】債券市場のボラティリティを示す債券版恐怖指数(MOVE指数)の推移
出所:Bloomberg

不安定な局面は投資妙味につながるタイミングでもありますが、一方でクレジット投資環境を見ると、こちらはスプレッド(国債に対する上乗せ金利)がかなりタイト化しています。

【図表5】対国債スプレッド:投資適格債(赤)とハイイールド債(緑)
出所:Bloomberg

以下の図表6はクレジットスプレッドと、その水準でその後3年保有した場合のリターンの関係を示しています。クレジットスプレッドは、ワイドである方が利回りがあることからリターンを期待されます。これまでの利上げによって、米債券全般に利回り水準は妙味があるものの、クレジット債として米国債に上乗せされる部分のタイト化が進んでいることから、リスクも相応に感じられる状況とみられます。

【図表6】投資適格債(左図)とハイイールド債(右図)の対国債スプレッド(横軸)と、その水準におけるその後3年保有リターン(縦軸) ※青線が現在の水準を示す
出所:Bloomberg

同様に、米国債金利の水準とその後3年保有した場合のリターンの関係を、米短期債・米中期債・米長期債ETFの利回りから確認すると、米中期債・米長期債では相応のリターン妙味が示されました。

【図表7】米短期債(赤)・米中期債(黄)・米長期債(緑)の利回り水準(横軸)とその後3年保有リターン(縦軸) ※青丸が平均リターン、枠が最大値最小値を含むレンジ、赤線が現在の水準を示す
出所:Bloomberg

投資妙味が高まる米中期債・米長期債に注目

タイト化が進んでいるクレジット投資のリスクは高まっており、株式投資への分散対象としては適さなくなっているように感じます。一方で、米中期債に含まれる10年金利の利回りは現在株式益利回り(PERの逆数)よりも高水準にあるなど投資妙味が高まっており、注目されます。

また、米長期債はより高リターンを狙えますが、金利上昇時にはリターンを毀損するリスクも高まります。よって、株式投資との組み合わせにおいては、金利上昇時に株式投資でリターンを得て、金利低下時、特に株価が調整するシナリオ発現時に効力を発揮してくれるものと期待されます。

【図表8】株式益利回り(PERの逆数)と債券利回りとの差
出所:Bloomberg