先週(8月26日週)の動き:NY金過熱感なき最高値更新、押し目は限定的。国内価格1万1700円が中心レンジ

NY金、終値ベースで最高値更新も、利益確定の売りが先行

先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、終値ベースで過去最高値を更新した。8月23日のジャクソンホール会議での講演でパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、「利下げの時期がやって来た」と発言。9月開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げを事実上認めたことを受け、短期筋のファンドの買い攻勢が強まり、水準を切り上げた。

先週5営業日いずれもNY金の高値は2,560ドル台止まりで、取引時間中の最高値更新(8月20日の2570.40ドル)には至らなかった。足元のNY金は短期筋のネットの買い建て(ロング)の規模が、736トン(8月27日時点)と2020年3月3日の835トン以来の高水準に膨らんでいる。さすがに高値警戒感もあり、最高値に接近すると売りが控え反落というパターンが繰り返された。ただし、押し目は浅く、下値は2,520ドル程度となっている。

その中で8月29日の2,560.30ドルが、終値ベースでの最高値となった。8月30日は、前日比32.70ドル安の2527.60ドルで週末の取引を終了した。9月2日がレイバーデーの祝日となる3連休を控え、ファンドのポジション(持ち分)調整の売りが先行したこと、さらに発表された7月の米個人消費統計にてインフレ沈静化の一方で、個人消費の堅調さを示したことから、9月の利下げは(0.5%でなく)0.25%になるとの見方が強まり、利益確定の売りが先行した。

週足は前週(8月19日週)末比18.70ドル、0.73%安の反落となったが、月間ベースでは2ヶ月連続の上昇となる。価格レンジは2,526.60~2,564.30ドルで、やはり特徴は押しの浅さと言える。足元はFRBの利下げ転換が手掛かり材料だが、先行きの不透明要因の多さが金(ゴールド)への逃避需要を継続させており、過熱感のない高値更新が続く中での成功体験が、さらなる先高観を醸成する形で市場にフィードバックされている。過熱感のなさと言えば、先週の終値ベースでの高値更新について、金融経済メディアでも報じられることはなかった。先週、NY金の想定レンジを2,510~2,560ドルとしていたが、下値は2,510ドル台には至らなかった。

国内価格(JPX金)は、上下200円幅でほぼ横ばい 

一方、国内価格(JPX金)は、週足ベースでは大きな変化はなく、上下200円幅の値動きとなった。米ドル/円相場が前週までの下げ(円高)が売られ過ぎとの見方もあり、消費を中心に米経済が堅調さを示したことから、米ドルが買い戻された。米/ドル円の週末の引けは146.09円となったが、週間では1.2%の上昇(円安)で6月中旬以来最大の上昇となった。

JPX金の30日の終値は1万1763円で週足は前週末比51円、0.44%の上昇となった。NY金の週末の下げが円安で相殺され、ほぼ横ばいということに。JPX金のレンジは1万1629~1万1843円となったが、JPX金の想定レンジは1万1500~1万1800円としていた。NY金の下値の読みを15米ドルほど上回った。

ゴールドとプラチナの価格差過去最大更新1,600ドル超

金とプラチナの価格差は、ニューヨーク市場の先物価格終値比較で8月に入り、過去最大の1,500ドル台に広がり過去最大を更新していたが、8月28日には1,600ドル台に乗せ、8月29日には1,614.10ドルまで広がった。2015年以来、ゴールドがプラチナを恒常的に上回る状態が続き、10年余り経過した。

需給統計などから、プラチナのファンダメンタルズ(基礎的要因)に顕著な変化があるわけでなく、ひとえに相対的な安全資産と認識され、かつ金(ゴールド)の持つ通貨的側面が再認識されることで逃避需要が拡大し、価格差拡大として表れている。

同様のことは、銀(シルバー)との価格差拡大としても起きている。金銀比価は、かつては55倍だったとされるが、いまや90倍超えることも珍しくなく、先週末時点で87倍となっている。従来的な感覚で見て、ゴールドとの比較でプラチナや銀が割安という判断がされがちだが、この数年来の価格差拡大は金(ゴールド)に対する評価が変わることで起きている。銀やプラチナは従来通りで変わっていない。

つまり金(ゴールド)の投資対象としての立ち位置が変わったことでもたらされている。一言で表せば、「通貨性の復活」だ。新興国中央銀行による継続的な大量買いが、分かりやすい例と言える。そのため、今後も価格差拡大は続くとみている。

今週(9月2日週)の見通し:6日(金)の8月米雇用統計失業率と同日のFRB高官発言に注目。想定レンジNY金2,520~2,570ドル、JPX金1万1600~1万1900円

雇用統計が市場予想に反し悪化の場合、NY金は高値を更新する可能性

今週は、9月6日(金)発表の8月米雇用統計に注目。FRBがインフレから雇用に政策の重点を移したことで、先週末のコアPCEデフレーターへの市場の反応は以前より落ちた印象だった。雇用統計については、前月比で示される雇用者の増減よりも、前回予想を上回る上昇を見せ、米景気後退観測まで生んだ失業率にある。

市場予想は7月の4.3%から4.2%への改善となっているだけに、仮に悪化していた場合の市場の反応は大きくなりそうだ。その場合、9月利下げ幅を0.5%と市場は織り込み、NY金は高値を更新する可能性がありそうだ。

9月3日(火)のISM製造業景況指数、4日(水)のベージュブック(地区連銀経済報告)にも注目。さらに7日(土)からブラックアウト(金融政策に関連する発言自粛)期間に入るが、6日(金)には、ウィリアムズニューヨーク地区連銀総裁、ウォラーFRB理事の講演が予定されている。雇用統計発表後の時間帯に予定されていることもあり、注目度は高い。

NY金上振れの場合、米ドル/円は円高に。JPX金の上値は限定的

こうした中でNY金のレンジは2,520~2,570ドルとするが、雇用統計の結果次第で最高値更新も視野に入りそうだ。一方、JPX金は1万1700円台半ばを中心に上下100円をコアレンジと見るが上振れを考慮し、1万1600~1万1900円を想定。仮に米雇用統計の結果からNY金が上振れする場合は、米ドル/円相場が円高に振れやすく、JPX金の上値は抑えられるとみられる。

【図表】金 縦軸:円建て金/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券