先週(8月19日週)の動き:パウエルFRB議長発言で最高値圏維持のNY金、円安プレミアムが剥がれる国内金価格

ニューヨーク金先物価格(NY金)、上値が重い印象ながら終値は2,550ドル超えに

先週のニューヨーク市場の金先物価格(NY金)は、週初に2営業日連続で過去最高値を更新する堅調展開となった。8月20日には一時2,570.40ドルまで買われ、取引時間中の最高値を更新、終値は2,550.60ドルと、こちらも最高値更新となった。

米連邦準備制度理事会(FRB)による9月利下げを織り込む形となり、先物市場でファンドの買いが優勢となった。ただし、日中高値を削った形の終値からは、高値警戒感が強まっていることを示しており、上値の重さを感じさせた。

一方で、ジャクソンホール会合(カンザスシティー地区連銀年次経済シンポジウム)でのパウエルFRB議長の講演内容が注目された8月23日の終値は、前日比29.60ドル高の2,546.30ドルとなった。現地午前10時に始まった講演は、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げを確定的なものとするハト派的内容となった。

パウエルFRB議長の発言を受け、米ドルは主要通貨に対しさらに弱含み、ドル指数(DXY)は一時100.602まで見て100.718で終了。2023年7月以来1年1ヶ月ぶりの安値水準になった。

米10年債利回りは、米雇用統計の結果が景気後退を意識させ、8月2日に付けた終値ベース直近の低水準の3.793%に接近する3.804%で終了。米債利回りは全般的に低下したが、特徴的なのは金融政策の方向性を捉えて動くことで知られる2年債の利回りが4%を割れ、やはり8月2日の水準に近付いたことだ。年内残る2回のFOMCでも連続利下げが行われることを織り込んだ動きと言える。

8月23日のNY金に関しては、パウエルFRB議長の発言を受け2,530ドル近辺から20ドルほど急伸し2,550ドルを超えたものの、終値は2,546.30ドルだった。8月上旬来の2,500ドル台乗せが、短期筋のファンドによる積極買いで達成されたことから、2,550ドル超では利益確定の売りが控え上値が重い印象となった。

先週末、米商品先物取引委員会(CFTC)が発表した8月21日時点でのCTAと呼ばれる目先筋のファンドの買い建ては、前週比重量換算で53トン増の736トンと、新型コロナウイルスによるパンデミックが始まった2020年3月3日以来の高水準に達している。8月21日までの2週間では約160トンの増加となる。これだけ短期で買い付くと、さすがに上値は重くなる。実際に週足では4週続伸ではあるものの、前週末比8.50ドル、0.33%高にとどまった。

先週のNY金のレンジは2,506.40~2,570.40ドルとなった。想定レンジを2,510~2,570ドルとしていたが、まさに想定通りの展開となった。特に「NY金については新値更新が続くと見る」として2,570ドルとしたところは一致した。ちなみに、取引時間中の高値更新は8月20日までで年始から30回目となる。

国内金価格は週足で反落、想定以上の円高進行が要因

国内金価格は円高の動きに、米ドル建て価格の上昇分が相殺され週足で反落となった。特に8月23日のパウエルFRB議長の発言を受け米ドル/円相場が前日比で2円近く急落(円高)し、国内金価格にとっては押し下げ要因となった。

国内金価格の8月23日の終値は1万1,712円と8月21日の高値1万1,933円から200円ほど低下したのは、主に円高によるものと言える。結局国内金価格の週足は前週末比78円、0.66%安の反落となった。レンジは1万1,658~1万1,962円だった。想定レンジを1万1,760~1万2,060円としていたが、上下限共に100円ほど下振れとなったのは、想定以上の円高進行による。

7月中国金輸入量は、6月に続き大きく減少

8月20日に発表された中国の税関データにて、7月の同国の金輸入量は前月比24%減の44.6トンとなった。ここ2年余りで最低の数字となる。6月は5月の139.0トンに対し、58.9トンと58%減になっており、2ヶ月連続で急減速している。

1月には233.5トンまで膨らみ、年初の金価格押し上げの大きな背景となっていたが、米ドル建て価格上昇にともなった価格上昇に加え、持続的な景気減速が響き、個人の金購入の意欲は衰えている。中国需要の減速は、すでに7月末に発表された国際的な金の調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)4~6月期需要統計からも明らかになっていた。宝飾需要が前年同期比35%減の86.3トンとなっていた。

一方で、先行き不透明な中で価値の保全を求める投資家の需要から、金地金や金貨という投資需要は62%増の80.0トンとなっていた。ただし、その投資需要も7月輸入量の減少と8月に入り伝えられる中国経済指標からは、減少しているとみられる。つまり、中国の一般個人のゴールド熱は足元で下火になっていると言える。

そこに入れ替わるように入ってきているのが、CTAと呼ばれる短期投機筋やETFを通した欧米機関投資家の資金だ。短期筋の資金流入拡大は、今後の値動き拡大(ボラティリティの上昇)の可能性を示唆している。

今週(8月26日週)の見通し:コアPCEデフレーターから8月雇用統計に注目、想定レンジはNY金が2,510~2,560ドル、国内金価格が1万1,500~1万1,800円    

8月23日のパウエルFRB議長の講演で、節目のイベントを超えた形の市場だが、その発言内容から市場の注目点は移行している。パウエルFRB議長は、雇用への下振れリスクが高まったとし、インフレがFRBの目標である2%に向かいつつある中、政策を調整する「時期が来た」と述べた。

インフレより雇用重視のスタンスをさらに進め「労働市場環境の一段の冷え込みは望みも歓迎もしない」と述べ、労働市場の減速は「明白だ」と付け加えた。さらに「労働市場を支えるためにできるすべてのことをする」とまで断言した。インフレについては「2%回帰に向け持続可能な軌道に乗っているという確信が強まった」とした。

このような発言内容から市場の注目は、必然的に9月6日発表の8月雇用統計に向けられることになる。減速がさらに進んでいるようであれば、9月の利下げ幅が通常の0.25%から0.5%に拡大する可能性がある。さすがにパウエルFRB議長は、そこまでの言及は避けたが、話の内容からこの流れは予見できる。

今週は、金融政策を見通す上でこれまで最注目指標であった個人消費(PCE)価格指数(デフレーター)の発表が8月30日に予定されているが、今や雇用統計に市場の関心は移行している。注目指標も環境の変化とともに移り変わる。それでも変動の大きいエネルギーと食品を除いた7月コアPCEデフレーターは注目事項だが、前月比0.2%上昇と前月並みが予想されている。

そこで、今週の想定レンジはNY金が2,510~2,560ドルと高値圏での滞留を前提としたい。国内金価格については1万1,500~1万1,800円を想定している。