米国を中心に、世界140ヶ国以上に展開
マイン・セーフティー・アプライアンシズ[MSA](以下、MSAセーフティー)は、1914年設立の安全装置およびソリューションプロバイダーです。消防士用ヘルメットや防護服、ガス検知器や落下防止装置など、労働者を危険から守る「安全装置・機器」を幅広く製造販売しています。社名のMSAは「Mine Safety Appliances:鉱山安全装置」を意味します。この社名は同社が、炭鉱事故を防止するために事業を開始した歴史を表しています。
同社の設立は1914年と今から110年も遡ります。当時の鉱山での作業は裸火ランプが使われており、これがメタンガスに引火して爆発を引き起こすことがしばしばありました。1912年に起こったジェド鉱山爆発では80人以上が命を落とし、この大事故をキッカケに、トーマス・エジソンの協力を得て「安全鉱山ランプ」を開発したのが同社の始まりです。「安全鉱山ランプ」は電池式のヘッドランプで、メタンガスに引火して爆発するという事故は、その後25年で75%も減少したと言われています。
その後は、呼吸機器や安全確保のための一酸化炭素計測装置、坑道の環境改善のための炭塵除去装置、ヘルメットや防塵マスク、さらにサーモグラフィカメラやガス・炎検知システムなど、労働者を守るための安全製品を展開しています。現在では鉱山関連は一部となりましたが、消防や石油・ガス、建設業、工業、鉱業、軍事など様々な産業分野に向け製品を提供しています。
コア製品として、自己完結型呼吸装置(SCBA)、消防士用ヘルメットと防護服、固定ガスおよび炎検知(FGFD)、携帯型ガス検知器、産業用頭部保護製品、落下防止装置があり、これらで売上の91%を構成します(2023年度)。展開する事業セグメントは、米国部門と海外部門の2つ。同社は米国を中心に(売上の7割)、140ヶ国以上で製品を販売していますが、米国が7割を占めます。
多様化した製品カテゴリは、いずれも脱炭素化やデジタル化が追い風に
製品カテゴリ別では、大きく(1)消防士の安全装備、(2)検知、(3)PPE(産業用保護具)の3つに分けられます。
(1)消防士の安全装備
消防士の安全装備部門(2023年度売上高構成比39%)では、自己完結型呼吸装置(SCBA)や防護服、ヘルメットを消防局や救急隊に提供しています。リアルタイムの事故管理プラットフォーム「FireGrid」、通信機能を備えたSCBAは引き合いが強く、最近でも西海岸の大規模な消防署やイギリスの大規模な消防署が同社製品を採用しました。消防士の安全装備部門は、安全基準の進化、消防士の安全のための堅固な資金環境、コネクテッドソリューションの採用増、出動服の需要増を背景に、今後5年間、年2~3%での成長が予想されています。
(2)検知部門
検知部門(同35%)は、固定ガスおよび炎検知(FGFD)システム、ポータブルガス検知器、冷媒検知システムなどを、エネルギー産業や公共事業、HVAC-R水道・廃水処理、食品小売、工業市場に提供しています。
例えば、TruCalガス検知システムを導入することで硫化水素 (H2S) ガス検知メンテナンスコストが75%削減された、Bacharach冷媒漏れ検出システムを導入して漏洩率が最大15%削減された、といった導入メリットが紹介されています。
検知部門は、エネルギー転換と脱炭素化、デジタル化、世界的なインフラ投資を背景に、年間4~5%での成長が見込まれています。FGFDの大部分は交換部品やメンテナンスサービスといった継続的サービスから来ています。ストック型ビジネスの色合いが強く、FGFD製品の伸びによって市場成長を上回る成長も期待できると思います。同社は2021年に、HVAC-R市場で使用されるガス検知技術のリーダーであるBacharach社を買収し、この分野を強化しました。
(3)PPE部門
PPE部門は、産業用頭部保護具や落下防止装置を、エネルギー産業や公共事業、建設、製造、工業、製薬業界に提供しています。PPE部門もエネルギー転換と脱炭素化、デジタル化による拡大が見込まれています。最近は落下防止装置に力を入れているようで、この数年で50以上の落下防止製品が発売されています。
競争力高い製品開発で市場成長を上回る成長を見込む
同社は上記3つの製品カテゴリについて、いずれも市場成長を上回る成長をすると予想しています。競争力となるのは、製品開発力です。そもそも安全装置・機器市場というのは、厳格な安全基準を満たす必要があり、とても参入障壁が高い市場です。同社はそこで、先端素材やテクノロジーを活用した新製品を開発することで、長年に渡って成長を続けてきました。実際、同社は過去5年間で1,100もの特許を取得し、そのうち37%を製品化しています。
新しいテクノロジーとしてはICT化もあり、19万5,000アイテムがクラウドに繋がっていると言います。消防サービスでは、コネクテッドプラットフォームが利用率向上につながっているとのこと。産業分野でも2023年にサブスクリプションサービスが開始され、将来的な利益成長が見込まれています。同社では、こうした事柄を促進力として、2028年に「売上高21億~23億ドル(3~5%の有機的成長)」を目指しています。また、営業利益率は毎年0.3~0.5%ptずつ高めていき、2028年に23.5~25.0%とすること、調整後EPS 10~11ドルを目標としています。
堅固なファンダと安定的なキャッシュ創出力、財務改善の進展を評価
業績は長年堅調で、例えば過去10年間年間平均5%で成長しています。最近の3年間は年間11%で成長しています。
キャッシュフローもプラスで推移しており、過去10年間は年間17%で成長し、最近の3年間は年間27%で増加しています。なお、第2四半期における営業キャッシュフローは前年から44%減少しましたが、これは運転資金が減少した(在庫調整を進めた)前年と、運転資金が増加した今期のギャップ、また、年後半に偏重する季節性が主な要因です。いずれにせよプラスで推移し、3,900万ドルのフリーキャッシュフローが残されています。創出されたキャッシュは、負債の返済(800万ドル)、配当(2000万ドル)、自社株買い(1000万ドル)に回されました。
負債については、昨年の事業整理のための事業売却から返済が進んでおり、ネットDEレシオで見ると2021年の0.6倍から今年6月末には0.4倍まで低下しています。流動比率は2.45倍、自己資本比率は46.1%と健全な財務内容となっています。