東京株式市場では日経平均株価が7月11日に過去最高値4万2224円を記録して以降、一転して波乱の展開となっている。8月5日には3万1458円の安値をつけ、わずか16営業日で1万0776円、率にして25%もの「暴落」となった。

日経平均が暴落した4つの理由

下落の理由としては主に以下の4つが挙げられる。

【1】そもそも高値警戒感があったところに、日本銀行が7月31日に0.25%までの利上げを決めたうえ、植田日銀総裁が会見で「0.5%が(政策金利の)壁として意識されるかというと、特に意識していない」と発言。市場には引き締めを加速すると受け止められた。植田総裁は2000年8月に日銀がゼロ金利を解除した時の審議委員で、ただ一人解除に反対した人物。総裁就任後も利上げには慎重な発言をしていただけに、突然の「タカ派」転換に市場が動揺した

【2】7月下旬以降に米国の経済指標が悪化し、注目された米雇用統計では非農業部門雇用者数が市場予想を下回り、失業率が上昇。景気失速懸念が浮上した

【3】一連の流れで日米金利差が縮小し米ドル安(円高)が進行した

【4】投機筋が日経平均先物売りを加速させた

その後、日銀内田副総裁が8月7日に講演で「金融市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と追加利上げに慎重な見通しを示した。そして、米国の景況感悪化懸念の過度な警戒感の後退もあり、為替も含め、市場は徐々に落ち着きを取り戻している。

日本企業の業績は堅調

7月11日に日経平均株価のPERは17.0倍だったが、8月5日には13.0倍に低下。バリュエーション面の割高感は払しょくされている。第1四半期の決算発表はピークを超えた。決算直前の日経平均の1株利益2367円が、8月9日には2427円と着実に上昇。企業業績の堅調さが確認された。ファンダメンタルズはすくなくとも、いまのところ良好だ。

投資スタンスを基本に戻すことの重要性

こうした波乱の際には、投資スタンスを基本に戻すことが肝要と思われる。2023年年初からの株価上昇の理由として主に以下の3つが挙げられる。

【1】東京証券取引所が2022年以降、PBR(株価純資産倍率)改革(=ROE=株主資本利益率=改善)を促した

【2】デフレ脱却を織り込み始めた

【3】新NISAに向けて個人投資家が株式市場に関心を向け始めたこと

当初、最もインパクトがあったのがPBR改革だ。PBR1倍割れは株価が企業の解散価値を下回っていることを意味する。日本のPBR1倍割れ企業の比率は欧米に比べても圧倒的に多く問題視されていた。

PBR=PER(株価収益率)×ROEで示される。

PERが一定だとすれば、PBRを上昇させるにはROEを向上させることが近道になる。ROEは株主から預かっている資金に対する年間の利益率を示す。ROEを上げるには資本効率を高めることが重要になる。このためには、自己資本の部を減らすことが手っ取り早い。自己資本100億円で純利益が5億円ならROE5%だが、50億円で利益5億円ならROEは10%となる。

企業は自社株買いを積極化させ、増配を発表する企業が相次いだ。株式の持ち合い解消を進めるなど資金効率の改善が進んでいる。結果としてROEが上昇傾向にある。ROEが上昇すれば外国人投資家の買いも期待できる。

PBR1倍割れ企業は、今後も資本効率改善を進める

特に日本を代表する大企業はPBR1倍割れ解消は喫緊の課題となっている。東証では「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示状況を、定点的に開示している。2024年4月時点では、時価総額1000億円以上で、PBR1倍未満の企業は92%が開示している。2023年7月時点では45%、2023年12月時点では78%の開示であり、大企業がPBR1倍割れに向けて積極的になっていることがわかる。

7月11日までに日経平均株価が高値を付けに行く過程では、主力株のPBR1倍割れ銘柄は急速に減少していた。PBR1倍割れ企業は増配や自社株買いなど、今後も資本効率の改善を進めることが予想される。

PBR1倍未満、配当利回り3%超えの銘柄一覧

今回はPBR1倍未満で、配当利回りが3%超の銘柄をピックアップする。

(2024年8月9日時点)
業種・銘柄 銘柄コード PBR(倍) 予想配当利回り(%)
メガバンク      
三菱UFJフィナンシャル・グループ (8306) 0.8 3.5
三井住友フィナンシャルグループ (8316) 0.8 3.6
みずほフィナンシャルグループ (8411) 0.7 4.1
鉄鋼      
日本製鉄 (5401) 0.6 5.0
JFEホールディングス (5411) 0.5 5.9
海運      
日本郵船 (9101) 0.8 5.7
商船三井 (9104) 0.7 6.1
その他      
本田技研工業 (7267) 0.5 4.7
NIPPON EXPRESSホールディングス (9147) 0.8 4.3
INPEX (1605) 0.6 4.2
三菱ケミカルグループ (4188) 0.7 3.8
(2024年8月9日時点)
本稿は2024年8月11日に執筆しました。