株式市場は波乱の展開となりました。前回のコラムではボックス圏相場は終わり、相場付きは1つ別のステージに移行したように思うと解説しましたが、なかなかそうは問屋が卸さないといった状況です。さて、今回はその波乱のきっかけとなった「日銀の追加利上げ」をテーマに採り上げてみたいと思います。

日銀の追加利上げ後、日経平均は3日間で約7,600円急落

7月末、日銀は政策金利を0.25%程度とする利上げを発表しました。これは17年ぶりとなった3月の利上げに続く追加利上げとなります。3月時の利上げはマイナス金利解除という「特殊状況の緩和・解消」と言えるものでしたが、今回の追加利上げは物価抑制を念頭に置いた「より本義的な利上げ」だと言えるでしょう。異次元の金融政策は着実に正常化に向けて動いてきていると位置付けます。

しかし、これに対して市場は手厳しい反応を示しました。追加利上げからわずか3日間で日経平均はおよそ7,600円も、その水準を下げることとなったのです。この急落には米国景気動向への懸念台頭といった要因も否めませんが、この急落は市場が追加利上げ(と、その先の更なる利上げスタンス)に対して懐疑的な受け止めをしたという印象は拭えないでしょう。その後8月6日には日経平均は急上昇し、パニック的な売りはようやく一巡したように見えますが、その前の急上昇からの急落という荒れた展開が落ち着くのにはしばらく時間がかかるのではないかと考えます。

3月の利上げ以降、日銀はかなり慎重に追加利上げの可能性を市場に発信していました。そのため、およその市場の受け止めは、「追加利上げはあるが、もう少し先だろう」というものであったと推察します。

個人的にも7月末の利上げにはややびっくりしました。これには、円安進行に対する楔や26ヶ月連続にもなる実質賃金の減少への歯止めといった狙いがあったのではと想像します。実際この結果、円相場は急伸し、円安トレンドを断つことに成功しています。

しかし、(米国景気減速懸念の台頭を代表例に)主要国ではこれから金融緩和に向かおうという中、日本だけがそれに逆行して利上げに向かうというコントラストは、グローバル投資家には逆風に映った可能性があります。国内景気においても、住宅ローン金利の負担上昇などが消費性向の高いミドルエイジの家計圧迫を引き起こすという懸念も払拭できません。日銀の「利上げによる景気影響は軽微」とのスタンスに違和感はないものの、市場のハレーションは大きかったというところでしょう。

追加利上げにより、メリットを享受する銀行株

そのような大荒れの相場の中、金利上昇メリットの大きい銀行株は(短期的にはやはりパニック的な影響があったものの)1人気を吐く展開となっています。銀行業ビジネスモデルの基本は預金金利と貸出金利の利ザヤ商売であるため、追金利上げによる利ザヤの拡大期待が比較的堅調なパフォーマンスの背景にあると言えるでしょう。

既に多くの銀行はゼロ金利下に置いて利ザヤ商売からの脱却を目指してビジネスモデルの転換を急いでいますが、特に地銀など国内を基盤とする銀行群はやはり利ザヤ商売がそのビジネスの基本であることに変化はありません。

ゼロ金利解除が取り沙汰され始めた2024年年初からの銀行株指数は42%もの上昇となっており、日経平均の14%上昇を大きく上回るパフォーマンスを示しています(日経平均は急落前の最高値時点でも26%上昇)。金利上昇については4月のコラムでも採り上げ、銀行株に要注目と解説しましたが、まさに読み通りの展開になったと言えるでしょう。

当然、追加利上げは銀行業界にとって一段の追い風となるはずです。市場全体に懐疑的な流れがある中、ファンダメンタルズの追い風が見込まれる銀行セクターは下値不安も相対的には抑制されるものになるのではないでしょうか。

株主還元という観点からも、今後注目したい銀行関連銘柄

なお、4月のコラムでは以下のような銀行を注目銘柄としてリストアップしました。日本で(海外展開が可能となる)国際統一基準を適用できてている3メガバンク(三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)、三井住友フィナンシャルグループ(8316)、みずほフィナンシャルグループ(8411))、三井住友トラスト・ホールディングス(8309)、いよぎんホールディングス(5830)、コンコルディア・フィナンシャルグループ(7186)、しずおかフィナンシャルグループ(5831)、ちゅうぎんフィナンシャルグループ(5832)、山口フィナンシャルグループ(8418)、群馬銀行(8334)、千葉銀行(8331)、八十二銀行(8359)、滋賀銀行(8366)、名古屋銀行(8522)などに加え、着実な利ザヤ拡大が予想できる住宅ローン融資残高上位行(上記銀行群の他、りそなホールディングス(8308)、西日本フィナンシャルホールディングス(7189)など)です。これら銘柄には引き続き注目したいところです。

加えて、株主還元という視点でも銘柄をピックアップしてみましょう。東証改革の波に漏れず、銀行もPBR1倍超達成に向けて資本効率の改善が求められています。これまではマイナス金利という異常事態にあったことが低PBRのある種のエクキューズになっていましたが、事業環境が追い風に変わる中、本格的にPBR1倍超を目指そうとする銀行は今後増えてくるのでは、と予想します。

ここでPBRが0.6倍以下、配当利回り3%以上、時価総額1,000億円以上の東証プライム上場銀行をその有望候補と位置付けると、上記以外の銀行として、十六フィナンシャルグループ(7380)、あいちフィナンシャルグループ(7389)、第四北越フィナンシャルグループ(7327)、東京きらぼしフィナンシャルグループ(7173)、武蔵野銀行(8336)、七十七銀行(8341)、南都銀行(8367)、阿波銀行(8388)、京葉銀行(8544)、池田泉州ホールディングス(8714)などもあがります。こういった銘柄もまた注目したいところでしょう。