日経平均はついにボックス圏から下放れることとなりました。

無難に終わったと思われた石破・トランプ会談でしたが、米国の関税政策で日本はハシゴを外された格好となったことが懸念されました。また、期待された「103万円の壁」撤廃期待も肩透かしとなり、米AI関連銘柄の調整観測も加わり、先行き不透明感は俄かに増すこととなっています。一方で、ロシアーウクライナ戦争の停戦協議もまだまだ一筋縄では進んでおらず、依然として極めて不安定な状況が継続していることもまた事実です。米ウの交渉決裂は衝撃的な映像でした。

国内では今夏の参院選を控え、政治求心力の低下は景気の逆風にもなりかねない状況です。ボックス圏の下放れで下値の目処が下がり、買いが入り難い状況にもなっています。当面の株価は調整局面入りした可能性が大きいと考えます。

2018年、経済産業省によって指摘された「2025年の崖」問題

さて、今回は「DX(デジタルトランスフォーメーション)」をテーマに採り上げてみたいと思います。このテーマはコロナ禍真っ最中の2020年秋に一度取り上げています。当時はコロナ禍によってDX化が急速に進展し、DX関連銘柄への注目度がやや過熱していた時でした。

今回、改めてこのテーマを採り上げるのは、2018年に「既存システムの老朽化などによって2025年以降に大きな経済損失が発生し始める可能性がある」と経済産業省が指摘した、いわゆる「2025年の崖」についに差し掛かったというのが理由です。

2018年当時、経済産業省は、古い基幹システム(既にデジタル化やIT化がなされたものでも、組織変革やビジネスモデルの転換を促さないもの)のままでは2030年にかけて年間12兆円の経済損失が発生する懸念があるとし、逆にDX化を進めれば2030年には年間130兆円の経済効果が期待できるとの試算を明らかにしています。

この「2025年の崖」問題は、そのネーミングのキャッチーさも相まって産業界では広く認識され、多くのIT企業がそこにビジネスチャンスを見出すこととなりました。そして、現実に2025年が訪れたというわけです。では、実際にはどのような崖が待っていたのでしょうか。

2025年、DX化は着実に進むもまだ道半ば

実際のところ、どうも「2025年の崖」はコロナ禍前に懸念されたような厳しいものではなくなったように思えます。2018年当時と比較すると、リモートワークは一般的となり、書類も脱ハンコが急速に進みました。種々の申請も社内外を問わずWEBが利用できるようにもなりました。かつてはセンスのカンが横行していたマーケティングも、今や人流を含めたデータ分析に基づいてより効率的なアプローチが可能となっています。DX化は着実に進んでおり、それに伴って生産性は大きく改善を果たしているのです。

生産性が2018年水準のままで現在のような人手不足問題が顕在化していれば、実態経済は致命的な打撃を受けていた可能性もあったと考えます。2025年の崖の一因と目されていた独SAP社[SAP]の一部ERP(業務管理システム)ソフトウェアの保守サポート終了も(ERPパッケージ製品において、SAP社は世界シェアトップクラス)、SAP社が2027年まで延期を決めたことで時間的余裕も生まれてきました。コロナという厄災がDX対応を進め、崖が当初想定よりもかなりマイルドなものになったというのは皮肉な結果でしょう。

もちろん、DX化はまだ道半ばであり、デジタイゼーション(アナログデータのデジタル化)・デジタライゼーション(業務プロセスのデジタル化)とDX(デジタル化を通じたビジネスモデルの変革)を未だに混同している企業も少なくありません。それでも2018年と比較すると、各段にDXが浸透してきていることは明らかです。

株式投資では、これまでと違う観点が必要

そして、この流れは今後も継続が予想されます。人手不足状態が慢性化する中、生産性改善にはDXが不可欠だからです。しかも、DX化はやればやるほど足りない部分/手をつけなければいけない部分が見えてくるというシロモノです。改善余地はまだまだ膨らんでいくことでしょう。さらに、2年後にはSAP社の一部ERP製品のサポートが今度こそ終了するとすれば、対応が遅れていた企業も一気にDX化を進める可能性は高いと考えます。

ただし、株式投資という観点からすれば、これまでとは違った観点が必要になってくると予想します。これまではDXを実装支援するIT/コンサルティング企業がDX相場の主役でした。ですが、既にそれらの銘柄はここのような期待をかなり織り込んでいるのではないでしょうか。

むしろ、今後はDXを活用して実際に生産性を引き上げることができた企業に注目が集まるのではないかと想像します。当然ながら、武器の実装支援より武器を自ら活用する方が付加価値の拡大余地は大きいはずです(その反面、活用できないリスクも大きいと言えますが)。どのような企業がうまく使いこなすことができるのかを予見することは極めて難しいのですが、株式市場はそうした「真のDXカンパニー」は高く評価するのではないかと考えています。

「真のDXカンパニー」とは? 「DX銘柄」選定企業をチェック

「真のDXカンパニー」を占う上で、経済産業省が東証、独立行政法人情報処理推進機構と共同で毎年発表している「DX銘柄」は参考になるのではないかと考えています。ここではテーマ銘柄という視点ではなく、DXを使いこなす(と期待される)企業という視点で銘柄がリストアップされています。これこそ「真のDXカンパニー」候補と位置付けられるのかもしれません。例年通りであれば、2025年の選定結果は5月下旬にも発表されることになります。どんな企業がノミネートされるのか、注目度は大きいと受け止めます。

なお2024年の選定企業は、LIXIL(5938)、三菱重工業(7011)、アシックス(7936)の3社がグランプリとなった他、ニチレイ(2871)、ワコールホールディングス(3591)、旭化成(3407)、第一三共(4568)、ブリヂストン(5108)、AGC(5201)、JFEホールディングス(5411)、ダイキン工業(6367)、オムロン(6645)、横河電機(6841)、アイシン(7259)、SGホールディングス(9143)、日本郵船(9101)、日本航空(9201)、三菱倉庫(9301)、ソフトバンク(9434)、マクニカホールディングス(3132)、アスクル(2678)、三井住友フィナンシャルグループ(8316)、大和証券グループ本社(8601)、クレディセゾン(8253)、H.U.グループホールディングス(4544)、の各社がリストアップされました。

これら以外にも注目企業として21社が選定されています。ぜひ銘柄選択の参考にしてみてください。