前回のコラムでも解説した通り、株式市場はボックス圏推移を脱し、明確に上放れてきたようです。日経平均は久々の史上最高値更新となり、7月8日週中に終値ベースで42,000円を越えることとなりました。

日柄調整の終了に加え、米国金利の引下げ観測台頭がそのきっかけになったということでしょう。これにより、日銀の円安対策にもオプションが拡がり、これまでの制御不能感も後退したと言えます。先週末は急ピッチでの上昇に反動が出た印象ですが、相場付きは1つ別のステージに移行したように受け止めています。

IT・ハイテク分野、クリーンエネルギー技術などで重要性が高まるレアアースとは

さて、今回は「レアアース」を採り上げてみましょう。少し前となりますが、2024年4月に日本政府が「海洋開発等重点戦略」を決定したニュースを覚えている人もいるのではないでしょうか。

上記戦略では、南鳥島周辺のレアアース採掘体制を2028年以降に整えるという方針が示されました。この南鳥島のレアアースとは、2013年に発見された水深6,000mの海底面に大量に存在する鉱床(レアアース泥)のことを指します。

レアアースはスカンジウム、イットリウム、ランタノイド(ネオジム、ジスプロシウム、セリウムなど)といった17種類の金属元素の総称で、電気自動車などの小型モーター用磁石、燃料電池用固体電解質などIT・ハイテク分野では欠かせない素材であり、近年はクリーンエネルギー技術においてもその重要性が高まっています。

しかし、地球上ではかなり偏った地域にしか存在しておらず(世界産出量の約7割を中国が占めます)、これまで日本はそれらのほとんどを輸入で補ってきました。そのため、調達ルートには不安定さが拭えず、実際に2000年代以降は主要産出国である中国が何度も輸出制限を加えるといった事態も発生しています。日本のユーザーは技術開発によりレアアースの依存度抑制を図っていますが、それでもレアアースの重要性は揺らがないというのが実態です。

日本でもレアアースの存在を確認、重要資源確保に期待

そのような中、日本国内で大量のレアアースの存在が確認されたのは朗報と言えるでしょう。長く日本は資源がないとされてきましたが、ここにきて「自給できる」重要資源の確保が現実味を帯びてきたからです。

国産レアアース開発プロジェクトを推進する東京大学によると、南鳥島のレアアース泥は世界最高品位の超高濃度泥であり、内需では数十年から数百年分にわたる埋蔵量が期待できるということのようです。

例えば、コバルトでは日本の年間消費量の75年分に相当する約61万トンが存在していることが判明しています。当然ながら、これらを実際に深海から泥を採掘し、レアアースを効率よく抽出する技術の確立が急務になってきます。いくら膨大な埋蔵量があったとしても、採掘・抽出コストも大きなものとなれば経済的合理性を欠くことになるためです。

レアアース発掘における懸念点

その一方、頭の痛い問題も顕在化してきています。この有望鉱床は南鳥島の排他的経済水域(EEZ)内に存在していますが、仮にその期待地域がEEZ外の公海域にまで広がっていた場合、この権益を巡って他の国々との政治的な駆け引きが重要になってくるという懸念です。

実際、近年は中国が南鳥島EEZ隣接海域の鉱区を取得し、EEZ近傍のレアアース泥についてもその調査を精力的に実施しているとの報告もあるようです。現在は採掘体制を2028年以降に整えるという政府方針にありますが、時が経てば経つほど、他国の干渉リスクも増大する可能性は否めません。レアアースの確保は時間との闘いといった側面もまたあることを忘れてはいけないでしょう。

株式投資の観点から注目したい、レアアース関連銘柄

株式投資という観点では、海底鉱物資源開発における技術力を有する企業がまず有望な投資対象になると考えます。現時点でそのような技術は世界に例がなく、ゼロからの立ち上げとなりますが、成功すれば南鳥島近海にとどまらず、世界中の海底鉱物開発にもビジネス機会を広げることが期待できるでしょう。

そこで注目されるのは、この開発を推進している「レアアース泥開発推進コンソーシアム」に参加している企業群です。プライム上場企業のみをピックアップすると、IHI(7013)、AGC(5201)、鹿島建設(1812)、川崎汽船(9107)、小松製作所(6301)、ENEOSホールディングス(5020)、商船三井(9104)、信越化学工業(4063)、太平洋セメント(5233)、TDK(6762)、東亜建設工業(1885)、トヨタ自動車(7203)、日鉄テクノロジー(日本製鉄(5401)の子会社)、日本エヌ・ユー・エス(日揮ホールディングス(1963)の子会社)、日本郵船(9101)、古河機械金属(5715)、三井海洋開発(6269)、三井金属鉱業(5706)、三井住友建設(1821)、三菱重工業(7011)、UACJ(5741)、レゾナック・ホールディングス(4004)などです。

もちろん、これらの企業にメリットの発生が約束されているわけではなく、また、仮にうまくいっても各社が等しくメリットを受けるということにはなりません。現在はコンソーシアムに参加していない企業が画期的なブレイクスルーをもたらす可能性も十分あると言えるでしょう。現時点ではまだまだ不確定要因があまりに多い状況である以上、銘柄選択の決め打ちは避けたいところです。

しかし、様々な創意工夫が民間企業からどんどん出てくるのが、日本が技術立国たる由縁であるとも言えます。是非とも英知を結集して早期の事業化がなされるよう大いに期待したいところです。