◆今頃眠い目をこすっている方もおられるだろう。日本時間の真夜中零時にキックオフとなったサッカーW杯の日本対セネガル戦。手に汗握る接戦で見始めたら途中で寝られない。試合後も熱闘の余韻でなかなか寝付けず朝を迎えた方も多いのではないか。それでもゴールデンタイムに当たったコロンビア戦に比べればセネガル戦をリアルタイムで観たひとは少なかっただろう。実はW杯のコロンビア戦に先立ってもうひとつ、日本チームの大きな勝利があったが、こちらをリアルタイムで観戦したひとはさらに少ない。ル・マン24時間耐久レースである。

◆16~17日、フランスのサルト・サーキットで開催されたル・マンの決勝レースでトヨタ・チームが悲願の初制覇を飾った。ポールポジションからスタートした中嶋一貴らの8号車が優勝し、小林可夢偉らの7号車が2位に入る1-2フィニッシュ。3位以下に10周以上の大差をつけた圧勝だった。日本メーカーとしては1991年のマツダ以来2度目となるが、日本チームが日本車、日本人ドライバーを含む態勢で勝つのは初めてで、まさに「チーム・ジャパン」の初優勝となった。

◆輝かしい栄冠を素直に褒め称えたいところである。しかし、首を傾げるところがないわけではない。16年にアウディが、17年にポルシェがル・マンから撤退を表明した。今やル・マンの最上位クラスのレースを競うトヨタのライバルはいないのだ。言ってみれば勝って当たり前のレースだった。欧州勢は戦いの場をすでに電気自動車(EV)レースのF1とも言える「フォーミュラE」に移している。トヨタがル・マンにこだわるのは、過酷なル・マンこそがハイブリッド車(HV)で電動化の技術を鍛えるのにふさわしい「実験場」だからだという。

◆しかしHVはトヨタの独り勝ちである。だからこそ、誰もそこでは勝ち目がないとみてEVに行っている。世界最大の自動車市場である中国のEVシフトは鮮明だ。いかに技術がすごくても市場のニーズに合致しなければ売れる「商品」にはならない。サーキットを悠然と独走したトヨタ。孤高の王者に見えたが、同時にまた「裸の王様」になるリスクも感じた。

◆ル・マンはインディ500、モナコグランプリと並び称される世界3大レースのひとつ。確かに世界で戦い、そして勝った。しかし、強敵が誰もいない舞台で勝っても、「世界と」戦ったことにはならないだろう。ライバルがしのぎを削る場所こそ市場のポテンシャルが大きいのだ。レースで勝った力を、今度はビジネスでの勝利につなげてほしい。ビジネスでもレースでもサッカーでも世界と戦う日本を応援したい。