◆この週末、日米欧主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)がカナダのケベック州シャルルボワで開かれ2日間の日程を終え閉幕した。議長国カナダのトルドー首相は「7ヶ国の共同宣言を採択し、一定の成果を挙げられた」と語ったが、額面通りに受け止める向きはいるまい。今回ほどG7の亀裂が目立ったサミットはなかった。トランプ大統領の保護主義に他の6か国が振り回された構図は誰の目にも明らかだった。これではなんのためのサミットか、意義を見失う。
◆時を同じくして、実は「もうひとつのサミット」が東京で開かれていた。ストラディヴァリウス サミット・コンサートである。ヴァイオリンの名器、ストラディヴァリウスだけによるアンサンブル。総額90億円といわれる11台の歴史的名器を現代最高峰の演奏家ベルリンフィルの名手たちがサントリーホールで奏でた。まさに「サミット(頂上)コンサート」の名にふさわしい名演であった。開演は午後2時。マチネである。ホール近くのビストロでランチを食べ、ワインを飲んで11台ものストラディヴァリウスを聴く。これほど贅沢な休日はない。
◆正規のプログラムが終わってアンコールに入る時、コンサート・マスター(とおぼしき人)が流ちょうな日本語であいさつをした。「今日、わたしたちは音楽の旅をしました。オーストリア(モーツアルト)に始まり、ドイツ(バッハ)、イタリア(ヴィヴァルディ)、アメリカ(バーバー)そしてチェコ(ドヴォルザーク)。わたしは今、東京で演奏し日本語で話していますが、音楽に国境はありません。」アンコールの1曲目はグリーグの組曲からの作品だった。グリーグは「北欧のショパン」といわれるノルウェーの作曲家だ。この日のプログラムは国際色豊かなものとなったが、無論、どの楽曲も最高のハーモニーを聴かせてくれた。
◆至福のときはあっという間に過ぎる。夢見心地のマチネが終われば現実の世界に目を向けなければならない。素晴らしいハーモニーを堪能したあとは、まったく調和とは縁遠い、国際政治の舞台を観なければならない。その不協和音は市場にいかに鳴り響くのか。先行き不透明だが、少なくとも、アンコールの拍手が起きないことだけは確かであろう。