5月の振り返り=介入で151円まで円高に戻すも円安再燃

4月29日に米ドル/円はついに160円まで上昇しました。しかし間もなくして、円安に歯止めをかけるため、日本の通貨当局による米ドル売り介入が2回行われたとみられ、一時は151円台まで米ドル安・円高に戻しました。

ただその後、米イエレン財務長官が「為替介入はまれであるべき」と日本の介入をけん制するような発言を何度か繰り返すと、介入への警戒感が後退し米ドル買い・円売りが再開。一時は158円近くまで米ドル高・円安に戻すところとなりました(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の日足チャート(2024年4月~)
出所:マネックストレーダーFX

このような5月にかけての米ドル/円の値動きのもう1つの特徴として、日米金利差からの大幅なかい離がありました。日米10年債利回り差米ドル優位・円劣位は、3.8%程度から3.4%程度まで、比較的大きく円劣位が縮小しましたが、これに対する米ドル安・円高の反応が鈍い状況が続いたことから、両者のかい離は大きく広がりました(図表2参照)。ではなぜ、金利差円劣位縮小に対する円高の反応は鈍かったのでしょうか。

【図表2】米ドル/円と日米10年債利回り差(2024年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

投機円売りの再拡大が円安再燃を主導

日米10年債利回り差円劣位が3.8%程度から3.4%程度まで比較的大きく縮小したと言っても、依然として3%を大きく上回る大幅な金利差円劣位は、円買いには不利で円売りには圧倒的に有利なことに変わりないでしょう。こうした状況が長期化する中で、金利差円劣位縮小に対する円買いの動きは鈍くなり、その結果、金利差とかい離した形で大きく米ドル高・円安に戻したということではないでしょうか。

ヘッジファンドの取引を反映しているCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円売り越し(米ドル買い越し)は、4月下旬に過去最大の18万枚程度まで拡大。そこから日本の介入と見られる動きをきっかけに大きく円高に戻す中で、一時は12万枚程度まで縮小しましたが、その後、再拡大となりました(図表3参照)。

【図表3】米ドル/円とCFTC統計の投機筋の円ポジション(2024年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

これはまさに投機筋の円売りの根強さを示していると考えられますが、その拠り所となっているのは絶対的に大幅な金利差円劣位ではないでしょうか。そうであれば、この先も米ドル高・円安が続くかどうかの大きな焦点は、投機筋の円売りが続くか否かになるでしょう。

5月10日に2023年度の日本の経常収支が発表されましたが、25兆円と過去最大の黒字でした。普通は、経常黒字拡大局面では円高に、経常黒字縮小ないし赤字拡大局面では円安になるのが基本と言えます。その意味では、2023年度にかけて過去最大の経常黒字を記録したことを尻目に歴史的円安が長期化している最近にかけての状況は異例と言ってよいでしょう(図表4参照)。

【図表4】米ドル/円と日本の経常収支(2000年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

ただ似たような組み合わせ、経常黒字の拡大を尻目に円安が広がった例は2007年にかけてもありました。当時は、大幅な金利差円劣位拡大を背景に、投機的円売りが過去最大を記録した局面で、最近とよく似た構図だったと言えるのではないでしょうか(図表5参照)。2007年は、投機的円売り拡大が一巡し、消滅に向かう中で為替相場も円安から円高へ転換しました。

【図表5】CFTC統計の投機筋の円ポジションと日米政策金利差(2005年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

以上のように見ると、一時160円まで達した今回の歴史的円安は、経常赤字拡大などを背景とした通貨危機「円クライシス」ではなく、あくまで大幅な金利差円劣位を受けた投機筋、短期売買筋の円売りが主導している可能性が高いでしょう。そうであれば、やはり投機円売りが、歴史的円安の行方を決める最大の鍵を握っているのではないでしょうか。

6月の注目点=FOMC、日銀金融政策決定会合など

6月は12日にFOMC(米連邦公開市場委員会)、14日には日銀の金融政策決定会合が予定されています。それらを受けて、投機円売りがさらに広がるか、それとも反転するかが米ドル/円の行方を決めるということでしょう。

まずはFOMCについて。FOMCは、5月会合前に早期利下げ期待が後退し、むしろ利上げ再開の可能性に注目が集まりましたが、パウエル議長は利上げ再開の可能性を示唆しませんでした。その後発表された米経済指標の結果からすると、FOMCが改めて利上げ再開といったタカ派姿勢を示す可能性は、今回の場合低いのではないでしょうか。

日銀については、円安が長期化する中で、利上げを前倒しで動く可能性も注目されているようです。ただ足下の日米政策金利差米ドル優位・円劣位はなお5.5%もの大幅な状況が続いています。そんな金利差円劣位を、日銀の利上げで縮小させるのは自ずと限度がありそうです。その意味では、日銀要因を通じた金利差円劣位縮小が円高をもたらす可能性は低いでしょう。

以上の日米の金融政策会合などを受けて、投機円売りがさらに続けば円安継続、投機円売りが反転すれば円高へ戻す可能性が高いでしょう。投機円売りは、例えばCFTC統計などで見る限り、先週は売り越しが15万枚まで拡大し、過去最高の18万枚に再接近するといった具合で、かなり「行き過ぎ」懸念が強くなってきたようです。そうであれば、そもそも、日米の金融政策のイベントの結果とは別に、さらなる円売り余力にも自ずと限度があるのではないでしょうか。

景気対策次第ではユーロ高・円安への懸念が強まるか? 

日米欧のうち、ユーロ圏、ECB(欧州中央銀行)の金融政策決定会合は6月6日に予定されていますが、今のところ今回の局面における「最初の利下げ」が決まると見られています。これは、ECBの優先課題がこれまでのインフレ対策から景気対策へシフトし始めたという意味だと考えられます。

ポリシー・ミックスの基本からすると、景気対策を目的とした金融緩和は、通貨安容認と整合的になります。ところが、ユーロ/円は、5年MA(移動平均線)かい離率などで見る限り、記録的に行き過ぎたユーロ高・円安となっています(図表6参照)。以上のように見ると、ユーロ圏の政策的な目的において景気対策の度合いが高まるほど、ユーロ高・円安への懸念が強くなる可能性があるでしょう。

【図表6】ユーロ/円の5年MAかい離率(2000年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券作成

円安160円の更新はなくポジション調整で円高に戻る可能性も

これまで見てきたことを整理すると、投機円売りに主導された円安が1米ドル=160円の更新に向かう可能性は必ずしも高くないのではないでしょうか。それが確認された場合は、大きく米ドル買い・円売りに傾斜したポジションの反動から、米ドル安・円高に戻す可能性はあるでしょう。

以上を踏まえると、6月はこの間の米ドル/円の高値更新には至らず、米ドル買い・円売りポジションの調整が広がるシナリオを想定、150~160円のレンジで予想したいと思います。