5月22日にエヌビディア[NVDA]が発表した2024年2-4月期決算は人工知能(AI)向け半導体が好調で市場予想を上回り、日本の株式市場での半導体関連銘柄上昇へと波及しました。ではAIブームが再加速する可能性を視野に入れて、恩恵を受けるのは、どのような企業か、日本株と米国株に分けて考えたいと思います。

製造装置・素材で存在感示す日本株

日本株ではやはり、半導体製造装置関連銘柄でしょう。日本にはGAFAMのような世界的なプラットフォーム企業は残念ながらありませんが、特殊な技術を有している企業が多く、グローバルニッチトップ企業となっている企業も多数あります。

レーザーテック(6920)は欠陥検査装置で世界高シェア

筆頭は、半導体製造装置セクターです。レーザーテック(6920)は、半導体製造に不可欠な検査・測定装置を開発・販売する半導体検査装置メーカーです。グローバルニッチトップ戦略によって世界トップポジションを確立しており、マスクブランクス欠陥検査装置では、なんと100%、フォトマスク欠陥検査装置では75%という圧倒的シェアを誇ります。

レーザーテックはこれらコア事業で成長を遂げていますが、この2つをコア技術として開発した半導体ウェハー向け検査装置やパワーデバイス向けSiC(炭化ケイ素)検査装置などでも高いシェアを獲得しています。レビュー装置やEUVマスクブランクス欠陥検査装置といった新規領域も拡大しています。

営業利益率20%のディスコ(6146)

ディスコ(6146)は、1937年工業用砥石の製造から出発し、エレクトロニクス分野へと砥石の用途を広げ、1970年代には「切断・切削・研磨」の3つの技術領域に特化して事業を展開。自社で開発する高精度の砥石に見合う装置がなかったことから精密加工装置自体の開発までを手掛けるようになり、現在では精密加工ツールで世界シェアトップの70%を誇ります。

半導体市場の成長が著しい中国において、80%程度のシェアを構築していることも注目点です。切断砥石や研削砥石などの精密加工ツールと、半導体精密加工装置の両方を手掛けるのは世界でもディスコだけで、消耗品と製造装置の両輪で成長を遂げています。製造装置が売れた後も、顧客工場の設備が稼働していれば消耗品である加工ツールやメンテナンス需要などが得られ、製造装置メーカーの中でも安定かつ高収益な事業展開をしていると言えます。

営業利益率は20%を超えており、利益積み増しによって財務基盤も盤石。先行投資もキャッシュフロー内で賄っている優良企業です。

トクヤマ(4043)は複数工程に素材提供

素材関連銘柄ではトクヤマ(4043)があります。特有技術を活用し、多分野で事業展開する総合化学メーカーです。苛性ソーダや塩ビ、多結晶シリコン、セメント、歯科材料など、幅広い分野で事業展開をしています。創業から無機化学・有機化学を事業基盤としてきましたが、1970年代のオイルショックを経て、スペシャリティケミカル分野に進出したことが現在の礎となっています。というのも、スペシャリティ分野への進出によって、高純度化、粉体制御、有機・無機合成、結晶・析出、焼結など、新たな技術やノウハウを積み上げることになったからです。スペシャリティ製品で蓄積した技術力は、汎用品の様に価格競争に巻き込まれることなく採算性を維持できる特殊品の成長をもたらし、収益基盤強化につながっています。

また、トクヤマは半導体製造の各工程でトップシェアを誇る製品を展開しています。半導体は、多結晶シリコン→シリコンウェハー→リソグラフィー→エッチング→CMP→洗浄→チップ→パッケージングと、大きく8つの工程を踏んで製造されますが、同社はこのうち5つの工程で競争力のある製品を持ちます。具体的には、半導体用多結晶シリコンが世界シェア25%、リソグラフィーに使うフォトレジスト用現像液TMAHと洗浄用高純度IPAがアジアでシェア1位、CMP用シリカでは世界シェア1位、そしてパッケージングに使う放熱材用高純度窒化アルミニウムで世界70%のトップシェアを誇ります。

米国株でも半導体関連銘柄に注目

それでは米国株ではどうでしょうか。

オンデバイスAIで巻き返し狙うクアルコム[QCOM]

まずはクアルコム[QCOM]が挙げられます。3G通信技術「CDMA」やモバイル向けSoC「Snapdragon(スナップドラゴン)」などでよく知られるモバイル向け半導体大手です。SoCの開発・設計をはじめ、無線通信技術の研究開発、ライセンス事業を展開しています。

SoC は「System On Chip(システム・オン・チップ)」の略です。システムを動かすために必要なCPUやGPU、通信機能など殆どの機能をまとめたもので、いわばデバイスの頭脳に当たります。これにカメラやディスプレイなどを付けてスマートフォンができ上がります。クアルコムは、このモバイル向けSoCの業界リーダーであり、スマホ用SoC「Snapdragon」シリーズは、Androidスマートフォンのほとんどに搭載され、スマートフォン市場でトップシェアを誇ります。

AIの波の中で、取り残された感のある同社ですが、AI開発が学習から推論へとウェイトが移っていく中で市場拡大が見込まれるオンデバイスAIで後れを取り戻すことが期待されます。

クアルコムは、デバイス自体にAI技術を搭載した「オンデバイスAI」を次のビッグチャンスとして重視しています。「オンデバイスAI」は、これまでクラウド上でしか実行できなかったAIプログラムを端末上で実行します。通信をする必要がないので、データ通信量の削減はもちろん、個人情報保護、低遅延とレスポンスの高速化、といったメリットがあります。オンデバイスAIの市場は、スマホをはじめ、リアルタイムのデータ処理と分析が重要となる自動運転や医療、製造業などの分野から拡大していくことが予想されます。

「オンデバイスAI」用のプロセッサーに求められるのは、低消費電力かつ高性能なAI処理能力です。同社では2023年10月、その性能を備えたスマホ向けとPC向けの新製品を発表しました。新製品は、大規模言語モデル(LLM)をオンデバイスで実行することができます。例えば、チャットボットや翻訳、メールのAI自動フォーマット機能など自然言語処理技術を使った機能、音声認識機能が、クラウドでなくデバイス上で「直接」行えるのです。いちいちデータセンターと通信しないのでレスポンスが早く、プライバシーも守られます。

オンデバイスAIは、PC向けでも存在感を増しています。業界では、アドバンスト・マイクロ・デバイシズ[AMD]が、初めてNPU( ニューラル・プロセッシング・ユニット=AIに特化した半導体)を内蔵した、PC向けのSoC 「Ryzen 7040」 を発売しました。インテル[INTC]は独自の AI アクセラレーターを搭載した Core Ultra チップを発表しています。オンデバイスAI搭載PCはPC市場の流れを大きく変える可能性が高く、クアルコムがこの市場で将来への土台を築くことができれば、市場成長の恩恵を大きく享受することができます。

ブロードコム[AVGO]はソフト伸長

次は米国・シンガポールに本拠を置く半導体大手ブロードコム[AVGO]です。ブロードコムは、エヌビディアと異なり、生成AIの基となる大規模言語モデルの学習に使用される最先端のAIチップを製造しているわけでなく、AI関連ビジネスが多くを占めているわけでもありません。同社半導体製品は非常に幅広く、集積回路、無線アクセス、ケーブルモデム、携帯電話、スイッチングハブ、サーバーファーム、マイクロプロセッサー、Bluetooth、近距離無線通信、GPSなど多岐にわたります。

中でもAI向けとされるのはネットワーキングビジネスです。生成AIサービスに対応するデータセンター(AIデータセンター)からネットワーク機器用チップの需要が急増しています。従来AI向けは同社ネットワーキングビジネスの25%程度を占めるとしてきましたが、最近の決算発表では大きく成長してきていることが示されています。

一方で他の半導体ビジネス、通信、サーバーストレージ、ブロードバンドインフラなどは依然として低調であり、AI向けの成長がこれらを補うような形です。アップル[AAPL]は同社の重要な通信向けチップの顧客ではありますが、iPhone の販売も減速するなどしています。

ブロードコムには、もう1つ成長材料があり、半導体部門は従来売上の約8割を占めており、残り2割はインフラ向けのソフトウェア部門でした。そのソフトウェア部門が売上の約4割を占めるようになりつつあります。理由は2023年11月にサーバーの仮想化技術で先頭を走るヴイエムウェアを約10兆円もの巨額で買収し、その売上が寄与しているからです。またヴイエムウェアとのシナジー効果によって、自社の得意とするイーサネットスイッチなど半導体製品のさらなる売上増にも寄与する可能性もあります。

エヌビディアのチップを製造しているTSMC[TSM]

最後はファウンドリー最大手、台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング=TSMC[TSM]です。同社はエヌビディア、AMD、アップルなどの設計したチップの製造を担います。同社は世界で最も品質の高い半導体を製造することができます。ただ、世界最高水準の製造技術や設備だけでは、AIブームやかつてのスマートフォンなどのイノベーション・アイデアを創り出すことはできません。米国の優れたIT企業がそうしたアイデアを創り、世に広めることで、自動的にその心臓部である半導体の製造を受注できるのです。その意味ではチップを製造するための設備機械を作る日本の製造装置産業も恩恵を受けます。米IT大手が革新的なアイデアを創って世に広め、それを実現するのがモノ作りに優れたアジア企業という構図です。

2007年にアップルがスマートフォンを世に出し、その小さな箱に入るサイズで、限られた電力で高速データ通信可能なチップが新たに大量に必要となり、半導体業界に膨大な需要をもたらしました。

自動車産業しのぐ市場規模

2010年代にグーグル(現アルファベット[GOOGL])が先行してAIの扉を開き、それを支えるエヌビディアのGPU(画像処理チップ)が脚光を浴びました。それを使ってチャットGPTなど生成AIが世に出て、マイクロソフト[MSFT]などのソフトウェア企業がサービスに組み込み、新たな需要が発生しようとしています。

今後、多くの人がAIを搭載したPCを手にいれようとし、エヌビディアやAMDの設計したチップをTSMCが作る構図で、かつてのスマートフォンを上回る需要が発生すると思われます。なぜなら、AIは、スマートフォンという限られたモノだけでなく、PC、スマホ、自動車、家電製品、店舗、オフィス、家などあらゆるモノ、場所に入り込んでいくからです。恩恵はTSMCの工場にある各種製造装置を作る日本の関連メーカーにも及んでいきます。

TSMCの創業は1987年で、同じ年に日本電信電話(9432)が48.6兆円の最高時価総額を付け、そのNTTの記録をトヨタ自動車(7203)が36年以上かけて超えました(2024年5月22日時点で53.5兆円)。しかし、現在TSMCの時価総額は、そのトヨタ自動車を大きく上回ります(2024年5月23日時点で126兆円、1ドル=156円で計算)。

ここまで成長できたことに半導体産業の偉大さを感じます。半導体産業は自動車産業を大きく上回る価値を持ちます。自動車首位のトヨタ自動車とテスラ[TSLA]を足しても、エヌビディアの時価総額には遥かにとどかず、2位ブロードコム以下にもトヨタクラスかそれ以上の半導体企業が幾つもあり、全部足せば自動車産業の何倍にもなるのです。

前編では、「【米国株】エヌビディア決算速報前編:市場予想を超える好決算。株式分割と四半期配当増も発表」をお届けしています。