先週の振り返り=153円台へ米ドル反落の理由は?
先週の米ドル/円は、前週からの流れを引き継ぎ前半は上昇が続きました。ただ、5月15日(水)の米4月CPI(消費者物価指数)発表を前後し、下落に転換。一時は156円台から153円台へ約3円と比較的大きく米ドル安・円高に戻す場面もありました(図表1参照)。
これは、注目された米CPIが予想より弱い結果となり、米金利が低下し、日米金利差円劣位が縮小したことへの反応だったでしょう。ただ、金利差円劣位の縮小は、実は前週から起こっていました。ところがそれを尻目に、CPI発表前までは米ドルは続伸しました(図表2参照)。そうした中で、なぜCPI発表後の米金利低下、金利差円劣位縮小に、米ドル安・円高の反応となったのでしょうか。
そもそもCPI発表前まで、金利差円劣位が縮小傾向を続ける中でも米ドル続伸となったのは、イエレン米財務長官の日本の為替介入をけん制したと見られる発言などを手掛かりに、投機筋が米ドル買い・円売りを継続した影響が大きかったでしょう。例えば、CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは、先週5月14日(火)の時点で売り越し(米ドル買い越し)が12万枚となり、高水準を維持していました(図表3参照)。
先週半ばにかけては、金利差円劣位縮小にもかかわらず、投機筋が米ドル買い・円売りに動き、米ドル/円も上昇が続いたと思われます。それにしてもなぜ、投機筋は金利差円劣位が縮小する中でも米ドル買い・円売りを継続したのでしょうか。
大幅な金利差円劣位の中で圧倒的に有利な円売りが「バブル化」、2007年と同じ構図か
日米金利差は、長期金利、10年債利回り差で見ても3%以上と大幅な米ドル優位・円劣位となっています。それはもちろん円売りにとって圧倒的に有利な要因であり、逆に言えば円買いには極めて不利な要因です。こうした中で、多少の金利差変化の影響は受けずに、投機筋の米ドル買い・円売りが続いているということではないでしょうか。
金利差を日米の政策金利で見ると、足下では5%以上と大幅な米ドル優位・円劣位となっています。同じように日米政策金利差米ドル優位・円劣位が5%もの大幅に拡大したのは2006~2007年にもありました。CFTC統計の投機筋の円売り越しは、2007年6月に18万枚と言う過去最高を記録しました(図表4参照)。
この統計の円の売り越しは、普通なら10万枚を超えると「行き過ぎ」が懸念されます。そうした観点からすると、2007年6月に記録した18万枚は極端な「行き過ぎ」、つまり「バブル」と言っても良かったでしょう。
CFTC統計の投機筋の円売り越しは、4月末にほぼ18万枚まで拡大しました。大幅な金利差円劣位の中で圧倒的に有利な円売りが「バブル化」する、最近のそれは2007年に一度経験したこととほぼ同じ構図で展開しているということではないでしょうか。そして投機の「円売りバブル」が、金利差変化以上に、米ドル/円の変動に影響する状況が最近にかけて続いてきたということになるでしょう。
米ドル/円の下落は、投機筋の行き過ぎた米ドル買い・円売りの修正が影響
以上からすると、5月15日(水)にCPI発表を前後して米ドル/円が156円台から一時153円台まで約3円と比較的大きく米ドル安・円高に戻したのは、米金利低下に伴う金利差円劣位縮小の影響以上に、投機円売りが円買いに転じた影響が大きかったのではないでしょうか。そうだとしたら、それはなぜでしょうか。
上述のように、CPI発表の前日、5月14日(火)の時点でCFTC統計の投機筋の円売り越しは12万枚と高水準を維持していました。要するに米ドル買い・円売りの「行き過ぎ」が懸念される状況だったようです。そうした「行き過ぎ」が、CPIを受けて米金利低下、金利差円劣位縮小となったことをきっかけに修正に向かったことで、米ドル売り・円買いとなり、比較的大きな米ドル/円の下落をもたらしたということだったのでしょう。
今週の注目点=米ドル/円は投機「円売りバブル」次第
米ドル/円の行方は投機の「円売りバブル」次第という構図がまだ続くなら、今週の米ドル/円の見通しも、投機の「円売りバブル」の動向が最大の焦点になるでしょう。「円売りバブル」と言うくらいですから、投機筋の米ドル買い・円売りもかなり「行き過ぎ」懸念が強くなっている可能性がありそうです。その意味では、さらなる投機の米ドル買い・円売りが米ドル高・円安をもたらす余地には自ずと限りがあるのではないでしょうか。
一方で、先週のCPI発表後のように、投機筋の円売りポジション調整が大きく広がった場合は、米ドル安・円高に大きく戻す可能性もあるでしょう。以上を踏まえて、今週の米ドル/円の予想レンジは153~158円で想定したいと思います。