◆2週続けて映画のネタで恐縮だが、映画を観るのは僕の数少ない楽しみのひとつなのでご容赦願いたい。『ある天文学者の恋文』という映画を観た。『ニューシネマパラダイス』を撮ったジュゼッペ・トルナトーレ監督と、「ニューシネマ」で音楽を担当したエンニオ・モリコーネとのコンビによる最新作だ。
◆映画の公式HPからあらすじを紹介すると...<著名な天文学者エドと彼の教え子エイミーは、皆には秘密の恋を謳歌していた。しかし、そんなエイミーの元に突然届いたエドの訃報。現実を受け入れられないエイミーだが、彼女の元にはその後もエドからの優しさとユーモアにあふれた手紙やメールや贈り物が届き続ける>
◆エドは自らの死の直前3カ月を恋人へのメッセージを作りに費やしたのだ。すごいのはエイミーの気持ちや行動を予想し、それに合わせてメッセージを届ける周到な<システム>を構築したことだ。中断シナリオも、そしてリカバリープランも用意されている。エディンバラの街やイタリア湖水地方の美しい風景とモリコーネの抒情的な音楽をバックに、ストーリーはエドの用意したメインシナリオを辿る。
◆この映画の主題は、愛は命が尽きた後もなお人の心を照らし続けることができるか。何億光年も前に消滅した星の光がいま地上の我々に届くように。観終わった後、優しい気持ちに包まれながら、僕は似て非なることを考えていた。現在の株式取引は高速化が進んでいる。マイケル・ルイスのベストセラー『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』にあるように、米国ではナノ・セカンド(10億分の1秒)で取引される。光の速さは秒速約30万km。ということはナノ・セカンドではわずか30cmしか進めない。現代の株式取引はまさに「光速」取引である。
◆何億光年もかなたの星は、もう存在しないかもしれない。僕たちが今見ている星の輝きは何億年も前に放たれた光。それと同じように、今僕らが見ている「板」にある株価や注文は、もう存在していないかもしれない。僕らが知覚した瞬間にはもうHFT(高速高頻度取引)のファンドがかっさらっていってしまうだろう。ロマンチックな映画を観た後に、まったく無粋なことを想う自分の性分が恨めしい。