2月22日(木)に、日経平均株価が1989年12月29日に付けた過去最高値3万8915円を34年ぶりに更新し3万9098円となった。その後2月26日(月)には3万9233円となり、さらに史上最高値を更新した。2023年末は3万3464円だったので、2ヶ月弱で5,769円(17.2%)もの短期大幅上昇となった。

日経平均、史上最高値を突破した3つの理由

理由1:デフレからの脱却

まず、デフレーション(物価の継続的な下落)からの脱却だ。日本経済はいわゆるバブル崩壊後に「失われた30年」と言われてきた。経済が下降傾向にある中で、日銀はあろうことか金利を引き上げ、規制当局は不動産融資規制を行うなどブレーキをかけ続けた。

1997年には政府が消費税率を3%から5%に引き上げた。景気悪化で賃金が上がらず、個人消費が冷え込んで購買能力が低下。これが企業業績の悪化をもたらし、さらに賃金が減る「デフレスパイラル」に。1998年には金融機関の倒産が相次ぎ不良債権問題も深刻化した。

その後、2012年からの安倍政権下でのアベノミクスで金融緩和、円安誘導、成長戦略などの施策が打たれ、その効果がようやく表れている。賃金が上昇し、購買力が回復し、企業業績が伸びるという好循環が生まれつつある。

理由2:PBR(株価純資産倍率)の改善策強化の方針

2つ目は東京証券取引所のPBR(株価純資産倍率)の改善策強化の方針だ。2022年から段階を追って推進してきた効果は、自社株買いや増配という形で表れている。東証が意図するところは企業の資本効率改善を求め、ROE(株主資本利益率)の向上を促すことでもあった。

PBR=PER(株価収益率)×ROEの算式で求められる。PERが一定とすれば、ROEの向上がPBRを引き上げることになる。

ROEは株主から預かったお金(貸借対照表で自己資本の部に相当)に対し、どれだけ利益を上げているかという指標だ。自社株買いで自己資本の部を小さくしたり、ここに含まれる利益準備金を配当に回すとROEが改善する。大手調査機関では、東証プライム市場上場企業のROEは、2023年3月末に8.1%だったが、2023年末には9%付近になっていると試算している。2024年末には世界基準の10%乗せも見えてきそうだ。

理由3:需給の改善

ROEは世界の投資家の重要なベンチマーク(投資指標)だ。米国では15%、欧州では12%程度が平均とみられる。これまでROEが低かった日本株は継続的な外国人投資家の買いにつながりにくかったが、ROEの改善を背景に2024年の年初から外国人投資家の買いが入り続けている。この需給の改善が3つ目の要因だ。市場関係者によると2月1週目まで外国人投資家は現物で7週連続の買い越しで、現物・先物合計では年初から1兆8000億円強の買い越しになっている。世界の投資家が日本株のウェートを引き上げたのだとすれば、買いが急にしぼむことは考えにくい。

今回の株高が「バブルではない」と言える理由

今の株高が「バブルではないか」と指摘する声もあるが、まったく当てはまらない。1989年末のPERは61倍、PBRは5.6倍だった。2024年2月22日現在でPERは16.4倍、PBRは1.49倍だ。しかもPERは第3四半期決算の直前で15倍程度。株価の大幅上昇でも1倍程度しか上昇していない。日経平均はこの間、3万2200円台半ばから3万2300円後半に上昇。すなわち企業業績の拡大分だけ、株価が上昇したことを示している。

また、30年間500兆円前後で推移していたGDP(国内総生産)もようやくもみ合いを上抜け始めている。

1980年代後半を振り返ると、まず、1984年9月のプラザ合意が株価上昇の一つのきっかけになった。米国が貿易赤字と財政赤字という「双子の赤字」に悩まされ、それを是正するためにG5(財務相・中央銀行総裁会議)で、ドル安誘導策を決めた。ドル安で米国経済を救おうとする作戦だ。1ドル240円だったドル円相場は2年後には120円と急速な円高となり、当時の中曽根政権は金融緩和や内需喚起策で景気を刺激する政策を取った。これが高じたのが「バブル」である。不動産や建設株、土地持ち企業などが物色の中心だった。

一方、1988年に日経平均先物市場が創設された。外資系証券が先物買いを先行させたことで、利ザヤを取るための「裁定買い」が入り現物株を押し上げた。しかし、1990年初からは一転、外資系証券は先物売りに転じた。その後は前述したような流れをたどる。「行き過ぎていた株価」であることは事実だ。

なお、1989年末の東証の時価総額は591兆円(東証1部)だったが、2月22日現在は843兆円(プライム)と既に大きく上回っている。

ようやく、“最高値の呪縛”から解き放たれた日本株だが、大手証券によれば1989年末と比較してS&P500種指数は実に13倍になっている。世界の株価(経済状態)は先を行っている。

株価が継続的に上昇するための2つの条件

株価が継続的に上昇するためには賃上げの状況をさらに加速させることが必要だ。依然として実質賃金がマイナスで、物価の上昇に追い付いていない。GDPの約6割を占める個人消費の拡大は、企業収益に追い風となる。

また、企業はROEの改善など資本効率向上に不断の努力を続けることが求められる。円安もあり、製造業の国内回帰の動きも目立っている。国内メーカーの競争力強化も世界と戦ううえで重要なポイントだ。

2024年2月22日時点での日経平均の1株利益は2,374円。仮に2025年3月期に10%の増益とすれば2,611円。これに時価のPER 16.4倍を当てはめると4万2820円となる。年央にこの水準にあっても不思議ではない。

国内外の当面の3つのリスク要因

当面のリスク要因は外部環境では米国のハードランディング(景気の下方屈折)や米国の大統領選でトランプ氏が大統領になった場合の不透明要因の増加など。国内ではせっかく好循環になりつつある経済の腰折れ。例えば消費増税の動きなどには注意したい。

TOPIXの史上最高値更新が当面の注目点か

一方で日経平均株価が高値を更新したのに対し、全銘柄の値動きを示すTOPIX(東証株価指数)は1989年の最高値2,884ポイントを上回っていない(2月26日現在2673.62ポイント)。日経平均の上昇ほどには、多くの投資家が株高の恩恵を受けていないことを示している。時価総額が大きく流動性の高い銘柄の比重が高いTOPIXの高値更新が当面の注目点となりそうだ。