NISA制度の改善と企業の株主改善への姿勢が投資家への追い風に

2024年1月から新NISA(少額貯蓄非課税制度)がスタートし、約1ヶ月間が経過した。つみたて投資枠が年120万円、成長投資枠が年240万円の合計最大年360万円まで拡充され、期間も無期限となった。枠の再利用も可能になるなど、使い勝手も大幅に改善されたことで、利用者も増加している。
特に成長投資枠では最大1200万円が使えることで、高配当利回り銘柄への関心が高まっている。

制度の改善に加えて、企業が株主還元に前向きになっていることもNISAを活用する投資家への追い風となっている。

2023年12月の日本経済新聞によれば、2024年3月期の配当は約16兆円となり、過去最高となる見通しだ。2023年9月末の第2四半期時点と比べて約4000億円上振れするとしている。全体の14%に当たる約330社が配当予想を引き上げたという。なお、上場企業の株式のうち2割は個人が保有しており、単純計算では約3兆円が家計に入る計算となる。

10万円投資して配当利回り(投資金額に対する年間配当金の割合)が仮に4%なら、配当金は4,000円。課税口座での投資であれば、4,000円から約20%分(800円)が源泉徴収され、3,200円が受取配当金となる。NISAなら課税されないので4,000円をそのまま得ることができる(配当金を証券会社の口座で受け取りの場合)。この差は大きいのではないか。また、保有株が上昇して売却しても、売却益は非課税だ。

東証改革が企業の株主還元の強化につながる

東京証券取引所が上場企業に対し、PBR(株価純資産倍率)の1倍割れ解消や資本効率の向上を求めていることも株主還元の強化につながっている面がある。配当の支払いが増加すれば純資産が減少し、PBRの直接的な押し上げ効果につながるほか、政策保有株(持ち合い株)の解消で現預金が増えることも株主還元の原資となる。また、ROE(株主資本利益率)の向上はPBRの改善にもつながる。
PBR=PER(株価収益率)×ROE
との算式で表すことができるからだ。PERが一定ならROEを改善することでPBRが上昇する。

PBR1倍割れへの意識の高さは日本を代表する大企業に顕著に表れている。東証が2024年1月に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示状況を公表した。東証がかねて求めていたもので、プライム市場に上場している49%が開示している。時価総額が1000億円以上でPBRが1倍未満の企業に絞ると、開示比率は78%にまで高まる。なお、時価総額が250億円未満では37%に過ぎない。つまり、大企業であればあるほど、今後自社株買いや増配などの株主還元策を強化してくる可能性が大きいとみることができる。

ただし、注意点もある。企業が配当性向(利益をどれだけ配当金に回すかの比率)を決めている場合、減益は即減配を意味する。最近では減益でも減配しない累進配当制度を採用している企業もある。事前にチェックをしておきたい。

時価総額の大きな企業の中で、PBRが1倍以下かつ配当利回りが比較的高い銘柄5選

そこで、今回ここでは時価総額の大きな主力企業の中で、PBRが1倍以下かつ配当利回りが比較的高い銘柄をチェックしてみたい。

本田技研工業(7267)

4輪車の世界大手。北米が収益源。2輪車では世界のトップメーカー。2040年までに脱エンジンを標ぼうし、EV(電気自動車)に注力。2026年初頭には日本で自動運転タクシーサービスを開始予定。「創出したキャッシュはEV推進と株主還元に投入」と宣言。配当利回り3%台半ばで、PBRは0.6倍。

【図表1】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年2月1日時点)

三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)

国内最大の民間金融グループ。持ち株会社傘下には銀行のほか、信託、証券、カード、リースなどを抱える。持ち分法適用会社に米モルガンスタンレー。2024年3月期まで3期連続の増配。自社株買いにも前向き。配当利回り3%台序盤、PBRは0.8倍。

【図表2】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年2月1日時点)

日本製鉄(5401)

粗鋼生産量で国内首位。世界でも大手。高炉による製鋼技術力に定評があり、自動車向けの高級鋼板に強い。米高炉・電炉一貫の鉄鋼メーカーであるUSスチールの買収成立なら世界3位に浮上。カーボンニュートラルに前向き。配当利回り4%台前半、PBRは0.6倍台。

【図表3】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年2月1日時点)

オリックス(8591)

総合リース国内首位。不動産や投資銀行、空港コンセッションなど多角化が進展。特に海外展開に積極的。M&Aも駆使し業容を拡大している。新型コロナ禍での減益局面でも減配せず。株主優待は2024年3月期末割当を最終に廃止し、株主還元は配当に一本化へ。配当利回り3%台前半、PBRは0.8倍台。

【図表4】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年2月1日時点)

三菱ケミカルグループ(4188)

総合化学で国内首位。化学、レーヨン、樹脂が合併した三菱ケミカルが持ち株会社の中核。傘下に田辺三菱製薬や産業用ガス大手の日本酸素ホールディングスなども擁している。石油化学分野では低採算品からの脱却を図る。配当利回り3%台半ば、PBRは0.7倍台。

【図表5】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年2月1日時点)

(本文中の数値は2024年1月26日現在)