デフレ脱却相場で、日経平均は3万7,500円を目指す

2024年の東京株式市場は、デフレからの脱却が最大のテーマとなり、強い基調で推移することがメインシナリオとなるだろう。外部環境では米国の景気が鈍化するものの、ソフトランディング(軟着陸)を予想している。企業業績に与える影響は限定的で、これも日本株の下支え要因となるのではないか。

2024年末の日経平均は3万7,500円程度を想定する。日本株は1989年末に史上最高値を付けた後、バブル経済が崩壊し、その後の政策運営の失敗もあって「失われた30年」となった。バブルが弾けている最中に日銀は金利を引き上げ、当局は不動産融資規制を実施した。1997年には金融不安の中で消費税を引き上げ、消費が腰折れとなった。

そして物が売れず、企業業績が悪化し、賃金が低下するというデフレ(継続的な物価下落)スパイラルに陥った。国税庁の調査などによると、1992年に民間給与(年収)の平均は470万円超だったが、2014年には419万円にまで低下した。消費者物価指数は1998年をピークに2014年程度まで下がり続けている。

2023年は物価が上昇し、賃金も上がる好循環の入り口に立った。コロナ禍からの経済正常化もあり、人手不足感が高まっている。2024年も賃上げ基調は継続する公算が大きい。企業の値上げも通りやすくなっており、採算は改善傾向にある。

東京証券取引所によるPBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業の是正要請の流れは2024年も継続する。低PBRの是正はROE(株主資本利益率)の向上と同義であり、自社株買いや増配、政策投資(株式持ち合い)の見直しに踏み切る企業が増加することが想定される。デフレ脱却で企業が現金をため込む必要もない。

大手調査機関によれば2023年3月末の上場企業のROEは8.1%だったが、12月末には9%に乗せ、2024年には10%に入る可能性があるという。ROEが欧米並みになれば、外国人投資家の買いが本格化する公算が大きい。

安倍政権による経済喚起策「アベノミクス」で、株式市場ではPBRが1.5倍まで買われたのがピークとされる。これを単純に当てはめると日経平均株価は3万7,500円となる。

また、経済の正常化で日銀がイールドカーブ・コントロール(YCC)を解除することが想定される。その一方、米国では利下げのリズムに入るため、日米金利差の縮小で円高になることを警戒する向きもある。

ただ、これは1ドル151円までの円安からの修正と言える。コロナ前の2019年末は1ドル108円程度だった。国内大手証券では円安修正による仕入れコスト押し下げ効果もあるとし、10%円高に進んでも経常利益の増益鈍化は1%程度に過ぎないと試算している。

この証券では2025年3月期の営業利益が今期予想比8.9%増と試算している。為替前提は1ドル145円だ。仮に130円になっても、営業利益は8%増益で影響は軽微と言える。

投資の観点から注目したい3つのテーマと関連銘柄とは

物色テーマとしては「主力バリュー株の水準訂正」、「自動車や消費の挽回から正常化」、「半導体を軸とした回復から成長へ」が有望と見ている。

主力バリュー株の水準訂正:東証のPBR修正(=ROE改善)促進策

東証のPBR修正(=ROE改善)促進策については、日本を代表する主力企業に効くと見られる。代表的な企業のPBR1倍割れは、企業サイドでも是正意識が働きやすい。

例えば日本製鉄(5401)(PBR0.6倍)、本田技研工業(7267)(PBR0.5倍)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)(PBR0.7倍)、ENEOSホールディングス(5020)(PBR0.5倍)などが挙げられる。

本田技研工業はEV(電気自動車)と株主還元を強化する旨を公表している。三菱UFJファイナンシャルグループは2024年3月期で3期連続増配となる。

自動車や消費の挽回から正常化

自動車業界は半導体不足の影響で2022年に苦しんだが、2023年は挽回生産の年となった。トヨタ自動車(7203)の2023年の世界生産台数は1,020万台で、コロナ禍前の2019年905万台を抜き、過去最高となる。

2024年は1,070万台、2025年には1,100万台を見込み、正常化への流れが見えている。SUBARU(7270)、マツダ(7261)などの他、デンソー(6902)、豊田自動織機(6201)、アイシン(7259)などトヨタグループ企業の業績も拡大しそうだ。

インバウンド(訪日外国人)数は2023年10月に、コロナ禍前の2019年10月を単月で初めて上回った。処理水問題で主力の中国人の回復が鈍い中でも、アジアや欧米からの増加で補っている。2019年は年間で3,188万人、2023年は2,000万人まで回復する見込みだ。政府は2030年に6,000万人の目標を掲げており、2024年は正常化への動きが強まりそうである。

また、国内経済の活発化もサービス、小売り企業には追い風となるだろう。旅行、外食、レジャー、百貨店など幅広いが複数の業態を手掛けている企業の恩恵が大きい。

外食、ホテル、コントラクト(高速SAでの飲食店受託)などを手掛けるロイヤルホールディングス(8179)、鉄道、ホテル、遊園地、アウトレットなどを展開する西武ホールディングス(9024)、居酒屋、焼き肉チェーン、回転ずしなどのコロワイド(7616)などに妙味がある。

半導体を軸とした回復から成長へ

半導体業界は2022年後半から2023年は一時的な市況の悪化があったものの、2024年は回復から成長軌道に乗る公算が大きい。生成AI(人工知能)向けなどの需要増加や、性能向上のために半導体の線幅を細くする動きが加速することが要因だ。最先端の線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの実用化が2025年になると見られ、これに向かった動きが出ている。

また、半導体受託生産世界首位のTSMC[TSM](台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング)の熊本新工場が2024年末に稼働予定となっている。2ナノ用露光装置向け検査装置を唯一手掛けるレーザーテック(6920)を代表格に、製造装置では東京エレクトロン(8035)、ウエハ洗浄装置のSCREENホールディングス(7735)、検査装置でエヌビディア[NVDA]の取引先になるアドバンテスト(6857)、シリコンウエハの信越化学工業(4063)、SUMCO(3436)などが有望視される。

2ナノでは不可欠な保護膜(ペリクル)で世界首位の三井化学(4183)、微細対応部材のトリケミカル研究所(4369)、超純水の野村マイクロ・サイエンス(6254)もチェックしておきたい。