日銀の政策変更の影響

日銀は、10月31日に長短金利操作の運用をさらに柔軟化する政策を公表した。これまで厳格な目標値であった長期金利1.0%の上限が撤廃され、機動的に対応を行う方針としている。この政策変更により、実質的にはYCC(イールドカーブ・コントロール)は長期金利の急激な上昇がない限り形骸化したと考えられる。

J-REIT価格に対する影響としては、日銀の政策変更の可能性が高まった10月30日に東証REIT指数は前日比2.2%安い1,805ポイントまで下落した。一方で、日本10年債利回りは1.0%まで上昇せず、10月末には0.95%を超える場面もあったが低下に転じている。

10月中旬まで日本の10年債利回りは0.8%以下で推移していたことと比較すると、高い水準での推移となっている。但し、2023年6月8日のコラムでも解説した通り、日本の10年債利回りとJ-REIT利回りの乖離(イールドスプレッド)には直接的な関係はない。

つまり、日本の10年債利回り上昇は短期的な面を除けば、J-REIT利回りの上昇(価格の下落)要因にはならない。また、保守的な財務運営を行ってきた大半の銘柄では、長期金利上昇による借入金調達コスト上昇の影響も軽微だ。

J-REITにとって価格面、業績面で見て、日銀の10月末の政策変更の影響は少ないと考えられる。

米国長期金利低下が続けば、J-REIT価格再上昇へ

さらに、J-REIT価格停滞の主要因となっていた米国の長期金利も低下傾向が続く可能性が生じている。米国10年債利回りは10月中旬には5%まで上昇していたが、11月に入り低下傾向が続き、4.5%程度での推移となっている。

東証REIT指数が年初来高値を更新した9月初旬の4.2%程度と比較すれば、まだ高い水準ではあるが、低下傾向が続けば、東証REIT指数が1,900ポイント台を目指す動きとなりそうだ。

また、2023年に入り円安の恩恵を受け、業績が拡大している日本株式は上昇基調となっているが、当面の上限と考えられる1ドル150円の水準まで円安が進展している。従って米国の長期金利低下が継続的となれば、円高に転じる可能性も高くなることから、2024年以降の企業業績に対する警戒感も高くなりそうだ。

すなわち、米国長期金利低下が継続的に続けば、出遅れ感の強いJ-REIT価格にとっては「追い風」となる。物件の売却益で分配金が支えられている側面もあるが、J-REITの業績は堅調であり、米国長期金利の低下傾向が続くと考える投資家にとっては、投資妙味があるタイミングと言えるだろう。