モトリーフール米国本社、2023年10月22日 投稿記事より

主なポイント

・IBMのWatsonは企業向けのAIサービスに焦点を当てており、消費者向けサービスは他社に任せている
・NXPセミコンダクターズは組み込みコンピューティングのリーダーであり、モバイルデバイスや車載デバイスにAIが搭載されるのに伴って力を発揮する
・IBMとNXPセミコンダクターズは、分野は異なるものの、将来性があるだけでなく、実世界で実用化されているAIソリューションを既に提供している

AI投資を検討するなら、隠れた有望銘柄に注目を

2023年に入り、多くの人工知能(AI)関連銘柄が急騰しています。グーグルのBardやオープンAIのChatGPTといった、パワフルでユーザーフレンドリーなチャットボットの登場が世界を席巻し、今では誰もがその恩恵にあずかろうとしています。このAI革命の初期のリーダーの中には、わずか数ヶ月の間に株価が2倍や3倍になっている企業もあります。

一方で、有望なAI関連銘柄でもあるにもかかわらず、ウォール街から見過ごされている銘柄もあります。組み込みAIのスペシャリストであるNXPセミコンダクターズ[NXPI]の株価は年初来で17%しか上昇しておらず、ハイテクセクターの重鎮であるIBM[IBM]に至っては年初来でわずかながら下落しています。

出遅れているこれらのAI銘柄は、足元の株価は妥当な水準であり、絶好の買い場を提供しているのかもしれません。

IBM[IBM]とAIの関わりは想像以上に深い

ほとんどの投資家がIBM[IBM]をAIのパイオニアだと考えていないのは大変に意外です。100年以上の歴史を持つIBMは数十年前に、世界トップレベルの機械学習システムを開発しました。この取り組みが初めて大々的に世に知られたのは1997年で、同社が開発したコンピューター・チェスのDeep Blueは、当時の現役チェス世界チャンピオンだったガルリ・カスパロフ氏を破った最初のコンピューターとなりました。

IBMはその後も、AIへの取り組みを続けてきています。同社はAI関連で数万件の特許を取得しており、今でも毎年、数千件が追加されているのです。AI領域で石を投げれば、ほぼ必ずと言っていいほど、IBMの特許、イノベーション、利益を生み出すビジネスアイデアに当たるほどです。

企業を顧客に、ビジネスを根幹から変える可能性のあるIBMのAIサービス

同社のアイデアは企業向けのAIサービスに焦点を当てており、ChatGPTや画像生成AIのような消費者向けのAIを使ったおもちゃは他社に任せているようです。IBMの企業向けAIプラットフォームはwatsonx(ワトソンエックス)と呼ばれ、一般の消費者にとってユーザーフレンドリーとは言えないかもしれません。しかし、このプラットフォームは、企業の事業運営を管理、強化、支援することを目的としてゼロから構築され、堅牢なデータセキュリティ、それぞれの企業が持つデータとの連携、企業が使用する既存のコンピューティングシステムとの深い統合といった機能を備えています。

当然ながら、顧客を企業に限定すると初期の成長は遅くなります。こうした顧客は、衝動買いすることはない代わり、新しいソフトウェアツールがあれば必ずチェックし、品質管理、セキュリティ、相互運用性などを一通りテストします。購入を決めるには、おそらく複数の取締役や幹部の承認を得なければなりません。そのため、IBMのAI関連売上は、ChatGPTをめぐる熱狂をきっかけに火が付き、現時点ではじわじわと燃えている段階ですが、いずれビジネスのあり方を根本的に変えるかもしれません。爆発的成長は視野に入っていたとしても、すぐに効果が表れるものではないのでしょう。

IBMは、今すぐではないにせよ、長年にわたりAI分野で多くの大きな成功を収めると思われます。こうした長期的見通しは足元の株価に織り込まれておらず、株価フリーキャッシュフロー倍率は11倍、予想株価収益率(PER)は14倍と、バリュエーションは控えめな水準です。

NXPセミコンダクターズ[NXPI]はAI競争のダークホース

消費者向けの話題に戻りましょう。AI機能は今後数年間で確実に普及し、私たちの身の回りのあらゆるものをより強力に、より使いやすくしてくれると思われます。こうした組み込みAIツールの背後で大変な作業の大部分をこなしてくれるのが、実世界のデータを収集し、バックエンドのAIシステムを訓練する大型サーバーです。とはいえ、AIトランザクションの残りの部分を担い、リクエストやコマンドをリアルタイムに処理するのは、自動車やリビング、あるいはポケットの中にあるそれぞれのデバイスです。

そこでNXPセミコンダクターズ[NXPI]の出番です。NXPセミコンダクターズは、エッジコンピューティング・ソリューションの主要プロバイダーであり、車載コンピューティングにおいて市場をリードしているほか、スマートフォンに搭載されている近距離無線通信(NFC)チップでは市場をほぼ独占しています。レジでの支払いでスマートフォンをかざすたびに、セキュリティを重視したNXPセミコンダクターズのワイヤレスネットワーキングチップが働いてくれているのです。自動車にも同社のプロセッサーが搭載されて、エンジンタイミングや安全センサーなどに対応しています。

デバイスを支える主要プロバイダーであるNXPセミコンダクターズのAI戦略

こうしたエッジコンピューティングの確立とAI機能に必要な演算処理は、それほどかけ離れたものではありません。実際、NXPセミコンダクターズは既に、自動車用および産業用に、AIに特化したマイクロプロセッサーを製造しています。AI事業が軌道に乗れば業績も好調が見込まれます。

NXPセミコンダクターズの経営陣は、事業の多くの部分にAI関連の成長ストーリーがあると見込んでいるでしょう。産業用制御システムから、車載の安全センサー、決済認証に至るまで、同社のほぼすべての事業が、AIに焦点を当てたエッジコンピューティングに関係しています。

しかし、投資家はまだ同社のAI関連見通しに気づいていないのかもしれません。株価は年初来で上昇していますが、これはAIを理由とした上昇ではなく、2022年の大幅下落からの反動にすぎません。概要的には、NXPセミコンダクターズのここ数年の株価は、S&P500指数とおおむね同調して推移しています。例えば、過去2年間の両者のパフォーマンスはほぼ同じです。

これは、先見の明のある投資家にとって好材料です。もしウォール街が、NXPセミコンダクターズにとってAI市場がどれほど大きなものかになるかを理解していないとしたら、今は株価が割安なうちに買うチャンスかもしれません。株価は割安で、予想PERは12.5倍と、IBMのバリュエーションと大差はありません。

将来の見通しに基づいて多くの企業が積極的に投資をしている分野において、NXPセミコンダクターズは、既に実績のある確かな技術を提供しています。AIをめぐるこのチャンスは注目に値するものでしょう。

免責事項と開示事項  記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。元記事の筆者Anders Bylundは、IBM、NXPセミコンダクターズの株式を保有しています。モトリーフール米国本社はIBM、NXPセミコンダクターズの株式を推奨しています。モトリーフールは情報開示方針を定めています。