<<<<【前編】キャシー・ウッド氏「新しいイノベーションから投資上の恩恵を得るために必要なこと」
デジタルウォレットの分野として注目しているブロックとコインベース
岡元:キャシーさんが注目している企業について教えてください。
ウッド氏:ブロック[SQ]とコインベース[COIN]は、デジタルウォレットの分野として注目しており、グローバルで極めて大きな存在になると思います。ブロックは近くデジタルウォレット市場に参入予定ですが、すでにビットコインを通じて試験済みで、規制を回避し金融アクセスを増加させると考えます。
コインベースはより機関投資家向けのアプローチをとっており、コインベースは独自のウォレットやその他の暗号サービスを進化させつつ、大手機関投資家を通して事業展開すると考えています。コインベースはフルサービスの暗号会社になるでしょう。
デジタルトランスフォーメーションにおいて、このデジタルウォレットは非常に大きなアイデアであり、フィンテックとデジタルトランスフォーメーションの両分野において、非常に高いポジションに属すると考えています。
ビットコイン、今後1年程度の見通し
岡元:コインベースに関連する話として、今後約1年程度のビットコインの見通しをお聞かせください。
ウッド氏:私たちは通常、5年から10年の見通しを立てていますが、最近ビットコインを支える非常に重要な展開がいくつか見られました。まず、2023年3月に米国で起きた地方銀行の危機です。ビットコインは19,000ドルから30,000ドルになりました。それが何を意味するかというと、ビットコインは安全への逃避先だということです。なぜ安全への逃避先になるのか?ビットコインには銀行のようなカウンターパーティーリスクがないからです。
ネットワークは完全に透明で、高度に分散化されており、非常に安全です。これが最初のマイルストーンです。次に起こったことですが、米国ではビットコインおよび重要なビットコインETFに対し最も厳しい規制が設けられています。
ところが、ここ数ヶ月の間に、SEC(米国証券取引委員会)はいくつもの裁判で敗訴しているのです。そのひとつがリップルでしたし、他のケースではグレイスケール・インベストメンツの訴訟がありました。
グレイスケールは、なぜカウンターパーティーリスクのあるビットコイン先物ETFを認め、カウンターパーティーリスクのないビットコイン・スポットETFを認めないのか、スポットは先物より安全ではないか、とSECを訴えたのです。
裁判所はSECに不利な判決を下し、グレイスケールが支持されました。つまり、司法システムはSECが自分らの権限の範囲をはみ出て強制的にルールを執行することを良しとせず、議会や政府の立法府あるいは司法府に対しビットコインに関する新しいルールや規制を整備するよう求めているように見えます。そして、SECはビットコイン先物ETFを承認したことから、ビットコインETFを承認するのも時間の問題だと考えられます。
ストリーミング・プラットフォームが欧米で注目される理由
次に、エンターテインメント・プラットフォームであるロク[ROKU]について、解説しましょう。興味深いことに、前回の訪日で日本では多くの人がストリーミング・サービスを視聴するのに主にモバイル端末を使っていると知りました。欧米ではそうではなく、特にアメリカでは、多くの家で5台から10台ものテレビがあり、各部屋に1台ずつテレビが置かれていたます。
ロクはストリーミングのプラットフォームであり、ネットフリックス[NFLX]の競争相手ではありません。ネットフリックスはロク上でストリーミングを提供し、ディズニープラスや映画専門チャンネルを運営しているHBO(ホーム・ボックス・オフィス)も同様です。ロクはストリーミング・プラットフォームのひとつとして最大級になりつつあります。
同社は広告をベースにしており、広告で大きなシェアを占めています。ちょうど2023年9月7日、収益の伸びが予想をはるかに上回ると事前発表したばかりです。広告は減少、あるいは減少しつつありますが、ロクの広告収入は現時点で10%の上の方から20%の下の方と期待されています。
岡元:ロクはアメリカ人にとって「持っていなければならない」ものなのか、それとも「持っているといい」ものなのでしょうか?
ウッド氏:ロクは「持ちたいもの」になりつつあります。テックバブルや通信バブルのころ、消費者の関心を適切なテレビ番組に導くことのできる企業が1社だけ存在することになるだろうと言われていたのを記憶していますが、今それがストリーミング・チャンネルなのです。
ロクは、消費者の関心事をすべて学習し、消費者をその興味の先へと導きますが、それがネットフリックスなのかHBOやディズニーなのかはロクの知るところではなく、消費者を適切な場所に導くだけです。スポーツ観戦は増加が見込まれますが、ディズニー等が出資するスポーツ専門局ESPNは全面的にストリーミング放送に移行すると思われ、ロクはその大きな恩恵を受けるでしょう。
デジタルトランスフォーメーション関連で注目している企業とその理由
ウッド氏:デジタルトランスフォーメーション関連で注目しているショッピファイ[SHOP]は、ソーシャル・コマースで非常に興味深い銘柄です。買い物客が探している商品を見つけられるようショッピファイのプラットフォーム上で最適な場所を特定するために、AI、つまりチャットボットを導入しています。アマゾン・ドットコム[AMZN]はソーシャルコマースサイトではないので、ショッピファイはアマゾンからシェアを奪っていると考えています。アマゾンの株価が下落方向になるという意味ではありませんが、ショッピファイがアマゾンからシェアを奪いつつあると私たちは考えています。
ゲームエンジンの会社であるユニティ・ソフトウェア[U]社は、バーチャルリアリティゲーム全体の70%以上のシェアを占めていこともあり注目しています。最新のゲームのひとつに、ビートセイバーがあります。ビートセイバーはユニティのプラットフォーム上でプレイするナンバーワンのゲームです。
ロブロックス[RBLX]は、ユーザー育成ゲームのためのソーシャル・プラットフォームです。ロブロックスのプラットフォーム上に自分の店を持ち何かをやりたいという若者がたくさん集まり、彼らは事実上コーダーになっています。彼らは、プラットフォーム上で店を作ったり、他の人たちと関わるためにコーディングをしています。とてもエキサイティングなプラットフォームだと思います。
携帯電話会社がグローバルコミュニケーションに着手
岡元:宇宙関連で注目している企業について教えてください。
ウッド氏:イリジウム・コミュニケーション[IRDM]は低軌道衛星を手掛ける企業ですが、昨今最もエキサイティングな動きは、多くの携帯電話会社がイリジウムやスペースXと契約を結び、グローバルコミュニケーションに着手したことだと思います。イリジウムはグローバルコミュニケーションを可能にする企業のひとつです。
クレイトス・ディフェンス・アンド・セキュリティー・ソリューションズ[KTOS]はドローンの専門会社です。重要なことは、ドローンは小包や食料、人の移動方法として将来極めて重要な位置を占めると考えられる点です。クレイトスは、国家安全保障や国防においても極めて重要だと思います。
ARK社ではジョビー・アビエーション[JOBY]も保有しています。しかし、ポジションはアーチャー・アビエーション・インク[ACHR]の方が大きいです。アーチャーは規制をクリアする段取りにおいて他社より幾分動きが速く、さらにボーイング[BA]とアーチャーは訴訟で和解し、その後ボーイングがアーチャーに出資するという非常に興味深い動きが続きました。アーチャーには他にも重要なパートナーが2社あります。1つはイタリアの自動車会社でクライスラーを買収したステランティス[STLA]で、彼らは多角化のために自律走行による移動方法を考えています。多角化を考慮しているもう1つの企業は、ユナイテッド航空です。
もし私たちの予想が正しければ、将来的に短距離フライトの60%は、地上でも空中でも自律飛行にシェアを奪われることになり、これは航空会社にとって非常に重要な多様化要因となります。
米国のヘルスケア情報を牽引する2社インビテとテラドック・ヘルス
岡元:X(旧Twitter)で募集していた外国株関連の質問の中にインビテ[NVTA]とテラドック・ヘルス[TDOC]に関するものがありました。この2社の最新動向を教えていただけますか?
データの勝者であるインビテ
キャシー氏:インビテはマルチオミクスの世界で最も重要なデータベースのひとつです。遺伝性のデータだけでなく、体性データと呼ばれる遺伝性のデータ以外のデータも持っています。インビテはゲノミクスやマルチオミクスの分野でデータの勝者になりたいと考えており、その大きな野望のために、キャッシュが急速に減少しました。
同社はアマゾンから引き抜いたCEOのもとで会社規模を適正化し、資金の使用をうまく切り詰めていると思います。同社は今でも、すべての製薬会社が利用している重要なデータベースへの最大の貢献企業のひとつです。
キャッシュの減少が激しく事業規模の適正化に取り掛かる必要があったものの、製薬会社や保険会社、病院、医師が長期的に利用するゲノムの分野で、最も重要なデータ活用の1つになると私たちは考えています。
米国のヘルスケア情報で中核を担うテラドック
テラドックについては、ヘルスケア情報では米国でその中核を担う企業になると私たちは考えています。この会社はより多くのデータ、つまりゲノムデータや電子カルテデータ、さらに遠隔医療から得られる独自のデータを持っています。そのため、AIを使って、病院・医師・患者・保険会社をつなぐことができるようになるでしょう。
同社はニューヨークのメモリアル・スローン・ケタリングからチーフ・データサイエンティストを雇い入れました。メモリアル・スローン・ケタリングは非常に洗練された癌ケアセンターであり研究病院です。そこから彼を引き入れAIの責任者に据えたことで、医療情報システムはより知性的になることが期待できます。
岡元:この分野での競争はどうですか?
ウッド氏:競争は実際、徐々に消えてきています。私たちが所有していた企業のいくつかが大企業に買収されました。なぜかというと、大企業は提供する機能や機能性を追加したいものの、医療の基盤をしっかりと構築していないのです。その好例がユナイテッド・ヘルス・グループ[UNH]でしょう。ユナイテッド・ヘルス・グループは非常に大きな大企業ですが、基幹事業は保険であり、保険金支払では米国最大手のひとつです。一方、テラドックは、ヘルスケア情報だけに集中している会社です。
テラドックについて、競合がどう減少しているかを実感できる点がもう1点あります。以前、テラドックはアマゾンが競合になる可能性を脅威としていましたが、現状はそう考えていないようです。
岡元:その理由はなんでしょうか?
ウッド氏:アマゾンは、自分たちの得意分野であるコマースに集中することにしたのです。テラドックが手掛ける事業はアマゾンの競合にはならない。アマゾンが予想していたよりもはるかに複雑で、はるかに多くの規制を伴う事業だとわかったのです。
次回は、キャシー・ウッド氏に聞く「エヌビディア売却の理由・テスラが指数関数的な成長を遂げる理由」【後編】をお届けします
※本記事は2023年9月7日に実施したインタビューを後日、編集・記事化したものです。