2020年8月、新型コロナウイルスへの対処もまだ模索中であった頃、日本株マーケットで話題になったのはウォーレン・バフェット氏の日本株への投資でした。総合商社5社(三菱商事・三井物産・住友商事・伊藤忠商事・丸紅)に一気に投資したことを覚えている方も多いと思います。

2023年4月にはバフェット氏が来日し、その後の日本株の上昇局面のきっかけとなったことは記憶に新しいところです。4月末に29,000円近くだった日本株は、6月には高値33,700円を超えました。その後、株価はやや落ち着き8月に入ると、1,000円以上下落し、31,000円台で推移しています。しかし、長期投資こそがバフェットの真骨頂。やや弱気に振れている今こそ「オマハの賢人」の次の一手に注目していきたいと思います。

実は、本連載の2020年9月4日付けコラムで、「バフェットが次に投資しそうな日本株は?」と題し、ウォーレン・バフェット氏の総合商社への投資時にその狙いと、次に投資しそうな銘柄候補を挙げました。あれから3年、当時の見立てや「その次の銘柄」はどうなっているか。該当記事をもとに見ていきましょう。

2020年夏以降、バークシャーは日本の総合商社株を買い増し

まず現在まで、上記の総合商社以外にバフェットが新たな日本株に投資したという情報はありません。一方で、2022年11月には大量保有報告書(変更報告書)が出ており、例えば三菱商事(8058)であれば5.04%の保有から6.59%と買い増しています。

さらに今般買い増しを行うというニュースが出ており6月に提出されたものでは実に8.31%まで買い増しています。他の総合商社でも概ね似たような動きのようです。まとめると、上記の記事が出た2020年夏に5%程度買ったものを2022年11月時点で6.6%程度に買い増し。さらに直近では8.3%程度まで買い増したということのようです。

そのように総合商社株を買い増していく一方で、直近で話題になっていたのはバフェット率いるバークシャーが2023年4月-6月に株式を売り越したというものでした。同期間には日本同様に米国でも株価が上昇しており、売り越しとなったということだと思われます。一方、その間に日本の総合商社株を買い増ししていることから、今後日本株をより買い付ける可能性は期待していいのではないでしょうか。売り越しの結果、バークシャーの投資資金が増えており、円安の中、日本株を買うことは考えられそうです。

バフェットの総合商社への投資は、これまでのところ成功だと言える理由

そもそも、バフェットの商社投資は成功だったのでしょうか。最初の大量保有報告書が提出されたのは2020年8月でした。その提出前の2020年6月末、2021年6月末、2022年6月末、直近の株価の推移を見てみましょう。図表1は直前の期間からの株価変動(2023年7月末の場合、2022年6月末からの株価変動)を示しています。

【図表1】総合商社株の株価推移と変動率
出所:マネックス証券

これを見ると、直近の約1年でも総合商社株はすべて5割以上上昇し、丸紅に至っては倍以上になっています。同期間の日経平均も25%以上上昇していますが、それを大きく上回っています。それ以外の期間でも概ね、日経平均を遥かに上回るパフォーマンスです。バフェットの総合商社への投資は大成功だったと言っていいでしょう。

もちろん、商社投資の成功は、パフォーマンスについては資源高などの結果論という面もあります。しかし、バフェットがわざわざ御年92歳(2023年8月末で93歳)にして来日したというのは、日本株マーケットの変化を感じていると考えられます。

実際、バフェットは来日時に投資先である総合商社の経営陣と会談していますが、その中で、伊藤忠商事の岡藤会長は、「バフェットが日本市場をもう一度見直して投資していこうというのが共通の考え方だと確信を持った」と話しています。これは、単に総合商社が投資先として魅力的という話ではなく、日本市場の変革が背景にあるというものを示していると言えましょう。バフェットの投資先の多くは米国株ですが、日本株も対象となってくるとするとインパクトは大きいでしょう。

「日本市場の見直し」は、本連載でも書いているようなアクティビストを中心とした投資家サイドからのプレッシャーも高まり、日本の企業が株主重視になっていることを見直す、と言い換えてよいかもしれません。マネックス証券の「銘柄スカウター」では企業の総還元性向の確認ができます。ご存知の通り、総合商社は利益水準が大きく伸びていますが、その利益はしっかり株主にも還元されていることが分かります。伊藤忠商事の例を見てみましょう。

利益を株主に大きく還元、日本企業の変化

【図表2】伊藤忠商事の総還元性向
出所:マネックス証券「銘柄スカウター」

ご覧の通り、オレンジ色(配当)と灰色(自己株式取得)の数字が大きく増えていることが分かります。注目すべきは赤の折れ線である総還元性向で、2023年3月期はここ数年で最高水準となっており、利益の増える中、それをしっかり還元に回していることが分かります。

日本の会社は安定配当こそ行うが、儲かったときも利益配分をしない…という見方とは明確に異なることが分かります。他の企業も同様で、直近で大きく利益水準が伸びたケースとして海運企業をイメージする方も多いと思いますが、各社とも大きく還元しています。ぜひ、「銘柄スカウター」で個別の企業を見て変化を感じていただければと思います。

バフェットの「次」は? 日本株への期待が少し落ち着いた今こそ注目

来日から時間も過ぎ、やや、バフェットの「次の銘柄」への注目も落ちてきているように思います。しかし、「日本市場の見直し」自体は特に変わっているわけではなく、「次」がなくなったということはないでしょう。注目が落ちてきているときこそ面白いと言えるかも知れません。

先述した3年前の記事で取り上げた銘柄はセブン&アイ・ホールディングス(3382)、オリックス(8591)、味の素(2802)、ソニーグループ(6758)、任天堂(7974)、資生堂(4911)でした。残念ながら3年前と変わらず、商社の「次」が出てきていない状況ですが、この3年でセブン&アイの海外コンビニの利益は約3倍になり、すでに利益の半分も海外コンビニになり、国内コンビニを追い越しています。

セブン&アイ、ソニー、味の素は2023年3月期と連続で営業利益が過去最高を更新。任天堂も2023年1Qで営業利益が過去最高となっています。日本企業の成長は続いています。2021年の東京五輪では日本のコンビニが話題となり、「PlayStation5」や「ゼルダ」「マリオ」などの存在感もいよいよ増しているように見えます。

バフェットが日本の総合商社に投資を明らかにした2020年8月は、新型コロナウイルスの影響もまだ見えず、わずか数ヶ月前には原油先物がマイナスをつけたと話題になっていました。今とは隔世の感があります。日本株への期待が少し落ち着いてきた今こそ、バフェットは投資機会を探っているか
も知れません。