マーケットが大きく動いています。最高値の更新を続けていた米国株が9月3日の取引で大きく下落。上昇を主導していたハイテク株中心のナスダック総合指数は5%近い大幅な下落です。5%というと、日経平均だと1,150円ですから、大きな値下がりであるとことが分かります。

もっとも、8月26日からの6営業日の上昇が590ポイントで、9月3日の下落は598ポイントですので、今回の下落は上昇し過ぎの反動と考えられるかもしれません。ただ、1週間ほどの間に指数が5%近い上昇・下落しているのは、かなり不安定なマーケットです。前回コラムでもお伝えしたように、今、世界全体が大きく変化している中で投資家も新たな投資戦略を模索しているようです。

バフェット氏がなぜ日本の商社に投資?

そうした中、ウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハサウェイが子会社を通じて日本の総合商社5社に投資し、注目を集めています。世界一の投資家として知られるバフェット氏の視点は、アクティビストを含めた投資の潮流を考える上で特に参考にすべきかと思います。前回、コロナ禍における投資環境の変化がアクティビストの投資戦略に影響を与えるだろうということを書きましたが、今回のバフェット氏の判断もそのような変化に関係していると思われます。

今回の日本の商社5社への投資は、以下のような考え方によるものではないかと推測しています。

・日本でも長期投資ができる割安な会社があれば投資したい
・国際的に収益源があるような日本の会社が望ましい
・安定的に収益をあげられる会社(もともとのバフェット氏の好み)が望ましい
・お金の価値が減ることを予期して、資源に投資しておきたい
・低金利下においてお金を借りてでも株を含めた資産に投資することが有効である

上記のように推測した理由をご説明します。今回、バークシャーは総合商社5社をいずれも約5%、特に選別せずに買っています。また投資を増やしていく姿勢を見せています。日本での投資を長期で行っていきたいとしています。買い増し・長期は日本の会社に対する強気の姿勢の表れと見てとれます。

そして、総合商社株の特徴は配当利回り・利益/資産水準から見て、相対的に割安なところでしょう。各社は資源投資に力を入れており、原油・非鉄金属・食料品などの価格上昇は追い風です。バークシャーは米国でも金鉱株に投資しており、バフェット氏が資源を意識していることもうかがえます。

総合商社のビジネスは複雑で多岐に渡っていますが、(その複雑な分析を行うよりは5社まとめ買いが合理的と考えたのでしょう)三菱商事のローソン、伊藤忠のファミマ、住友商事のSCSKなど安定的なビジネスも多く、資源価格の影響が大きいにも関わらず、商社5社はここ10年の決算で最終赤字はほとんどありません。そのため、総合商社は日本を代表する国際的な会社という見方ができるでしょう。バークシャーは日本で低金利で円債を発行しており、そのお金で配当利回りの高いこれらの株式を買っているので、この低金利であれば借金してでも株を買うという考えであると言えそうです。

また、これらの判断の背景には、新型コロナウイルスの拡大や、その最中での株高、米中対立問題の激化があるようと思います。バークシャーは否定的であった自社株買いを進めています。それが、最高値圏である米国株で買うものが見当たらないためだと思います。米中の対立は双方に悪影響を及ぼしかねないので、世界三位の経済国である日本が相対的に魅力的に映っているのかもしれません。

バフェット氏が次に日本の会社に投資するとしたら

では、今後さらにバフェット氏が日本の会社への投資を考えるとしたら、どのような会社が挙げられるでしょうか。ある程度の規模の会社でないと買いにくそうです。また、海外展開や割安性の他に、ブランド力があり、経営者に依存してない安定した会社が好まれるように思われます。

そこでまず、頭に浮かぶのは、セブン&アイ(3382)です。同社は海外収益も大きく、過去の業績からすると割安に映りそうです。バークシャーが米国で小売株を買い増している点からも考えられます。バークシャーは金融分野への投資も大きく、国際展開を行っていて指標面から割安なオリックス(8591)も注目です。食品株では割安なものは少ないのですが、海外展開で先行する味の素(2802)も考えられそうです。バークシャーの保有株の筆頭であるアップルがかなり割高なことを考えると、ソニー(6758)、任天堂(7974)にも興味を示しそうに思います。日用品分野では、花王(4452)よりも海外展開が進んでいる資生堂(4911)が考えられます。

アクティビストを含め、先見性のある投資家がどのような判断をするかを想像し、先回りを行うのも投資の醍醐味です。今回のバークシャーの日本株へのまとまった投資は海外の日本株への見方を変える可能性さえ期待できます。ぜひ、このような視点から銘柄分析を楽しんでいただけたらと思います。