中古住宅市場の需給が逼迫する中、住宅建設会社へ新規投資

著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いるコングロマリット、バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]は8月14日、2023年6月末時点の上場株式の保有状況を示すフォーム13Fを当局に提出した。4-6月における上場株への投資状況について前回(2023年3月末)と比較しつつ確認したい。

今回、新たに住宅建設会社3社への投資が明らかになった。テキサス州に本社をおく住宅建設のDRホートン[DHI]とワシントン D.C.を含む東海岸で事業を展開するNVR[NVR]、フロリダ州にあるレナー[LEN]である。バークシャーは6月末時点でDRホートン株を約597万株、レナー株を約15万株、NVR株を1万株保有していた。

金利上昇のあおりを受け、第2四半期の住宅建築、改装業者は需要減速という逆風の中にあった。しかしその一方で、中古住宅の深刻な供給不足という状況も起きており、米国の大手住宅建設会社である3社の株価はいずれも年初来で30%程度値上がりしている。

今回、保険ブローカーのマーシュ・アンド・マクレナン[MMC]、医薬品販売のマッケソン・コーポレーション[MCK]、ヴィッテス・エナジー[VTS]株を全て売却した。また、マイクロソフトによる買収案が反トラスト法(独占禁止法)当局の精査に直面しているアクティビジョン・ブリザード株[ATVI]を70%削減した他、ゼネラル・モーターズ[GM]やシェブロン[CVX]についても保有比率を減らした。

バークシャーの2023年6月末時点の保有上場株式(フォーム13Fより)
緑:新規ポジション  橙:売却
出所:フォーム13Fより筆者作成

 

バークシャーが8月5日発表した4-6月期の決算発表資料中のキャッシュフロー計算書によると、期間中の株式売買は取得額が45億6,900万ドルに対して、売却額は125億5,000万ドルと、差引79億8,100万ドル(約1兆1,300億円)の売り越しだった。売り越しは3四半期連続だった。

2023年4-6月期のバークシャーの株式売買は79億8,100万ドルの売り越し
出所:決算資料より筆者作成

 

バークシャー内でのアップル株保有割合は過半数越えに

保有割合の上位(評価額順)は、アップル[AAPL]、バンク・オブ・アメリカ[BAC]、アメリカン・エキスプレス[AXP]、コカコーラ[KO]等、顔ぶれはほぼ変わっていないが、期中における保有株数と株価の変動によって、割合と順位に多少変化が出ている。
アップルについては4-6 月期に株価が大きく上昇し、初の時価総額3兆ドル企業となったこともあり、バークシャー内での保有割合は5割を超えた。一方、前述の通り、保有する株式の7割を売却したアクティビジョンはトップ10圏外となった。

バークシャーが持つ上場株式の保有割合(2023年6月末時点のフォーム13Fより)
出所:決算資料より筆者作成
前回(2023年3月末時点)の保有割合
出所:決算資料より筆者作成

バフェットはなぜ、現金の山を積み上げているのか?

バークシャーが8月5日に発表した2023年4-6月期の決算を振り返っておきたい。投資評価損益などを除く営業利益は前年同期比7%増の100億4,300万ドルだった。保険事業が好調だった。一方、最終損益は359億1,200万ドルの黒字に転換した。一年前は436億2,100万ドルの赤字だった。

米国の会計基準では保有する上場株の評価損益を最終損益に反映する必要があるため、バークシャーの最終損益は株価変動によって大きくぶれる傾向を持っている。4月から6月にかけては米地方銀行の経営破綻問題や米国政府の債務上限をめぐるつば競り合いなどがあったものの、米国の株価は堅調に推移した。主要株価指数の一つであるS&P500種指数は8%上昇、またナスダック市場は13%上昇した。

また、バークシャーの上場株ポートフォリオの半分を占めているアップル株の時価総額が6月末に、世界の上場企業としては初めてとなる3兆ドルを突破し、今回のバークシャーの業績への追い風となった。8月初旬にはバークシャー・ハサウェイ[BRK.B]の株価は550ドルを超え、史上最高値を更新した。

手元資金は6月末時点で1,473億ドルとなり、2021年9月末以来の高水準に積み上がった。

1992年以降、ウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイが保有してきた現金の額は次のとおりだ。

1992年: 5億4,270万ドル
1993年: 11億ドル
1994年: 2億9,650万ドル
1995年: 10億ドル
1996年: 8億9,110万ドル
1997年: 11億ドル
1998年: 71億ドル
1999年: 53億ドル
2000年: 356億ドル
2001年: 403億ドル
2002年: 460億ドル
2003年: 382億ドル
2004年: 477億ドル
2005年: 478億ドル
2006年: 421億ドル
2007年: 470億ドル
2008年: 311億ドル
2009年: 245億ドル
2010年: 280億ドル
2011年: 479億ドル
2012年: 407億ドル
2013年: 645億ドル
2014年: 846億ドル
2015年: 938億ドル
2016年: 964億ドル
2017年: 998億ドル
2018年: 1,111億ドル
2019年: 1,224億ドル
2020年: 1,466億ドル
2021年: 1,441億ドル
2022年: 1,054億ドル
2023年: 1,473億ドル

現在、米国の投資家はゼロリスクで5%のリターン(金利収入)を得ることができる。バフェット氏は

「バークシャーは先週月曜日に米国債を100億ドル(約1兆4,300億円)購入した。今週の月曜日にも100億ドルの米国債を購入した。来週の月曜日について唯一の問題は、100億ドルを3カ月物の財務省短期証券(TB)で買うか6カ月物で買うかだ」

と米経済専門局CNBCで語った。

出所:8月3日ブルームバーグ 『バフェット氏、米国債を購入-フィッチの格下「心配いらない」』

バークシャー・ハサウェイのキャッシュポジションとNYダウの推移(2023年6月末時点)
出所:各種データより筆者作成

バフェットが買い進めるエネルギー関連株への確信

バフェット氏は4-6月期にシェブロンの株式を約7%削減した一方、オクシデンタル・ペトロリアム[OXY]の株式を追加取得し、6月末時点のバークシャーによる保有比率は25.55%まで高まった。バフェット氏は5月6日に開催されたバークシャーの年次株主総会において、オクシデンタルの経営陣と事業を高く評価しているものの、全てを買収する計画はないと述べていたが、すでに4分の1を超える水準にまで買い進んでいる。

5月6日のウォール・ストリート・ジャーナルの記事「バフェット氏が石油株に巨額投資 なぜ?石油株で大やけどした伝説の投資家バフェット氏、心変わりの理由とは」によると、過去(2008年と2014年)に石油大手への巨額投資で立て続けに大きな損失を出したバフェット氏が、ここに来てエネルギー株へのアロケーションを高めている理由について、炭素排出量の削減に野心的な目標を掲げる企業が増えても、世界は今後も大量の石油を必要とし続ける、とバフェット氏が確信していると指摘している。

バフェット氏自身も2022年、米国が石油脱却へと近づいているとは思えないと述べている。また、技術の進化により生産性が向上し、石油企業の多くは、原油相場が現在の水準を大きく割り込んでも、利益を確保できると語っている。例えば、オクシデンタルは原油がバレル当たり40ドルに下がっても、利益を確保できると言う。

バークシャーは昨年、FERC(米連邦エネルギー規制委員会)からオクシデンタルの普通株式を最大50%取得することを認められている。米国屈指の石油、シェールオイル生産地であるパーミアン盆地において優良な資産を保有していること、バランスシートの強化に加え株主還元も積極的に行なっていることなど、バフェット氏が投資先に求める要素の多くをオクシデンタルは満たしている会社だ。

オクシデンタル・ペトロリアムのキャッシュフローマトリックス(2017年-2022年)
出所:決算資料より筆者作成

危機時に本領を発揮、バフェット流投資術

バークシャーは、オクシデンタルへの追加投資以外にも三菱商事や三井物産など日本の五大商社の株式を買い増した他、7月には米メリーランド州にあるLNG(液化天然ガス)輸出ターミナルのリミテッド・パートナーシップ権益を買い増す契約を締結するなど、エネルギーへの投資割合を高めつつある。米国の物価高騰は峠を越えたようにも見えるが、バフェット氏がエネルギー株へのエクスポージャーを増やしている背景には、インフレがそう簡単には収まらないことを表しているのかもしれない。
バイデン大統領スキャンダル、ウクライナ情勢、米中対立、米国の政治的分断など、戦争の拡大とインフレの再燃が不安視されている。米国の物価高騰はいったん峠を越えた。しかし、バフェット氏がエネルギー株へのエクスポージャーを増やしている背景には、「インフレはそう簡単には収まらない」という歴史観があるのかもしれない。われわれはこの先、バイデノミクスの意味を学ぶことになるだろう。

今後、地政学リスクが高まり、インフレが加速した場合、エネルギー株を保有するバフェットにとっては有利であり、一方、ディスインフレになり、金利が低下した場合はハイテク株有利となる。アップルを持っているバフェットにとっては大きなプラスだ。

要は、アップル株と石油株の両建てで、これから金利が上がろうが下がろうが、何とかなるような運用になっているのである。一方で、相場の大暴落が起きるようなことも想定し、それに対する備えとして1,473億ドルもの現金も抱えている。大量の現金を保有しているため、市場が総悲観になっているときに買い向かうことができる唯一の投資家がバフェットである。

バフェットは金融危機時に金融機関に投資を行い大成功した。2008年の世界金融危機(リーマンショック)の際、ゴールドマン・サックス・グループ[GS]に50億ドルを出資した。また、バンク・オブ・アメリカ[BAC]は2011年にサブプライム住宅ローン絡みの損失での株価が急落した後、バフェットから資本注入を受けた。

バフェットの投資の神髄がわかるのは、金利上昇期や相場が大暴落したときである。次の金融危機の局面で、またしてもバフェットは規格外の安値で金融株や優良株を手に入れることになるのだろうか? 米民主党は来年11月の大統領選挙までは相場の暴落を回避しようとするだろう。

したがって、本格的な金融危機や金融システムの崩壊はまだ先である。崩壊の始まりは「利下げ」となるだろう。

石原順の注目5銘柄

アップル[AAPL]
出所:トレードステーション
オクシデンタル・ペトロリアム[OXY]
出所:トレードステーション
DRホートン[DHI]
出所:トレードステーション
NVR[NVR]
出所:トレードステーション
レナー[LEN]
出所:トレードステーション