米ナスダック上場企業メルカドリブレ[MELI]、社名は「自由市場」を意味

中南米を中心に18ヶ国で事業展開

米国株が再び高値を更新し、S&P500指数やナスダック指数が年初来で約2割上昇しているのに対し、それらをアウトパフォーム(約4割上昇)しているメルカドリブレ[MELI]という企業をご存知だろうか。

メルカドリブレはアルゼンチンのブエノスアイレスに本社を置くラテンアメリカ最大のオンラインコマースおよび決済エコシステムを提供する企業で、社名のメルカドリブレはスペイン語で「自由市場」を意味している。「中南米のアマゾン」と言われ、米ナスダック市場に上場している。

アルゼンチン出身で今もCEOを務めるマルコス・ガルペリン氏が、スタンフォード大学に在学中の1999年に仲間らと起業、2007年にラテンアメリカ発祥のIT企業として初めてナスダック市場へ新規上場した。現在、アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、コロンビア、チリ、ペルーなど中南米を中心に18ヶ国で事業を展開している。

【図表1】メルカドリブレの売上高と純利益の推移
出所:決算資料より筆者作成

メルカドリブレは、オンラインマーケットプレイスである「Mercado Libre」を運営し、個人や企業がデジタルで商品の売買を行うサービスを展開している。また、「Mercado Pago」というフィンテックプラットフォームを通じてオンライン決済サービスも提供。その他、マーケット内で使用される各種ツール開発事業の「Mercado Shops」、広告サービス「Mercado Ads」、配送サービス「Mercado Envios」、およびクレジットサービス「Mercado Credito」等、多岐にわたるサービスを展開している。

メルカドリブレが8月1日に発表した2024年第2四半期の決算は、売上高が前年同期比41.2%の50億7300万ドル、純利益は5億3100万ドルと1年前の2倍に拡大した。

【図表2】メルカドリブレの純利益率の推移(アマゾンとの比較)
出所:決算資料より筆者作成

直近の純利益率はアマゾン・ドットコムを上回る

メルカドリブレが発表した決算説明資料によると、電子商取引におけるユニーク購入者数は、前年同期比19%増、販売商品数は前年同期比29%増で、いずれも2021年以来最高の伸び率を記録した。また、フィンテックの月間アクティブユーザー数(MAU)は初めて5,000万人を突破し、前年比37%増となった。

電子商取引の先駆者であるアマゾン・ドットコム[AMZN]は、マグニフィセント7と言われるハイテク銘柄の中でも利益率は相対的に高くない。電子商取引事業では商品を保管・管理・配送など、さまざまなコストがかかっている。一方で、アマゾン・ドットコムは同時にクラウドサービスのAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)によって利益を上げている。メルカドリブレの直近の純利益率は約12%とアマゾン・ドットコムを上回っている。

中南米でのデジタル移行に伴う需要を取り込み成長拡大

10月6日付けのロイターの記事「アングル:中南米の最大手ECメルカドリブレ、フィンテックで勢力圏拡大」は、メルカドリブレが中南米でフィンテックや与信などの分野に積極進出していること、さらに時価総額は1000億ドル超とブラジルの国営エネルギー大手ペトロブラスを上回り、中南米で最も企業価値の高い企業としての地位を確固たるものにしようとしていると報じている。

ロイターのインタビューに答えたガルペリンCEOは、「エコシステムを持つという点で、競争の面で非常に優位に立っていると確信している」と述べ、融資事業とEC事業が互いに相乗効果をもたらしていると説明。「融資が増えれば、EC事業が成長する。その逆もまたしかりだ」とコメントした。

中南米では銀行口座を持たない、あるいは現金だけを利用している人が全人口の約4分の1に上る。その一方で、スマートフォンの普及に伴いオンラインの貯蓄や決済の面で選択肢が広がっている。ガルペリン氏はアジアや欧州、北米ではECやデジタル決済はもっと普及が進んでいるとして、アクティブユーザーを3倍の3億人にすることが目標だと述べた。

国別売上高を見ると、本拠地であるアルゼンチンでの伸びは低調だったものの、ブラジルでは前年同期比51%増、メキシコでは66%増と大幅に拡大した。ラテンアメリカの消費者は、クレジットへのアクセスや分割払いなどのメリットを享受しながら、オンラインショッピングをより身近に感じるようになっている。

【図表3】メルカドリブレの2024年第2四半期の国別・分野別売上高(単位:百万ドル)
出所:メルカドリブレHPのデータより筆者作成

メルカドリブレは、上記のような包括的なオンラインショッピングソリューションを提供することで、中南米における存在感を高めている。同社はオフラインからオンラインへ移行する消費行動の大部分を先行者として獲得する好位置にあり、ラテンアメリカにおいて進むデジタル変革から恩恵を受けることが期待される。

本拠地のアルゼンチンでは2023年12月に就任したミレイ大統領が推進する緊縮財政によって、貧困と失業率が上昇、経済活動は大きな打撃を受けている。また、高インフレが長期化して通貨ペソは米ドルに対して下落、経済危機が深刻化している。しかし、メキシコやブラジルなど、中南米全体を市場として捉えることができれば、まだまだ市場には拡大の余地がありそうだ。

株式はインフレに強い資産?経済危機直面のアルゼンチン企業の株価が上昇する理由

このメルカドリブレに積極的に投資を行っている投資家がいる。ジョージ・ソロス氏の元部下で世界最高の投資家の1人と称されているスタンレー・ドラッケンミラー氏だ。

ドラッケンミラー氏が運用するデュケーヌ・ファミリーオフィスの2024年6月末時点の上場株式ポートフォリオを見ると、ドラッケンミラー氏はこのメルカドリブレ以外にもアルゼンチンのブエノスアイレスを拠点とするエネルギー企業、YPF ADR[YPF]やユニバーサルファイナンシャルサービス企業のグルポ・スーパービエル[SUPV]、アルゼンチン国内で2番目に大きい民間銀行のバンコマクロ[BMA]等、米国市場に上場するアルゼンチン企業のADRを買い入れている。

【図表4】2024年6月末時点のデュケーヌ・ファミリーオフィスのポートフォリオ
(緑:新規ポジション オレンジ:全売却)
出所:2024年6月末時点のフォーム13Fより筆者作成

グルポ・スーパービエルは1887年に設立され、アルゼンチンで130年以上の実績を持つ老舗企業だ。直近(2024年6月末時点)の業績は売上高が6%の減少、純利益は約26%減少と好調とは言い難い。株価の水準も低迷している。ところが株価は年初から2倍に上昇している。

一般的に株式は「インフレに強い資産」とされている。インフレによって通貨の価値が毀損する一方、モノの値段が上がるため、インフレ分だけ株式市場は上昇する。したがって、インフレが起きているとき、もしくはインフレが起こりそうなときに、保有資産に占める株式の割合を高めるのは一つの手段になるだろう。

石原順の注目5銘柄

メルカドリブレ [MELI]
出所:トレードステーション
アマゾン・ドットコム[AMZN]
出所:トレードステーション
グルポ・スーパービエル[SUPV]
出所:トレードステーション
YPF ADR [YPF]
出所:トレードステーション
バンコマクロ[BMA]
出所:トレードステーション