◆マネックス証券のイメージカラーは黄色である。ところが黄色い果物のイメージはあまりよろしくない。たとえばレモン。梶井基次郎の小説『檸檬』は、「えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた」という書き出しで始まる、なんとも陰鬱な短編だし、経済学で「レモン市場」といえば、品質が買い手に分からないために、不良品ばかりが出回ってしまう市場のことである。米国の俗語で「レモン」は質の悪い中古車の意味だ。

◆黄色い果物のイメージをさらに悪くする蛮行が起きている。先日サッカーJリーグの横浜・川崎戦で、横浜のサポーターが川崎の外国人選手に向けてバナナを振りかざした。サルの好物であるバナナには、黒人選手に対する侮蔑が込められている。欧州の試合では30年以上も前から相手チームのサポーターがバナナの皮を投げ入れたりする人種差別事件が頻発している。Jリーグが発足してたかが20年、サッカー後進国の日本はサッカー文化も含め、欧州に見習うべき点が他にたくさんあるのに、こんな最低なところだけはすぐ海外のマネをする。本当に情けない限りだ。

◆島国の日本は同質社会であり、人種差別が起きにくいはずである。差別する相手がいないのだから。逆に言えば「免疫」がないぶん、脆いところがある。移民政策を議論するときには、こうした我々日本人のメンタル面の未熟さも考慮に入れる必要性があるだろう。労働力が足りません、では移民を受け入れよう、という一足飛びの議論はいろいろな意味で危険を孕む。

◆読者の方から、「移民政策について書いてください」とリクエストをいただいていたが、ずっと書けないでいた。なぜなら、この問題について、あまりに僕の知見が乏しいからだ。「想いが至らない」というのが正直なところである。少なくとも経済合理性だけで割り切れない、割り切ってはいけない問題であることは確かである。

◆さてバナナ問題。一流選手はさすがに貫禄がある。スペイン1部リーグ、バルセロナのブラジル代表DFアウベスが、アウェーのビリャレアル戦で観客からバナナを投げ込まれた。アウベスはそのバナナを拾い、皮をむいて食べてから悠然とコーナーキックを蹴ったのである。世界のサッカー選手の間に、アウべスに賛同してバナナを食べる運動が広がっている。ブラジル代表のエース、ネイマールもバナナを食べる写真をネットにアップしてこうコメントした。「僕たちはみんな同じサルだ」。昨日の小欄ではサルがいくら上手に手を使っても人間に進化できない、進化の鍵は二足歩行による言語能力の獲得であると述べた。やはり手よりも足をうまく使えるほうが、より「格上の人間」になれるようである。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆