2022年10月、32年ぶりとなる一時151円台後半の円安水準へ

今回は「円安がメリットとなる銘柄」について解説します。

2022年10月、円が対米ドルで151円94銭という32年ぶりの安値(円安)を記録しました。これがマーケットでは大きな話題となりました。

円が32年ぶりの安値を記録した時、外国為替市場(以下、為替市場)では政府と日銀が2回にわたって「円買い介入」を実施するまでに至りました。これ以上の円安は日本政府としても食い止める、という意思の表れです。

この円買い介入を機に円安の流れは反転して、2023年の年明けに今度は円が上昇し、130円台を超えるまで押し戻される円高となりました。

そのようなこともあって、為替市場を巡るニュースが最近は増えているように思います。

悶着感の強かった過去4年から、再び急激な為替変動の可能性

2022年までの急ピッチな円の下落と、年明けからの円の上昇はひとまず収まりましたが、今また、円が下落しやすい環境に戻りつつあるようです。政府による円買い介入が再び実施されるという観測も、市場では折に触れて飛び交うようになっています。

これほどの急激な為替変動は久しぶりです。2018年から2021年まで、為替市場における対米ドルでの円の変動はきわめて狭い範囲にとどまっていました。

変動幅がどれほど小さかったかと言うと、2018年は年間を通じて上下の変動幅がわずか9円88銭という狭いレンジ内の動きに終始しました。

円が変動相場制に移行した1973年以降の40年間で、円の年間の変動幅は大きい時で67円00銭(1978年)、小さい時でも9円96銭(2011年)、ならして見ると1年間で20円から30円くらい変動するのが、為替市場でのごく普段の光景です。

それが2018年にはわずか9円88銭しか動きませんでした。それに続いて翌年の2019年には7円54銭と、さらに小さな変動に押し込められました。その翌年の2020年も11円05銭、そのまた翌年の2021年も12円92銭と、この数年間は歴史的に見てもきわめて狭い変動幅で取引されていたのです。

変動相場であるはずの円の動きは、年間を通してほとんど動かない、膠着感の強い年が4年間も続いていたところ、2022年は突如として円が対米ドルで38円も変動し、1990年以降では最も大きな変動幅を記録したのです。これがマーケットで話題とならないはずがありません。

デフレから新型コロナウイルスまで。日米における近年の経済、金融環境

2国間通貨の交換レートである為替市場の変動要因は実に様々です。当該国の貿易収支や物価上昇率の差、経済成長率、金利の変動(金利差)、政府要人発言、戦争など、あらゆる要素が複数に絡まって為替市場に影響します。

この数年間の日米の経済環境、金融環境を大雑把にまとめると以下のようになります。

デフレとの闘いに明け暮れる日本は、2016年から日本銀行が民間の銀行に対してマイナス金利を導入し、空前絶後の超金融緩和策を実施しました。

一方の米国も、2008年秋に発生した世界的な経済危機(リーマン・ショック)に直面して、日本の後を追うように「量的緩和」を採用し、大幅な金融緩和策を採ってきました。

日米両国がそろって前例のない大規模な金融緩和を実施していたため、金利差が固定したような状態になり、それによって為替市場では米ドル/円相場の変動幅が異例なほど小さくなるという現象をもたらしたと見られます。

それが一変したのが2020年2月、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大です。第一次世界大戦の「スペイン風邪」以来、100年ぶりにパンデミックが宣言され、各国は人々に対して外出規制をかけるなど、世界の経済活動が全面的に停止するという信じられない状況が突如として訪れました。

人の往来が途絶え、経済活動がストップするという恐ろしい事態が発生したことで、レストランやショップの従業員や清掃に従事する人々、ホテルのフロント、ベッドメイキング係など、いわゆる「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる人々の仕事が全面的に失われました。コロナ禍での経済への打撃は、いずれの国でも社会の最も弱い層に集中するという極めてシビアな状況が現出したのです。

米国をはじめ世界の主要国は、人々に外出を自粛するよう呼びかけるとともに、社会的な弱者に向けた救済策として、直接的な現金の給付や失業給付の充実など大規模な福祉政策、財政政策を打ち出しました。

これによって一時的には救われた人々も多かったのですが、しかし結果的に生産活動が止まって希少となったモノ(財)の供給に対して、過剰なまでの注文(需要)が殺到するという形で大規模なインフレ、物価の上昇が誘発されたのです。

米ドル上昇と円下落を招いている要因とは

2022年6月10日に米国の労働省が発表した5月の米消費者物価指数(CPI)は、前年比+8.6%の上昇を記録しました。これは40年ぶりの高い水準であり、このような急激なインフレはここでも年金生活者など社会の弱い立場の人たちの暮らしを直撃するようになりました。

インフレを収束させるには、コロナ感染症から回復しつつあった経済を一旦冷やさなくてはなりません。米国はパンデミック宣言から丸2年が経過した2022年3月に、いち早く政策金利を引き上げる決断を下しました。そこから1年以上にわたって、米連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利を一貫して、急激に引き上げています。

一方の日本は、長年にわたるデフレ現象からいまだ脱出しきれてはいません。他国ほどには物価上昇が急激ではなく、今や世界の中央銀行の趨勢となった「政策金利の引き上げ競争」に対して一線を画しています。現在も銀行間のマイナス金利は続いており、市場実勢である長期金利も0.5%以下に誘導されたままの状況です。稀有な例ですがここでは超金融緩和策が継続されています。

日米間におけるこのような金融政策の格差、すなわち米国の金融引き締め政策への転換と、日本の超金融緩和の継続という組み合わせが、為替市場においては歴史的な米ドルの上昇と円の下落を招いているのです。

結果として2022年の米ドルに対する円の値動きは1年間で38円48銭にも達しました。これは1987年の38円51銭という変動幅以来、35年ぶりの大きさです。その前の4年間が歴史的にほとんど変動の小さな状況だっただけに、2022年の米ドル高・円安が一段と際立っています。それだけ円の下落に対するエネルギーが蓄積していたということなのでしょう。

円安によって起こるメリット、デメリットとは

このような思いもかけない円安は、経済の様々なところに影響を及ぼします。デメリットは輸入物価の上昇です。

1ドル=100円の時は、1万ドルの物資を輸入するのに100万円(1万ドル×100円)で済みます。しかしこれが1ドル=150円まで円安が進むと、同じものを輸入するのに150万円(1万ドル×150円)かかります。

海外から原材料や製品を輸入している企業(例:ニトリホールディングス(9843)、神戸物産(3038)など)にとって、円安はデメリットが大きくなります。

円安のメリットは、輸出産業の売上高が増加する点です。上記の例とは逆に、1万ドルの製品を輸出する場合、1ドル=100円の時の輸出金額(売上高)は100万円ですが、円安が進んで1ドル=150円になれば、ひとりでに輸出金額は150万円に増加します。輸出企業の企業業績にはてきめんにプラスの効果が現れることになります。

そこで、今回は円安メリットを享受できる「海外売上比率の高い企業」をご紹介します。

円安により企業価値が上がっている日本の注目銘柄

ヤマハ発動機(7272)

バイクの「ヤマハ」は「ホンダ」、「Kawasaki」と並び日本が世界に誇る代表的な二輪車メーカー。「パワートレイン」「車体・艇体」「制御」「生産」に関わる4つのコア技術を強みとしており、これらの技術的な優位を活かせる製品を数多く生み出してきた。今では二輪車以上にプレジャーボート、ボート用の船外エンジン、ジェットスキーが収益の屋台骨を担っている。他にも発電機、ロボット、スノーモビルなどを有している。海外売上比率は93%(前期実績)。今期も実質的に最高益更新の見込み。2023年12月期における企業側の想定為替レートは1ドル=125円、1ユーロ=135円。

【図表1】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年7月28日時点)

小松製作所(6301)

米国のキャタピラーと並ぶ建設機械の世界的メーカー。生産拠点は世界の60拠点に広がり、販売拠点も55ヶ所に散らばる。IT技術をフルに活用していることで知られ、工事のあらゆるプロセスをIT技術で繋ぎ、工事開始から終わりまでデータで進捗状況が把握できる「スマートコンストラクション」を提唱。銅や石炭鉱山など、露天掘りの掘削に携わる鉱山機械では無人運転を早くから取り入れ、世界中どこからでも稼働状況がわかる仕組みになっている。

それらは無人で運転され、自動給油も可能。世界は人口増加に沸き、都市の大規模造成や幹線道路プロジェクトが急がれます。そこでは同社の建機が活躍しており、海外売上比率は88%に達する。前期は世界経済の回復と為替の円安で最高益を更新。今期は慎重に見積もって減益の見通しではあるものの、増額修正もあり得る。企業側の想定為替レートは1ドル=125円、1ユーロ=133円。

【図表2】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年7月28日時点)

TDK(6762)

村田製作所(6981)と並ぶ電子部品の世界的大手。創業からまもなく100年を迎える。世界初という磁性材料「フェライト」を事業化するために設立された。以来、コイル、ネオジム磁石、HDD用磁気ヘッド、コンデンサ、センサー、全固体電池など、常に電子機器類の性能を高める最先端の電子部品を供給してきた。今や世界30以上の国・地域に250ヶ所以上の製造・販売拠点を有し、従業員は10万人に達する。

社員の9割以上は日本以外の拠点に在籍する文字通りのグローバル企業。自動車業界ではEV化と自動運転化が同時進行している。2025年には「レベル3」以上の自動運転システムが社会実装されると見られ、そこでは現在の単純なセンサー、部品類からより性能がアップした部品、センサー類が必要となる。高度で多彩なセンサー類の多くは同社が供給することになるだろう。今期は減収・営業増益の見通しだが増額修正もあり得る。海外売上比率は92%。企業側の想定為替レートは1ドル=130円、1ユーロ=142円。

【図表3】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年7月28日時点)

クボタ(6326)

トラクター、耕運機、田植機など農業機械の世界的メーカー。1890年の創業以来、130年にわたって農業機械を通じて食料・水・環境ビジネスに携わっている。世界中で農業に従事する人々の高齢化が大きな問題となるにつれて、農作業の負担軽減を新たな課題として真正面から取り上げている。農業機械の自動運転化で先行。食料・水・環境分野との関わりから、ダクタイル鋳鉄管(さびない上下水道管)でも大きなシェアを有する。これからの社会に必要な4つのメガトレンドとして、新たに「サーキュラーエコノミー」(循環型経済)、「カーボンニュートラル」、「限界費用ゼロ」(生産量の増加にコストがかからない社会)、「分散型社会」(中央集権型から自律分散型にシフト)を経営目標と設定。海外売上比率は78%。企業側の想定為替レートは1ドル=125円、1ユーロ=135円。

【図表4】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年7月28日時点)