日銀の金融政策是正、FRBの年内追加利上げを想定

6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で米連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利を据え置きましたが、インフレ抑制を最優先するため年内の追加利上げの可能性を示しています。

6月28日の欧州中央銀行(ECB)フォーラムでも米欧中銀が利上げ継続姿勢を示唆する一方、日本は植田日銀総裁が、インフレ率が2%に安定するまで大規模な金融緩和政策維持を表明、為替市場では金融政策格差が改めて見直されて円の独歩安状態となっています。米経済が強い労働市場と底堅い消費に支えられていることや、ここに来て住宅関連市場も上向き始めており景況感がさらに改善した様子が窺えます。

その一方、ユーロ圏では物価上昇圧力が収まらず、家計への大きな圧迫要因となっています。また、PMI指数も低下傾向にあり景況感は改善しないままです。インフレ鎮静化への道程が遠く景況感も改善しないことから、米欧ファンダメンタルズ格差は拡大傾向にあります。

一方、金融緩和策を継続する日本ですがCPIが3%台で高止まりしており、国内の景況感も悪くありません。インバウンド需要によるサービス部門の労働力のひっ迫や堅調な国内消費に鑑みれば米欧とのファンダメンタルズ格差は縮まりつつあることは明らかです。円安による輸入物価の上昇も一段と進み、インフレ圧力が強まっていること、内外価格差の拡大も加速しており、いずれこの歪みを是正せざるを得ない状況に追い込まれて行くことが予想されます。

物価の2%台定着を見届けたい日銀ですが、金融政策の歪みや内外価格の大幅乖離は既に極限にあると見られ、日銀が金融政策是正を迫られる日も遠くないでしょう。足元では日銀による年内の金融政策修正観測が遠のいていますが、日本の消費者物価指数(CPI)が3%台を割らない状態が続くと見られること、足下での海外投機筋による円の売り持ちポジションが膨らんでいること、日銀の介入実施レベルにも近いと見られることから、今、来月中にも米ドルの目先天井を確認する可能性が高いと見られます。

一方で、FRBは年内の追加利上げを想定していますが、米CPIは2023年6月の9.1%をピークに12ヶ月連続して伸びが鈍化し、直近のデータは4.0%にまで低下しています。インフレが既にピークアウトし、落ち着き始めていることは明らかで、さらなる利上げは米経済にとって悪影響を及ぼす可能性も高いと見られます。底堅い米経済を支えている労働市場や消費の動きを引き続き注視しつつ各国中銀の金融政策の変化にも注意する必要があります。

チャートから見た主要通貨の行方

1.米ドル/円相場:短期、中期ともに“米ドル強気”。142円割れの越週で下値リスクが点灯

週足を見ると、2022年10月に付けた151.95円と3月の戻り高値137.91円を結ぶトレンドラインAを上抜けた位置で越週しており、短期トレンドは“米ドル強気”の流れに変わりありません。

短期的には5月に付けた133.75円を基点とする短期的なサポートラインBが141.90~00円に位置しており、これを割り込んで越週した場合は下値リスクが点灯します。しかし、この場合でもサポートラインC、Dが強い下値抵抗として働く可能性が高く、米ドルの急落地合いにも繋がり難い状態です。このCは138.60~70円に、Dは133.30~40円に位置しています。可能性がまだ低いと見ますが、133円台を割り込んで越週した場合は中期トレンドが変化して125円方向への円高、米ドル安の流れに入ります。

週足ベースで見た上値抵抗は145.00~10円、146.80~90円、147.50~60円に、下値抵抗は143.00~10円、141.90~00円、140.00~10円、138.60~70円にあります。全て下抜けて越週した場合は134~135円方向への新たな下落リスクが生じます。31週移動平均線、62週移動平均線は135.00円と136.37円に位置しており、短・中期トレンドをサポート中です。

【図表1】米ドル/円(週足)
出所:Bloombergのデータをもとに株式会社ワカバヤシ エフエックス アソシエイツのチャートソフトにて作成

2.ユーロ/円相場:短期、中期共に“ユーロ強気”。156円割れで調整下げの動きが強まるが、下値も限定的か。160円超えの越週で一段高へ

ユーロ圏のインフレが高止まり傾向にある中、ECBは利上げ継続姿勢を表明しています。6月の消費者物価指数(HICP)は前年同月比5.5%と市場予想を若干下回り、米国ほどではありませんが、緩やかな低下傾向を示しています。

景況感はさらなる悪化の兆候が見られますが底割れには至っておらず、強い労働市場がユーロ圏経済の支えとなっています。為替相場も対米ドルでは1.08~1.09円台の狭いレンジ内で推移していますが、対円では金融政策格差に着目したユーロ買いにユーロ高/円安の流れが継続中です。

週足を見ると2022年10月に付けた148.40円を基点として上値を切り下げて来たレジスタンスラインAを上抜けて新たな上昇トレンドに入っており、短・中期共に非常に強い状態にあります。短期的には3月に付けた138.83円を直近安値として下値を切り上げて来たサポートラインBが短期トレンドを支えており、また、3手前の6月第4週の大陽線が新たな上昇トレンド入りした状態にあります。このサポートラインBは151.60~70円に位置しています。

短期的には156円台を維持出来ずに終えた場合は、調整的な押しが入る可能性が点灯しますが、この場合でも新たな上昇トレンド入りして3週間しか経過していないことや、中期トレンドが強い状態を保っていることから、押しが浅いものに留まる可能性が高いと見られます。

ただし、可能性はまだ低いと見ますが、サポートラインBを下抜けて越週した場合は、短期トレンドが“弱気”に変化して下値余地がさらに拡がり易くなります。この場合でも中期トレンドがまだ強く、144~145円台が強い下値抵抗として働くと見られます。また、158円台に乗せて越週した場合は上値トライの流れが継続し、一段の上昇に繋がり易くなります。

週足ベースで見た上値抵抗は158.00~10円、159.60~70円、162.30~40円、164.00~10円に、下値抵抗は156.70~80円、156.00~10円154.50~60円、151.60~70円にあります。31週移動平均線、62週移動平均線は145.42円と142.95円に位置しており、中期トレンドをサポートしています。

【図表2】ユーロ/円(週
出所:Bloombergのデータをもとに株式会社ワカバヤシ エフエックス アソシエイツのチャートソフトにて作成

3.豪ドル/円相場:短期は“豪ドルやや強気”。85円割れの越週で下値リスクが点灯

6月28日に発表された豪5月CPIは前年比5.6%と、前月の6.8%から低下し1年1ヶ月振りの低水準となりました。豪州準備銀行は6月に政策金利を0.25%引き上げましたが、インフレの鎮静化が確認されたことで次回以降の利上げ観測が急速に後退しています。

豪ドルは対米ドル、対円で下落しましたが、経済自体は底堅さを維持しており対米ドルでも0.6600ドル近辺にある強い下値抵抗を守っています。対円でも反落し、上値を切り下げていますが、日豪金利差を意識した豪ドル買いが下値を支えています。

週足を見ると、3月に付けた86.06円を基点として下値を切り上げる流れを維持しており、上値トライの動きが進行中です。6月28日のCPI発表を受けて急落したものの、95円台の下値抵抗を守っており、調整下げの範囲内に留まっています。

一方で、2020年3月に付けた59.91円を基点とする中・長期的なサポートラインCが95.30~40円に位置しており、95円台を割り込んで終えた場合は下値リスクがやや高くなり、サポートラインAを試す展開が強まり易くなります。このサポートラインAは91.80~90円にあります。これを下抜けた場合は新たな下落が生じてトレンドラインBが位置する88~89円台の下値抵抗の強さを確認する動きが強まり易くなります。

週足の上値抵抗は97.50~60円、98.50~60円に、下値抵抗は95.30~40円、91.80~90円にあります。31週移動平均線、62週移動平均線は91.15円と92.35円に位置しており、中期トレンドをサポート中です。

【図表3】豪ドル/円(週足)    
出所:Bloombergのデータをもとに株式会社ワカバヤシ エフエックス アソシエイツのチャートソフトにて作成

4.英ポンド/円相場:短・中期ともに“英ポンド強気”。180円割れで終えた場合は短期トレンドが変化。176円割れの越週で一段の下落リスクが点灯

英中銀は6月、政策金利を0.5%引き上げ5.0%としました。前日に発表された5月のCPIが前年比8.7%とインフレ鎮静化の兆しが見えない状況にあり、英中銀はインフレ鎮静化に向けて利上げを継続する姿勢を強めています。

一方、物価上昇と住宅ローン金利の上昇は家計を圧迫し、英国経済の足を引っ張っており経済成長は底這い状態から抜け出せない状態です。ファンダメンタルズ面での弱さを反映して、対米ドルでは1.28台から上値をやや切り下げる流れに入っていますが、対円では日英金融政策格差を映してポンドの上昇トレンドが継続中です。190円台も視野に入って来た英ポンド/円ですが、対米ドルでは上値が重い展開となっていること、米ドル/円が介入警戒レベルに近づいていると見られることから、英ポンド/円の調整下げの動きにも注意が必要でしょう。

週足を見ると2023年3月に付けた158.27円を基点として下値を切り上げる流れが継続中です。このサポートラインAは176.00~10円にあります。また、3手前の大陽線が新たな上昇トレンド入りしており、短期トレンドは非常に強い状態を維持しています。直近の2手の陽線が上昇エネルギーの強いものではないため、調整下げの動きに転じてもおかしくありませんが、新たな上昇トレンド入りして日が浅いこと、中期トレンドが強い状態にあることから、反落した場合でも深い押しにも繋がり難いと見られます。

短期トレンドは180円を割り込んで越週した場合は調整下げ局面入りの可能性が生じます。この場合はトレンドラインAの下限をトライする動きが強まり易くなります。また、175円台を維持できずに越週した場合は中・長期的なサポートラインBをトライする動きが強まり易くなります。サポートラインBは170.00~10円にあります。Bを下抜けた場合でも超長期的なサポートラインCが161円台に位置しており、これを割り込むほどの下落に繋がり難いと見られます。

週足ベースで見た上値抵抗は、184.10~20円、186.30~40円、188.80~90円に、下値抵抗は180.00~10円、176.00~10円、172.80~90円にあります。31週移動平均線、62週移動平均線は166.33円と164.90円に位置しており、中期トレンドをサポートしています。

【図表4】英ポンド/円(週足)    
出所:Bloombergのデータをもとに株式会社ワカバヤシ エフエックス アソシエイツのチャートソフトにて作成