先週の動き:ニューヨーク金先物価格(NY金)、6月利上げ見送り観測の急激な後退で下げ幅拡大。一方、国内金価格は円安で上昇
先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は3週連続の下げとなった。週を通して、米連邦準備制度理事会(FRB)高官から利上げ継続に前向きな発言が相次いだことで、米長期金利とともに米ドルも主要通貨に対し強含みに推移し、ドル指数(DXY)、米10年債利回りともに3月中旬以降の水準まで上昇。NYコメックスでは週を通して、売りが先行する流れが続いた。週後半には終値ベースで心理的節目の1,950ドル割れに至った。
5月18日、ワシントンでのイベントに登壇したパウエルFRB議長が、6月の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ休止の意向を示したことで、前週末5月19日に2,000ドル最接近の動きを見せていたNY金。
しかし、先週は週初から一転して、複数のFRB高官によるタカ派発言で週末に向け水準を切り下げながら相場は進行した。浮上したのは、6月の会合にて利上げを見送ったとしても、それは利上げサイクルの終了を意味しないというもの。
5月の(声明文の変更までした)FOMCを受け、利上げ打ち止めを織り込んでいた金市場には、追い風が向かい風に変わったことを思わせる週となった。米国内ではサービス価格のインフレの高止まりから、FRB内でも「しつこいインフレ」論議が盛んで、利上げ打ち止め見通しを示しにくくなっている。
5月29日のメモリアルデー(戦没者追悼の日)に伴う3連休を控え、ファンドのポジション調整的な買いが見られたものの、週末5月26日のNYコメックスの通常取引(清算値)は1,944.30ドルで終了した。週間ベースでは37.30ドル、1.88%安となる。
先週のコラムでは1,970~2,030ドルと2,000ドルを挟んだレンジを想定した。パウエルFRB議長の発言による利上げ休止意向を読んでのものだったが、予想以上にFRB内部の意見割れが大きく、結果的にレンジは1,936.00~1,987.90ドルと40ドルほど下振れることになった。
一方、国内金価格は為替要因による上値追いの局面も見られ、NY金の下げに逆行する形で高値圏を維持した。国内金価格の週足は23円、0.26%の上昇となった。米ドル/円相場が週初の138円台半ばから週末には140円台半ばに2円ほど円安が進んだことが、NY金の下げを相殺する形となった。
レンジは8,690~8,819円で終値ベースでは、ほぼ8750円に収れんする値動きとなった。先週のコラムで8,700~8,850円とした想定レンジに沿ったものとなった。
「利上げ見送りでも終了にあらず」意見が割れるFRB
FRB内部の利上げ見通しについて意見の割れがあることは、当コラムでもこれまでに解説してきたが、先週は5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨が公開され、市場は再認識することになった。
議事要旨からうかがえるのは、ここまで強めの利上げを続けてきたにも関わらず、いまだ政策抑制的な水準になっていないのでは、と疑問を唱えるメンバーが増えているようだ。
一方で、利上げの影響が一般経済に表れるには相応のラグがあり、現時点では様子を見る(データを注視)必要性を訴えるメンバーも多い。この点でFRB内部でも利上げ継続か停止かを巡り見方は分かれている。
また、経済見通しを左右するリスク要因の存在も判断の別れに繋がっている。ほとんどのメンバーが相次ぐ銀行破綻で融資など与信環境が厳しくなっていることを踏まえ、経済成長には下押しのリスクが高まっていると指摘した。同時にすべての参加者が物価上昇率について「受け入れがたいほど高い」との見方を表明している。
5月のFOMC後に発表された一連の経済データが予想より堅調なものが多かったことから、これまでの政策効果を見極める上で利上げは見送りという見方は残るものの、それが利上げサイクルの終了を意味しないことを示す必要性があると考えるメンバーが増えているようだ。
個別で注目するべきと思ったのは、5月23日のメディアインタビューでのミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁の発言だった。同総裁は6月の次回会合で追加利上げか見送りかの自身の判断は、「五分五分」とした。その上で「6月に利上げを見送るとしても、引き締めサイクルが終了したとの意味ではない」と明言した。見送りは利上げサイクルの終了を意味せず、さらなる情報入手に努めているという意味であって、「7月に利上げを再開する可能性もある」とした。
この発言で私が思ったのは、5月12日にミシガン大学が発表した消費者調査(速報値)で、一般の5年先のインフレ期待が3.2%と4月の3.0%から上昇し、2011年以来の高水準になっていたことだ。一般の期待インフレ率が上がることは、高インフレを恒常的なものにするとの警戒感があるとみられる。カシュカリ発言は、その部分に当局は留意すべしということだろう。
同総裁は具体的には高水準の政策金利をより長期にわたって維持する必要を唱えている。ただし、この政策はいまだ燻る銀行セクターの経営不安にはストレスとなるものだ。ちなみにカシュカリ総裁は、2023年のFOMCで投票権を持っている。なお、ミシガン大学による個人の期待インフレ率は5月26日に確報値が出たが、5年先のインフレ期待が3.1%に下方修正されたが、それでも4月からは上昇している。
6月のFOMCを含め、当面のNY金を見る上で、「利上げ見送りでも終了にあらず」という点は頭に入れておくべきだと思う。終了が見通せないと本格的な再騰もまた見通せない。
今週の見通し:米連邦債務上限問題の議会審議、5月米雇用統計、ベージュブックに注目。想定レンジはNY金が1,910~1,960ドル、国内金価格が8,680~8,820円
懸案の米連邦債務上限問題で、イエレン財務長官は特別資金繰り措置が6月5日までに尽きるとし、いわゆるXデーが従来の1日から若干先送りされた。週末も協議は継続され、5月27日夕刻にはバイデン米大統領と共和党マッカーシー下院議長の間で合意が成立したと伝えられた。
現地にて5月28日に明らかになったところでは、債務の法定上限は2025年1月1日まで効力を停止することになった。その一方で、2024会計年度(2023年10月〜2024年9月)について国防費を除いた「裁量的支出」の金額を2023年度とほぼ同じ水準にし、2025年度に1%の増加を認めるとしている。
これは言うまでもなく妥協した上でのもので、合意内容には両サイドともに党内に反対意見も多いとみられ、5月31日までに採択意向とされるものの、議会審議には不透明感が漂う。米国議会の議員には党議拘束はなく、個人判断が優先されるゆえに過去にも番狂わせが起きてきた経緯がある。予断を持たず注目したい。
6月のFOMCが迫る中で、今週は重要指標の発表が続く。データ次第で会合ごとに金融政策を決定していく方針を示しているFRBだけに、まずは6月2日に発表される5月雇用統計に注目したい。雇用の強さがFRBの強気の引き締めの源泉と言える。この点で、5月31日の雇用動態調査の求人件数(JOLTS)にも注目したい。
同じ日には地区連銀経済報告(ベージュブック)が発表されるが、これは6月のFOMCの基礎資料となるもの。前回は地区により銀行融資の減少など、貸し渋りの実態も指摘されており、この点に注目したい。
基本的にNY金の1,950ドル割れは押し目買いゾーンと捉えている。1,900ドル接近局面では、円安効果はあれ国内金価格も下押すと思われる。想定レンジはNY金を1,910~1,960ドル、国内金価格を8,680~8,820円に置いている。