先週の動き:鈍化を示した4月のCPIとPPI、ニューヨーク金先物価格(NY金)の上値は限定的なものに。NY金の上昇モメンタムに一巡感
先週の金市場は前週までに見られた上値追いの価格転換が一巡したことを印象付ける展開となった。5月12日のニューヨーク金先物価格(NY金)は、2,019.80ドルで終了した。週間ベースでは前週末5ドル、0.8%安と反落となった。
前週に米連邦公開市場委員会(FOMC)が終了し、10会合連続となる利上げが決められ、利上げ幅は予想通り0.25%となった。政策金利は5.00~5.25%と3月FOMC時でのメンバー予測の中央値5.10%を超えることになった。声明文およびパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の記者会見では、次回6月会合での利上げ打ち止めの可能性も示唆された。
この結果を受けた先週の注目点は、6月会合に向けインフレ動向を検証する点で5月10日の4月米消費者物価指数(CPI)、5月11日の米生産者物価指数(PPI)が注目された。
これら2つの指標、特に4月CPIに関しては、前週末5月5日に発表された4月の米雇用統計が非農業部門の雇用者数(NFP)の増加や失業率、さらに時間当たり平均賃金の伸び率などが軒並み市場予想を上振れたことから、インフレ圧力の高止まりが警戒されていた。
結果はCPIが前年比の伸び率が4.9%と2年ぶりに5%を下回り、2021年4月以降で最小となった。懸念したほどの強さはなく、一方でFRBの利上げ停止は見込めるものの、市場が前のめりに織り込みにかかっている利下げの手掛かりになるものはなかった。
市場の一部では早ければ年央にも利下げとの観測が見られるものの、いくつかの要因が重なった上で景気後退や失業率の上昇が見通せる状況に至った場合に浮上というもので、FRB関係者も繰り返し指摘しているように、現状では年内の利下げの可能性は小さいと思われる。
ただし、一方で変動の大きい食品とエネルギーを除いたコア指数(コアCPI)の前年比上昇率は5.5%と前月の5.6%からは低下しているものの、総合指数に比べ比較的高止まりしていることから、インフレの根強さへの警戒は解けていない。
5月11日のPPIに関しても前年同月比2.3%上昇と伸びは3月の2.7%から鈍化し2021年1月以来最少となった。インフレ圧力が軽減していることが改めて示された。
このような結果から、NY金は5月10日のCPI発表を受けて同日に2,056ドルまで買われたものの、それ以上の上値追いの強さは見られず、PPIの結果を受けても上値は限定的で、むしろ週末にかけて下値を切り下げる展開となった。
前週のFOMCから4月米雇用統計、さらに5月10日の4月消費者物価指数(CPI)に5月11日のPPIと、一連の注目イベント、指標の発表を通過した以降の価格展開は、5月初めにかけての買い優勢の流れがひと段落した印象が強いものとなった。
このような中、NY金は週足小幅に反落となったが、心理的な節目の2,000ドル大台は維持した状況にある。先週のコラムでは2,015~2,060ドルのレンジを想定したが、実際には2,005.70~2,056ドルとなり、ややレンジ下限は予想から下振れたものの、終値(2,019.80ドル)から見ても想定内と言える。
一方、国内金価格は、この間の米ドル/円相場の動きが米ドル高に振れたことで最高値更新から、週後半はやや水準を切り下げた。
週初に8,870円の過去最値を更新したが、実際には連休中の時間外取引にて記録したものとなる。週末にはNY金の下げに伴い8,600円台に水準を切り下げることになった。先週のコラムでは想定レンジを8,600~8,850円に置いていたが、実際には8,657~8,870円で想定に沿ったものとなった。
6月FOMC利上げ継続観測にFRB内では温度差
前述したように5月のFOMCでは、6月にも利上げが打ち止めとなる見方が浮上した。声明文の表記の変更に加えパウエルFRB議長もそれを示唆する発言をしたことによる。
また、地域銀行に根強い経営不安から融資方針(与信管理)の厳格化が考えられ、それ自体が引き締め効果に繋がることから、FRB高官の中には利上げを代替するものとの発言も見られている。
先週のFRB高官の発言で目についたものを挙げると、いずれも週末5月12日のものだった。
まず5月12日NY時間外の欧州時間に伝えられたドイツでのボウマンFRB理事の講演がある。「直近の消費者物価指数(CPI)や雇用統計は、インフレが減速基調にあることの継続的な根拠を示していない」と述べたと伝わった。必要なら追加の引き締めが適切になるとの認識も示した。
「我々の政策スタンスは今や制約的だが、インフレを押し下げるのに十分制約的かは依然として不確かだ」として6月の会合には予断を持たずデータを注視するとした。この発言は利上げ継続の可能性を示唆したものと金市場では受け止められ、NY金は5月12日NY時間外の早朝の時間帯に、週間ベースでの最安値でもあるこの日の安値2,005.70ドルまで売られることになった。
一方で同じ5月12日、米東部時間で株式市場はじめ週末の取引を終了した後の時間帯にカリフォルニア州でのパネルに登壇したジェファーソンFRB理事の発言も目についた。
2023年のインフレ動向は「まちまち」として、政策が経済に浸透するには時間を要するとの見解を示した。「我々の急速な引き締めの十分な効果は依然としてこれから表れる公算が大きい」として政策は「順調に進展している」として、すでに政策金利の水準は抑制的な域に達しているとの見方を示した。
また、同じイベントに参加したセントルイス地区連銀のブラード総裁は、FRBが利上げを終了する局面に近づいている可能性を示唆した。タカ派で知られる同総裁だが、「金融政策は現在、恐らく十分に景気抑制的な水準の下端にある」との見解を示した。
ボウマンFRB理事と比較し、両者の発言内容はハト派的と言えるものだ。特にジェファーソンFRB理事とボウマンFRB理事の発言内容は、FRB執行部内にてスタンスに温度差があることを思わせるものと言える。
ただし、これら3者ともに、市場で織り込みが進んでいる年内の利上げ見通しには否定的と思われる。
今週の見通し:パウエルFRB議長とバーナンキ元FRB議長などの発言及び連邦債務上限問題の進展具合に注目。想定レンジはNY金が2,005~2,045ドル、国内金価格が8,600~8,900円で高値更新も視野
今週は先週以上にFRB高官による講演やメディアインタビューなど発言機会が予定されている。6月の利上げ見通しに市場の関心が向けられる中で、FRB内部の温度差も感じられることから注目したい。
特に週末5月19日にはパウエルFRB議長とバーナンキ元FRB議長がともにパネル討論に参加する予定があり興味深い。同じ5月19日はFOMC副議長でもあるウィリアムズNY地区連銀総裁の講演も予定されている。
他に米国の債務上限問題の行方や5月16日の4月小売売上高や週後半の住宅関連指標も注目される。6月1日にも連邦債務が上限に達するとイエレン米財務長官が警告する中、バイデン米大統領はG7サミット出席のため訪日する予定となっている。スタッフによる下交渉が進んでいるとされるが、時間の経過とともに警戒感は高まりそうだ。
このような中で上値追いの勢いに一巡感を感じさせるNY金の現状を考え、想定レンジは2,000ドル台前半での動きを読み2,005~2,045ドル、一方で国内金価格は米ドル/円の値動きの影響から依然過去最高値圏での動きを想定している。想定レンジとして8,600~8.900円の高値更新も視野に入れている。