先週の動き:FOMCの結果を受け、ニューヨーク金先物価格(NY金)は一時過去最高値に接近、国内金価格は最高値更新が続く
先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、一時2020年8月に記録していた過去最高値に接近したものの上抜けは出来ず、週末には利益確定の売りが増加し、上げ幅を削る形で終了した。週末5月5日の通常取引(清算値)は2,024.80ドルとなった。
この日発表された予想を上回る米雇用統計の内容を受けて、米景気に対する過剰の警戒感は後退し、一部で利上げ継続観測まで浮上したことが売り要因となった。その一方、週間ベースでは、米連邦債務上限問題や銀行不安を背景とした米長期金利の低下や米ドル安が追い風となり、25.70ドル、1.29%高となった。2週続伸ということになる。
米連邦準備制度理事会(FRB)が5月3日まで開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)にて、予想通り0.25%の利上げを決定。10会合連続の利上げの結果、政策金利は5.00~5.25%となった。
この水準はリーマンショックに代表される国際金融危機が発生する前、2007年以来の高水準となる。FRBの中には、なお水準が景気抑制的ではない可能性に言及する高官も存在するが、歴史的な引き締め策と言える内容となっている。
FOMC声明文では、「追加の政策措置が適切」としていた前回会合時の表現を修正し、新たに「追加策がどの程度必要か決定する際には、これまでの金融引き締めの累積的な効果や経済や物価に時間差で与える影響を考慮する」とした。記者会見でパウエルFRB議長は、「これは意味のある修正であり、6月の会合で利上げ停止をするかどうかの議論をするつもりだ」と言明した。
今後の利上げ打ち止めを示唆したことを受け、翌5月4日のNY金はNY時間外のアジア時間の取引の薄い時間帯にファンドが空売りの買戻し(ショートカバー)とみられる買いを入れたことから値が飛ぶことになった。
一時2,085.40ドルと2020年8月7日に記録した2,089.20ドルの過去最高値に急接近(3.80ドル差)するところまで買われた。しかし、買いが一巡すると反落状態となり、5月4日のNY早朝の時間帯には2,038.50ドルの安値を見る荒れた展開となった。その後はやや買い優勢に転じ、終値は2,055.70ドルに落ち着いた。この終値自体が2020年8月6日の2,069.40ドルに次ぐ過去2番目に高い水準となる。
結局、先週のNY金は水準を切り上げ取引時間中の高値、終値ともに2020年の過去最高値に接近したが更新できずに終わることになった。先週のコラムでは想定レンジを1,985~2,040ドルとしていたが、実際には1,985.70~2,085.40ドルとなった。大きく上振れしたものの、2,070ドル超では取引は少なかったとみられる。
一方、先週に日銀の金融政策決定会合が政策変更なしとなった円安傾向から、国内金価格には押し上げ圧力が高まっていたが、そこにNY金の上昇が加わり最高値更新が続いた。
5月2日には国内金価格は8,801円の最高値をつけた。なお、国内金価格については夜間取引扱いとなるが5月4日には一時8,870円まで買われている。先週のコラムで想定レンジは最高値更新を読んで8,550~8,800円としたが、8,608~8,801円となった。
米経済の好調を反映する4月米雇用統計
注目の4月米雇用統計は、景気動向を反映する非農業部門の雇用者数(NFP)が前月比25万3,000人増と、市場予想(18万人増、ロイター)を大幅に上回った。失業率は3.4%と前月(3.5%)から低下した。米銀破綻の影響により米景気が冷え込むとの過度な警戒が薄れ、投資家がリスク回避姿勢を緩め、金市場では売りが膨らんだ。
5月3日のFOMC後の記者会見にて、パウエルFRB議長が6月の次回会合での利上げ継続について否定せず、(状況次第では)追加利上げも選択肢に残したと受け止められていたことが伏線になり、堅調維持する雇用統計への金市場の反応(売り拡大し一時2,007ドルの安値)が大きくなった。
雇用統計では、4月の時間当たり平均賃金は前月比0.5%上昇、3月(0.3%上昇)から伸びが加速していた。前年比では4.4%上昇、3月は4.3%上昇だった。賃金の伸びは続いており、FRBが2%としているインフレ目標に合致していないとみられ、これらのデータは確かに追加利上げを正当化するものと言える。
ただし、雇用統計は遅行性のあるデータということがポイントだ。銀行経営不安による景気への影響やここまでの利上げ効果の波及が、これから労働市場に反映される可能性がある。
そう言いながらも半年以上経過しているのも事実で、2月には一時ソフトランディング(経済の軟着陸)ならぬ一定の好景気が続く「ノーランディング(飛び続ける)」観測まで浮上した経緯がある。
中国など、2023年に入って以降も継続している中央銀行の大量買い
5月5日に金の国際的な調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(略称WGC)が2023年1~3月期の需給統計を発表した。
まず、2022年は年間ベースで空前の1,136トンの買いが報告され話題を呼んだが、今回のデータで2022年の数字は1,078トンに下方修正された。2022年10~12月期の数字が速報値の417トンから379トンに修正されたことが大きい。それでも単年で1,078トンは記録的な購入に違いはない。
今回改めて2022年の月次ベースでの購入推移を見てみたが、やはりウクライナ侵攻後の対ロシア制裁発動により、同国が国際金融システムから遮断されたことが、外貨準備に占める金の比率見直しに繋がり、買いを加速させているとみられる。
なお、1~3月期の数字だが、228トンと高水準の買いが続いていることが判明した。元より、2022年の1,000トン超はややイレギュラーと言え、2023年は同程度のものは期待できない。しかし、第一四半期228トンは一定の買いのモメンタムが続いていることを思わせる内容と言える。「年率換算」という捉え方には、馴染まない類のデータと言える。
大口ではシンガポール(シンガポール通貨庁)が69トン購入したのをはじめ、中国の買いが58トンと目立っている。中国に関しては5月7日に人民銀行が発表したところでは、4月にも8トン買いが増加したとしている。これで中国人民銀行の金保有量は2,076トンになったとみられる。
今週の見通し:米連邦債務上限問題の行方の他、米CPIやPPIの動きに注目。NY金は2,015~2,060ドル、国内金価格は8,600~8,850円を想定
先週はFOMCの結果を受け前述のように一時2,080ドル台まで上振れが見られ、週末に一時2,007ドルまで押し戻される荒い展開となったが、今週は基本的には2,050ドル前後を固める流れを想定している。
米国関連の指標では5月10日に発表される4月の米消費者物価指数(CPI)および5月11日の米生産者物価指数(PPI)が注目される。特にCPIは総合指数が鈍化しているものの、エネルギーと食品を除いたコア指数の高止まりの有無および程度が注目される。
さらに経済指標以外で米連邦債務上限問題が、4月の税収見込みが予想に届かなかったとみられ、米国が債務不履行(デフォルト)に至る期限が一気に接近しているとみられることから、材料性を急速に帯びることになりそうだ。6月1日が期限との見方もあり、米与野党の駆け引きに注目が集まることになる。この問題はNY金のサポート要因と言える。
今週の想定レンジとして、NY金は2,015~2,060ドル、国内金価格は8,600~8,850円を見込んでいる。