金融緩和策とその影響について多角的にレビューを実施

日本銀行は4月28日新体制のもと政策委員会・金融政策決定会合を実施し、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」と呼ばれる現在の金融政策運営を維持しました。

フォワードガイダンスと呼ばれる将来の金融政策の方針については、今回「新型コロナウイルス感染症の影響を注視」周りの文章が省かれましたが、緩和姿勢の大枠に変更なく、「必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる」とこれまでのスタンス維持が表明されました。

なお、1990年代後半以降25年にわたり物価安定の実現が課題となる中で、実施された様々な金融緩和策とその影響など運営について今後1年から1年半程度の時間をかけて多角的にレビューを行うことが示されました。

経済・物価情勢の展望、成長見通しは1%台前半と緩やかな回復に留まる

今回は年4回示される「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)も公表されました。新体制が日本経済や物価の見通しを示し、今後の金融政策運営に対する考え方もまとめられており、金融政策正常化へのタイミングを占うことから注目されます。

成長見通しは1%台前半と緩やかな回復に留まっており、物価の見通しも2025年に2%は見通されないことが示されるとともに、特に2025年については下振れリスクが大きいとされました。また前回見通しと比べると成長は個人消費を中心に下振れる一方、物価は賃金の上振れから幾分上方修正されています。経済と物価で修正の方向がちぐはぐであり、未だ持続的な経済・物価展望が描きづらいことを物語っているようです。

【図表】
出所:日本銀行資料よりマネックス証券作成

市場の反応は発表直後に金利低下・円安となり、株式は当初小動きながら引けにかけて上昇しています。ただし金利に反応しやすい銀行株の動きは軟調でした。新体制として金融政策正常化に繋がりうる何らかの修正思惑で金利上昇を予想した向きには、見方の修正を迫られる結果となりました。

新体制はコミュニケーションを重視し、オープンな政策運営

これまで植田新総裁は金融緩和を継続する旨を表明しており、またこれまでの政策のレビューの可能性についても言及していました。午前中には同様の観測報道も出ており、今回の結果はそれらに沿ったものです。この点は黒田前総裁時に頻繁にみられたサプライズ的な政策運営や、直前報道と異なる結果となったこともあるなどの状況から変化しています。

新体制はコミュニケーションを重視とされる中で、マーケットに配慮する運営がなされ始めたとすれば、短期的な市場の思惑・急変動を排除し、中期的に市場の適正な価格形成を促す点で前向きに捉えられます。その後の会見においても内部での議論の紹介がされたり、レビューを通じて外部との連携も検討されるなどオープンな政策運営の印象を受けました。

緩和姿勢が強調され、株式等リスク資産にはポジティブ

物価については持続的な上昇には不確実性が高く、拙速な引き締めで物価目標が達成されないリスクを重視する中で、総裁は今後の粘り強い緩和姿勢を示唆しました。総裁任期の5年のうち1-1.5年をこれまでの政策に対するレビューとして時間を確保し、やがて出口を模索するという時間軸は、見通しでも示されたように持続的な経済・物価安定に時間を要する点とも整合的に感じられます。

政策修正に対する思惑で相場が変動することは今後減っていくでしょうし、サプライズの無い運営が期待されます。環境の変化をにらみながらレビューの進捗と共に政策変化が織り込まれるのではないでしょうか。

当面は経済を支える緩和姿勢が強調されたことは株式等リスク資産にはポジティブです。ただし、現在の潜在成長率は0.3%に留まっており、持続的な株高には金融緩和下での成長の実現も必要であることは引き続き注目です。