銀行破綻による金融システム不安は緩和しつつも、潜在的リスクが進行する可能性も。米ドルの上値余地は135~136円を想定

米国の中堅地銀2行の経営破綻に端を発した金融システム不安は欧州にも飛び火し、スイス金融大手クレディ・スイスの買収劇やドイツの大手銀行の経営悪化説も噂され、金融市場に混乱を招きました。

しかし米欧金融当局の素早い対応により、金融市場の混乱はひとまず落ち着きを取り戻したかに見えます。バー米連邦準備制度理事会(FRB)副議長も監督不行き届きを認めており、今後米国内の中小銀行に対する規制強化を早急に進めるものと見られ、雪崩的な金融機関の破綻は免れるでしょう。

とはいえ、今回の騒ぎはFRBの遅すぎたインフレ対応と急ぎ過ぎた利上げに起因していると考えられます。

FRBは責務である「雇用の最大化と物価の安定」に心血を注ぎ、特に物価についてはインフレ圧力を抑えるために金融引き締めを強力に推し進めてきました。しかし、利上げ開始はインフレがピークを迎える僅か3ヶ月前の2022年3月、しかも米消費者物価指数(CPI)が9.1%でピークアウトした6月からは0.75%の利上げを4会合連続で実施しており、インフレへの対応が遅すぎた結果、利上げを急がざるを得ない状況に追い込まれたと考えられます。

パウエルFRB議長は3月の議会証言で、データ次第としながらも「必要とあれば利上げペースを加速させる用意」「政策金利を想定より高い水準まで引き上げる可能性」を示唆しています。

FRBにとって今回の地銀の破綻騒ぎは虚を突かれたもので予期せぬ事でした。インフレ抑制VS金融不安の解消との狭間でFRBによる継続的な利上げも難しくなってきたと見られます。

また中小銀行への規制強化に時間を要すると見られ、新たな信用不安に繋がる可能性や、今後スタートアップ企業や中小企業の資金調達も難しくなる可能性があり、マネーの収縮が一段と進んで景気後退リスクが高まることも予想されます。

経済が堅調さを保っており、足元での金融システム不安の緩和で円の売り戻しの動きが急となっていますが、潜在的な金融不安リスクが水面下で進行する可能性も高く、米ドルの上値余地もせいぜい135~136円に留まると予想しています。

チャートから見た主要通貨の行方

1.米ドル/円相場:短期は底打ち、反転の動き。中期は米ドル安/円高

週足を見ると、2022年10月に付けた151.95円を基点とするレジスタンスラインAを上抜けて反転、上昇の流れに入りましたが、その戻りも3月8日に付けた137.91円で一旦終了しています。

この137.91円の戻り高値と2022年10月の151.95円とを結ぶレジスタンスラインBの上値抵抗は135.50~60円に位置しており、これをしっかり上抜けて越週しない限り、上値余地も拡がり難く、下値リスクを残した状態です。

その一方、下値も短期的には3月24日に付けた直近安値129.64円で一旦底打ち、反転の流れに入っており、この129.64円と1月に付けた直近安値127.23円を結ぶサポートラインCが130.00~10円に位置していることから、これを下抜けて越週しない限り130.00~135.50円のレンジ内に留まる可能性も高い状態です。

130円を割り込んで越週した場合は新たな下落トレンド入りの可能性が高くなり、125円方向へと一段の米ドル下落へ。逆に136円台に乗せて越週した場合は、一段の米ドル上昇に繋がり易くなりますが、この場合でも138.00円超えに中期的な上値抵抗が控えていることや、月足の上値抵抗が139.50~140.00円にあり、これらが大きな壁となりそうです。

週足の上値抵抗は134.20~30円、135.10~20円、135.50~60円に、下値抵抗は132.00~10円、131.60~70円、131.00円±10銭、130.00~10円にあります。31週移動平均線は137.36円に位置しており、上値を抑え込んだ状態ですが、62週移動平均線は132.45円にあり、短期的な下値抵抗をとして働く可能性があります。

【図表1】米ドル/円(週足)
出所:Bloombergのデータをもとに株式会社ワカバヤシ エフエックス アソシエイツのチャートソフトにて作成

2.ユーロ/円相場:短期はユーロ高/円安。中期は下値リスクを残した状態。145円台で越週すれば一段の上昇へ。140円割れで越週した場合は下落幅拡大の可能性に注意

ユーロ圏のインフレが高止まりする中、欧州中央銀行(ECB)は金融引き締め策を維持する姿勢を崩していません。また、雇用市場の堅調さを背景にユーロ圏経済も底堅さが認められており、景況感や円との金利差拡大傾向がユーロ買いの支援材料となっています。

直近の週足を見ると、値幅の大きい陽線で切り返して上値トライの可能性に繋げています。140円台の下値抵抗を守り切って反転、上昇に転じていますが、2022年10月に付けた148.40円を基点として上値を切り下げて来たレジスタンスラインAを上抜けきれずに押し戻されており、下値リスクを残した状態です。

この週足の上値抵抗は145.00~10円に位置しており、これを終値ベースでしっかり上抜けて越週するか、日足が145.50円超えで終えれば新たな上昇トレンド入りの可能性が高くなります。

逆に、143.10~20円の抵抗を下抜けて越週した場合は下値リスクが点灯、140円を割り込んで越週した場合は、新たな下落リスクが生じて、135円方向への一段の下落に繋がり易くなります。

週足ベースで見た上値抵抗は145.00~10円、145.50~60円、147.00~10円に、下値抵抗は143.10~20円、141.20~30円、140.00~10円にあります。31週移動平均線、62週移動平均線は142.58円と139.15円に位置しており、短・中期トレンドをサポート中です。

【図表2】ユーロ/円(週足)    
出所:Bloombergのデータをもとに株式会社ワカバヤシ エフエックス アソシエイツのチャートソフトにて作成

3.豪ドル/円相場:短期は下値リスクを残した状態。90.50円超えで終えれば下値リスクがやや後退。92円台で越週すれば“強気”に変化。中期は“弱気”変わらず

オーストラリアは石炭・鉄鉱石を輸出する資源国ですが、石油などのエネルギー関連は輸入に頼っており、インフレ率は依然として高い状態にあります。豪中銀はインフレ抑制のため、金融引き締め策を継続してきましたが、次回の会合(4月4日)では景気に配慮して利上げを見送ると見られています。

貿易相手国である中国経済が明るさを増してきたことは豪ドルにとって支援材料ですが、米国発の金融システム不安が完全に収束したと言い切れず、リスク回避の円買いが再び強まる可能性も否定できません。また、豪ドルの対米ドルでのトレンドも“やや弱気”の状態にあることから、豪ドル/円の上昇余地も限られる可能性が高いと予想しています。

直近の週足を見ると、陽線で切り返して上値トライの可能性に繋げています。足元での金融システム不安が後退したことから、反転、上昇に転じていますが、2020年3月に付けた59.91円を基点とする長期サポートラインAの下で推移していること、2022年9月に付けた98.60円を基点として上値を切り下げる流れBにも変わりないこと、さらには2022年12月に付けた87.03円を基点とするサポートラインCも下抜けた位置で推移しており、下値リスクがより高い状態に変わりありません。

このCは90.50~60円に、Bは91.20~30円にあり、これらをしっかり上抜けて越週するまでは下値リスクがより高い状態です。

また、92円台を回復して越週しない限り、“強気”に変化しません。現状は3月24日に付けた86.06円で短期的には底打ち、反転の流れにありますが、87.00~10円の抵抗を割り込んで越週した場合は、再び下値リスクが点灯して85円方向への下落リスクが生じます。

週足ベースで見た上値抵抗は、89.50~60円、90.50~60円、91.20~30円に、下値抵抗は87.00~10円、86.00~10円、84.80~90円にあります。31週移動平均線、62週移動平均線は91.99円と91.28円に位置しており、中期トレンドは“豪ドル弱気”の流れに入っています。

【図表3】豪ドル/円(週足)        
出所:Bloombergのデータをもとに株式会社ワカバヤシ エフエックス アソシエイツのチャートソフトにて作成

4.英ポンド/円相場:短・中期ともに下値リスクを残した状態。166円超えの越週で一段の上昇へ。163.00円割れで“ニュートラル”に変化。158円割れの越週で“弱気”に変化して一段の下落へ

金融引き締め策を継続している英国ですが、インフレの高止まり傾向が続いており、鎮静化は見えない状態です。

また、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)への加盟により関税の抑制効果はありますが、経済への貢献度は低いと見られています。米国の利上げ休止観測が高まる中で、英国は金融引き締め姿勢を変えておらず、金利差を意識して対円のみならず対米ドルでも底堅く推移していますが、経済は底這い状態でファンダメンタルズ面では売り材料が多い状況です。

週足を見ると、2020年3月に付けた124.10円を基点として下値を切り上げて来た中・長期的なサポートラインAを値動きの中で下抜けた位置で推移しており、中期トレンドは“英ポンド安/円高”の流れから抜け出していません。このAは166.00~10円に位置しています。

また、2022年11月に付けた172.13円を基点として上値を切り下げて来たレジスタンスラインBも上抜けきれておらず、下値リスクを残した状態です。この週足の上値抵抗は165.00~10円にあります。従って、165円台で越週した場合は、Bを上抜けて上値余地が拡がる可能性が点灯し、166円台に乗せて越週した場合は、Aを上抜けて中期トレンドも“英ポンド強気”に変化する可能性が生じます。

逆に、上値トライに失敗して163.00円割れを見た場合は“ニュートラル”な状態に戻します。この場合は160.00円前後にある強い横サポートをトライする動きが強まり易くなります。さらに可能性がまだ低いと見ますが、158円を割り込んで越週した場合は、サポートラインCも下抜けて、新たな下げトレンド入りの可能性が高くなります。

週足の上値抵抗は165.00~10円、166.00~10円、168.00~10円に、下値抵抗は163.00~10円、161.00~10円、160.00~10円、158.00~10円にあります。31週移動平均線、62週移動平均線は162.75円と161.73円に位置しており下値を支えています。

【図表4】英ポンド/円(週足)    
出所:Bloombergのデータをもとに株式会社ワカバヤシ エフエックス アソシエイツのチャートソフトにて作成